第25話 蒼き修羅のプレア
~ルイーズ~
それは一目惚れだった。
まだ私も姫さまも幼かった頃だ。
〈戦士〉たる母に連れられて、王城に挨拶に行ったときだった。
謁見の間で、陛下の隣に退屈そうに座る彼女を見て、私はただただ、目を奪われた。
それは落雷に打たれたような衝撃だった。
幼い当時の私は、何か姫君の逆鱗に触れて、本当に雷の精霊の洗礼を受けたのかと錯覚したほどだ。
それでも今思えば、あのときはまだ他の者たちと同じように、ただ姫さまのあまりに美しい外見に見惚れていただけに過ぎない。
ただその日から、私は彼女の目に触れたい一心で、それまで全く関心のなかった武術の鍛錬に精を出した。まもなく〈戦士〉になって王城に入り、さらに腕を磨いた。磨き続けた。
別に戦いには興味はなかった。それは今でもそうだ。
〈戦士〉の中でも序列が上がるにつれて、姫さまのおそばに仕えることも増え、彼女との交流の機会も増えた。
次第に姫さまの内面に触れ、その人柄に触れ、私はさらに、どうしようもなくあの人に惹かれて行った。
お転婆で好奇心が旺盛で悪戯好きで、いつも自信に満ち溢れていて。
純真で正義感が強く聡明で、それでいて少し頑固で。
月と星が好きで、花と動物が好きで、人が大好きで。
そして誰にも優しく慈愛に満ちた人だった。
私はただ、姫さまに見てもらいたかった。
できることなら褒められたかった。
その一心で、私はさらに鍛錬を積んだ。
気付けば母上もキロンもマルティナさまも超え、私は〈戦士〉の筆頭となっていた。
別に、強ければ姫さまの愛を勝ち取れると言うような安易なものではない。
そのような慣習もない。
けれど、私はそうでもなければとてもあの人の隣に並べないと思った。
そして勝手に、王国で最強の〈戦士〉となったとき、想いを告げようと願掛けをした。
他の多くの者も、姫さまを好いているのは知っていた。
当然だ。
彼女には運命すら変える力がある。
本来なら生涯恋などしない定めの男であっても、彼女には恋をする。
彼女にだけは、恋をするのだ。
幼い頃からの我が友キロンも。
けれど、これだけは。
これだけは、譲れなかった。
他の何を諦めたとしても。
私が〈戦士〉の筆頭となり軍事総長の任を与えられたあの日。
ちょうど今日のような十六夜月の下で、私は姫さまに想いを告げた。
溢れる想いに言葉がまるでついて来ず、それはそれは、我ながら不器用でへたくそな告白だった。
けれど、姫さまは、私の拙い想いを受け止めてくれた。
受け止めて、心から喜んでくれた。
「うれしい」と。
——その日から私は、姫さまのためだけに生きている。
「オオオオオオオオオォォォォォォオオオオッ!!!」
長大な斧槍の一薙ぎで、敵を五、六人吹き飛ばし、私は蒼い血を吐き散らしながら咆哮を上げた。
もはや指一本動かすだけで、全身から血が噴き出る。
今、この街を見て、姫さまはどれほど哀しむことだろう。
姫さまのせいではない。
断じて姫さまのせいではないのに。
彼女は優しかっただけだ。
ただ、優しすぎただけだ。
しかし姫さまのその優しさが、人間というバケモノを招いてしまった。
「姫さま!私は……!」
四大元素精霊の爆裂魔法で敵の群れを爆砕したところで、虚空に向かって私は叫んだ。
あなたに伝えたい。
ここで果てる前に。
しかし、私の魔法が巻き起こした爆煙の向こうから、新たな敵影が出現する。
それは今までの兵たちとは明らかに違った。
——敵将。
侵略者たちの、指導者だ。
人間とは思えぬほどの覇気を纏っている。
私は目を閉じ、潰れた肺を酷使して深く息を吸った。
そして瞠目する。
「聞け!運命の死神よっ!!——私はまだ死ねぬっ!死ぬわけには行かぬのだ!!」
私はまた吠えた。
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