第4話 田中、皇居直下ダンジョンに向かう
――――二日後。
皇居直下ダンジョンアタック、当日。
鍛冶師の志波さんに剣を研いでもらったり、星乃家でご飯をごちそうになるなどして準備を十分にした俺は、皇居直下ダンジョンの側までやって来ていた。
今日、再び俺はあの因縁深いダンジョンに潜る。
少しは緊張するかと思ったけど、意外なほどに心は平然としている。七年前にダンジョンに潜った時はかなり緊張していたはずだけど……少しは成長できているんだろうか。
「あ、シャチケンだ!」
「頼むぞシャチケン!」
タクシーを降りると、たくさんの人が俺に気づいて声をかけてくる。
すでにニュースで俺がダンジョンに潜ることは伝わっている。この二日間配信はしていなかったが、SNSでたくさん応援の言葉をもらっている。
このダンジョン攻略は日本だけじゃなく世界が注目していて、その様子は全世界に同時に配信される。応援の声には海外からのものも多かった。
たくさんの人の声援を受けながら、ダンジョン前に作られた作戦本部にたどり着く。
そこには仮設テントがいくつも建てられていて、魔物対策省の職員が忙しなく動き回っている。
他にも腕利きの探索者が何十人も集められていて真剣な表情をしている。いつでも戦えるって感じだ。
「おや、来たね今日の主役が」
「え?」
突然声をかけられそっちを向く。
するとそこには赤い派手なドレスを着た女性がいた。俺はその人の顔に見覚えがあった。
「九条院さん、お久しぶりです。あなたも来ていたのですね」
「ええ。今回も『地上防衛班』だけどね」
そう言って彼女、九条院朱音さんはニッと勝ち気な笑みを見せる。
九条院さんは俺の師匠である橘希咲さんと親友で、一緒にダンジョンに潜り活躍していた。
その魔法の腕は国内トップクラスであり、単純火力なら他の追随を許さないと言われていた。
ついたあだ名は『火力女帝』。優れた実力の探索者だ。
「九条院さんが地上を守ってくれるなら心強いです。こっちはお願いいたします」
「ええ、地上は気にせず戦いなさい。私と旦那たちで守り抜いて見せるわ」
そう言って九条院さんはクイと顎で後方を指す。
そこには高そうなスーツに身を包んだ十二人の細マッチョがいた。彼らは俺の視線に気がつくと、ニコッと笑いながら筋肉を強調するようなポーズをする。芸人かこの人たちは。
「旦那さんたちは今回も一緒なんですね。ていうか少し前に会った時より増えてません?」
「彼らは全員頑丈な覚醒者よ。愛の力で私を守ってくれるわ」
九条院さんは旦那さんの数に対してはなにも言わない。もはやそのことは常識で今更答えるほどのことではないんだろうな。
九条院さんが言った『地上防衛班』は、名前の通りモンスターの侵攻から地上を守る役目を持っている。
攻略班がダンジョンに潜れば、中のモンスターたちは活発化し暴れまわる。そうなると一部のモンスターは地上に出て来てしまう。そのモンスターたちを討伐し、地上を防衛するのが彼女たちの仕事ということだ。
いくらダンジョンを破壊できても、その間に地上が壊滅してしまっていては意味がない。防衛班も非常に重要な役目を担っているのだ。
「本当は私も中に入りたかったけど……私の機動力では足を引っ張ってしまうからね。希咲の仇はあんたに託したよ」
「はい。任せてください」
俺は九条院さんをまっすぐに見ながらそう返す。
この戦いは俺だけのものじゃない。あの事件で傷ついた全員の戦いなんだ。中に入って戦えない人の分も、俺たちは戦わなくちゃいけない。
そう思っていると、九条院さんが俺を見ながら「ふふっ」と笑う。
「いい目をするようになった。希咲もあんたを誇りに思っているだろうね」
「はは、そうだといいんですけど」
「間違いないよ。あ、そうだ。私は行けないけど、私よりずっと頼りになる人が同行してくれるから安心しな」
「九条院さんより頼りになる人?」
そういえば帰還者以外にもう一人誘うって天月が言ってたな。その人のことか?
その誰かはまだ公表されてないけど、九条院さんはその人を知っているみたいだ。いったい誰なんだろう。
「ま、行けば分かるさ。頑張ってきな」
「はい。それではまた」
九条院さんに見送られ、俺は『地下攻略班』の集合場所に向かう。
ダンジョンの入口の近くに作られたその場所には、既に中に入るメンバーが集まっていた。
「お、来たなまこっちゃん。今日は頑張ろうな」
まず話しかけてきたのはイセケンさん。
こんな大仕事を前にしているのに、気負っておらずいつも通り。さすがトップDチューバーだ。
イセケンさんに挨拶を返し、少し雑談していると俺たちのもとに一人の人物がやって来る。
「久しいですな田中殿。ご壮健なようでなにより」
そう話しかけてきたのは、身長2メートルを超す大男だった。
僧侶が着るような袈裟を着ていて、首には巨大な珠の数珠をかけている。
彼もまた、共に皇居直下ダンジョンに潜り、そして生還した『帰還者』の一人だった。




