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第25話:サラマンダー商会

 市場の大通り――


「――ここね」


 サラマンダー商会、本部。


 重厚な建物の前には、すでに武装した警備がずらりと並んでいた。


「正面は無理ね」


「任せて! 姐さん!」


 テオが発案した。


 彼の案に頷き、あたし達は建物の裏手へ回る。


「行くよ――【猫足】!」


 次の瞬間、テオの姿が消えた。


 いや――速い。


 壁を蹴り、柱を蹴り、まるで重力を無視するように駆け上がる。


 そして――音もなく屋根へ。


「こいつで――」


 短剣が窓ガラスに突き立つ。


 静かに割り、内側から鍵を開けた。


「次は姐さんの番!」


「ええ――物質変換」


 その場の雑草をナイフで刈り取る。


 瞬時に錬金グローブで繊維へ変換。


 即席のロープを作り、テオへと放り投げる。


「これで入れる!」


 片手で受け取り、窓枠に結びつけることで侵入経路ができた。


「行きましょう」


 あたしたちはそれを伝い、室内へ侵入する。


「【検視アナライズ】……地下です。強い魔力反応――」


 ケビンが魔術を展開する。


 彼の脳裏に建物の構造が浮かび上がる。


 そして個室の床――隠された地下への入り口を探り当てた。


「間違いなく、ここです」


「行くわよ」


 あたしが先頭に立ち、廊下を駆ける。


 そして目的の部屋へとたどり着いた。


「【開錠】!」


 テオが魔術で鍵を解く。


 部屋の床には、隠し扉。


 だが――


「侵入者だ!」


 警備兵が雪崩れ込んできた。


「っ――!」


 一歩前に出る。


「2人とも、先に!」


「姐さん!?」


「行って!」


 迷いを断ち切るように叫ぶ。


 テオとケビンは頷き、地下へと滑り込んだ。


 あたしは振り返る。


 押し寄せる警備兵。


 深く息を吸う。


「――【正拳突き】!」


 一撃で一人を吹き飛ばす。


 だが数が多い。


「くっ……!」


 脚のベルトの試験管を抜く。


「【試薬投与ケミカル・ウェポン】――【白霧】!」


 叩き割る。


 次の瞬間、白煙が一気に広がった。


「な、なんだ……!?」


 脚の試験管は、残り3本――


「今のうちに!」


 煙に紛れ、地下へ滑り込む。


 内側から扉を閉めた。


「ミストさん!」


「姐さん!」


「大丈夫。追っては来ないわ」


 短く告げ、立ち上がる。


「行きましょう」


 地下空間――


 広がる空間。


 そして。


「……待ってたぜ」


 立ち塞がる二つの影。


 バッシュとセーラだ。


「ダイアモンズ!」


「……この前のガキか」


 セーラの視線が、ケビンを射抜く。


「殺し損ねたのは失敗だったな」


「だから言ったろ?」


 バッシュが大剣を肩に担ぐ。


「こうなりゃ全員ここで始末だ」


「あんた達……何が目的なの」


「雇われさ」


 軽く笑う。


「金のためなら何でもやる」


「何が金だッ!!」


 テオが叫ぶ。


「父ちゃんと母ちゃんを返せ!!」


 空気が変わる。


 セーラがわずかに目を細めた。


「……なるほど。被検体の子供か」


「だったらなんだ!」


「教えてやろう」


 短剣を構える。


「魔物の魔力を、人間に“注入”する。それが私の役目だ」


 ――静寂。


「……は?」


「失踪者は全員ここだ。お前の親もな」


 テオの呼吸が止まる。


「……っ」


「気づいていたくせに」


 今度はケビンを見る。


「自分が可愛いから、黙っていたんだろう?」


「……違うっ!」


 ケビンの声が震える。


「ごめんなさい。僕がもっと早く伝えていれば……」


「あんたのせいじゃない」


 あたしは一歩前に出た。


「テオ。その女は仇よ」


「……分かってる」


 低い声。


 決意が宿る。


「――来なさい」


「望むところだァ!!」


 バッシュが突っ込んできた。


 一直線。


 迷いのない殺意。


「【三戦サンチンの構え】――」


 呼吸を整える。


 踏み込む。


「喰らえ! 【イビルスラッシュ】!!」


 振り下ろされる大剣。


 闇の力を感じる。


「っ――!」


 咄嗟に隠し持つナイフで受ける。


 キィィン!!


