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第11話:扇動者 ベケット

 姿を消したままのコモエディアと合流し、灯台にやって来た。


 組合を爆破した首謀者――ベケットがいる。


(ここだよ。連中が立てこもってるのは)


 灯台の入口は固く閉ざされ、乱暴に打ち付けられた板で封鎖されている。


「……灯台を占拠されたら、船が出せないわね」


 次の目的地にも行けない。

 あたしは拳を軽く打ち合わせ、そのまま前へ踏み出した。


「――おっと、そこまでだ!」


 見張り窓から顔を出したのは、筋骨隆々のヒゲ面の男。


「あんたがベケットね! 組合を爆破したのもあんたでしょ!」


「フン……オレ達は目覚めたんだよ。奪われ続けるくらいなら、全部壊した方がマシだ」


 腕を組み、見下ろしてくるその態度――気に食わない。


「だからって爆破していい理由にはならないでしょ!」


 組合で見た負傷した人の顔を思い出す。


 誰かが傷つくのは嫌――。


 ふと、“あの時”の光景が脳裏をよぎった。


 ――振り払う。

 放ってはおけない。


「話し合いで解決しろってか? とっくにしたさ。だが奴らは困窮する組合員をよそに会食ばかり……」


 ベケットは拳を握りしめる。


「現場の危機意識を理解しちゃいねえ。他に方法はねえんだ!」


 彼の言うことはもっともだ。


 立場の弱い者の反抗。

 理解はできる。――だけど。


「だったらこっちも武力行使して、文句は言えないわよね?」


 あたしは構える。


「はあああっ!!」


 魔力を込めた【正拳突き】が、封鎖された入口を粉砕した。


「トウマとナキリ、呼んできて!」


(面白くなってきたねえ!)


 コモエディアは浮足立って去って行った。


 あたしは単身、灯台へ踏み込む。


「……よぉ、派手にやるじゃねえか」


 やっぱりね。

 1階には、決起者の集団が待ち構えていた。


「へへっ……女かよ。平坦すぎて男かと思ったぜ」


「……言い残すことはそれだけ?」


 拳を鳴らす。


「【瞬身】――からの【手刀】ッ!」


 一瞬で距離を詰める。

 最速の一撃が男の胸を突き、吹き飛ばした。


「がはっ!?」


 床に叩きつけられる男。

 その光景に、周囲が一瞬で静まり返る。


「ひ、ひるむな! やれぇ!」


 次の瞬間、四方から一斉に襲いかかってきた。


 ――遅い。


 飛び込んできた男を払い、手刀。

 背後の腕を蹴りで外し――回し蹴り。


 まとめて吹き飛ばす。


「ぐあっ!?」


 さらに腕を掴んだ男を逆に締め上げ――


「――はっ!」


 最後にアッパー。


 骨の軋む音とともに、男が崩れ落ちる。


「……残りはあんた一人」


「な、なんなんだその強さは……!」


 残った男は後ずさる。


「別に――ただ、負けず嫌いなだけよ」


 昔は試合に負けて泣いてた。

 でも今は違う。


「――成敗っ!」


 【正拳突き】が顔面に炸裂し、最後の一人も沈んだ。


 転がった鍵を拾い、階段へ向かう。


「……下はやられたか。カルボ、行け」


 上から声。


 4階へ上がった瞬間――


「ここは通さん」


 壁のような巨漢が立ちはだかった。


「ぬおおおおっ!!」


 巨漢の男は腕を振りかぶる。


「甘い!」


 低く潜り込み、アッパーを叩き込む。


「アァッ!?」


 怯んだ隙に膝蹴り。

 そのまま柵へ叩きつける。


 ――バキィッ!


 柵が壊れ、巨体がそのまま下へ落ちていった。


 軽く息を吐き、最上階へ。


「……ここまで来るとはな」


 待っていたのは、ベケットと取り巻き達。


「あんた達こそ大したことないじゃない」


「ほざけぇ!!」


「いい、オレがやる」


 ベケットが前に出る。


「てめえはオレ一人で十分だ!」


 ――来る。


「【瞬身】――!」


 突撃。


「甘ぇ!」


 腕を掴まれる。


(やっぱり……強い!)


「その動き、見えてるぜ?」


 続く蹴りも止められ、反撃。


「がっ……!」


 顔面に拳。

 視界が揺れる。


(重い……! 一撃が違う!)


「まだよ……!」


 血を拭い、構え直す。


「【魔風・連脚】!」


 風が刃となって襲いかかる――が。


「【マッチョガード】!」


 筋肉が膨張し、すべてを弾いた。


(硬すぎ……!)


「次はこっちだ!」


 猛ラッシュ。


 顔、腹、胸――容赦なく叩き込まれる連撃。

 骨が軋み、呼吸が潰される。


「がっ……はぁっ――」


 膝が崩れ、床に叩きつけられる。


「……いい腹筋だ。存分に語り合いたかったが――」


 蹴りが腹に突き刺さる。


 息が止まる。


 肺が焼けるみたいに痛い。


 視界が揺れる。


 それでも、倒れたくないのに――身体が言うことを聞かない。


「もういい。好きにしろ」


 仲間が迫る。


(……ここまで、か――)


 その時だった。


「――【絶叫のパワーコード】!!」


 轟音。


 雷が落ちたみたいな爆音と共に、空気そのものが震えた。


「なっ――!?」


 音が“衝撃”になって、決起者達をまとめて吹き飛ばす。


 煙と粉塵の向こう――


「……待たせたな」


 ギターを肩に掛けたトウマが、ニヤリと笑った。


「無茶しすぎよ、ミストちゃん」


 その隣で、ナキリがふわりと手を振る。


「……二人とも……!」


 胸の奥が、少しだけ軽くなる。


「タイミングはあってたかな?」


 コモエディアも最後に現れた。

 ギリギリ間