 衝撃。


 腕が痺れる。


(重い……!)


 魔力がない。


 それだけで、ここまで差があるのか。


「ははっ! 軽いなァ!!」


 押し込まれる。


 体が沈む。


「……っ!」


 流す。


 ギリギリで軌道を逸らす。


「甘ぇ!」


 追撃。


 連撃。


 防ぐだけで精一杯。


「くっ……!」


(このままじゃ押し切られる――!)


 懐に手を突っ込む。


 取り出すのは魔物の核。


「【吸魔アブソーブ】――!」


 触媒から魔力を抽出――


 魔力が流れ込む。


 全身が熱を帯びる。


「【硬化の身】……!」


 次の一撃を――腕で受ける。


 ガンッ!!


「何ッ!?」


 弾いた。


「【魔弾・正拳突き】!」


 腕を振るう。


 魔力の弾丸で牽制――


 一瞬の隙をつき、近付く。


「【浸透発勁しんとうはっけい】――!!」


 掌を胸に当てる。


 ――放出。


 内部から破壊する衝撃。


 鎧越しに叩き込む。


 ドンッ!!


 鎧の内側から、鈍い音が響いた。


「ぐっ……!?」


 バッシュの膝が沈む。


(やった――!)


 だが。


「……効いたぜ」


 ゆらりと、立ち上がる。


 鎧の隙間から黒い魔力が滲む。


「だが、この程度かァ……!」


 腕を掴まれる。


 ミシリ、と骨が軋む。


 うっ――!?


 (……まずい)


 本能が、そう告げていた。


 その瞳が――黒く濁る。


 一方。


「くっ……!」


 テオはセーラと斬り結んでいた。


 速い。


 鋭い。


 だが――


「当たれば終わりだ」


 短剣が閃く。


「魔力を流し込み、魔物化――」


 ギリギリで避ける。


「あるいは……死」


「当たればの話だろ! 【脱兎】!」


 速度を上げる。


 壁を蹴り、天井を走る。


「無駄だ」


 刃が迫る。


 マントが裂ける。


「っ……!」


「お前も同じ目に遭わせてやろう」


 セーラは更に追撃する。


(このままじゃ……!)


 押されている。


 長引くほど劣勢になる――。


 その時。


「僕がやる!」


 ケビンが叫ぶ。


「【事跡チェイサー】!」


 もう臆したりしない。


 軌道が見える。


 未来の動きが線になる。


「これなら……!」


 踏み込む。


 その瞬間――


「【嵐斬り】!!」


 無数の黒い斬撃。


「終わりだ!」


 迫る死。


「【検視アナライズ】! 全部見えてる!!」


 ケビンが叫ぶ。


 その声は、もう震えていなかった。


「右、上、次は左!!」


「――任せろ!」


 テオが動く。


「【乱風双牙】!!」


 双剣が舞う。


 風が斬撃を切り裂く。


「なっ……!?」


 すべて防いだ。


 そのまま――距離を詰める。


「しまっ――」


「2人の仇だ!」


 一瞬、両親の顔がよぎる。


「【拳影突き】!!」


 慕う彼女の技を模した彼自身の型――


 予測不能な軌道でセーラの懐に入り込み――


 ドゴッ!!


「が……っ!」


 セーラの身体が宙に浮く。


 一瞬、時間が止まったように見えた。


 短剣が滑り落ち――そのまま叩きつけられる。


「……やった」


 セーラは――動かなかった。


「仇、討ったよ……」


 涙がこぼれた。


 その瞬間。


 ――ドンッ!!


「姐さんっ!?」


 振り返る。


 ミストが壁に叩きつけられていた。


「うっ……ぐっ――」


 かろうじで防御したようだ。


 だが、著しく消耗している。


「……え?」


 バッシュが歩み寄る。


 身に纏う鎧から、黒い魔力が、じわりと広がる。


 それは――侵食だった。


 鎧が黒く染まっていく。


「次は――お前らだ」


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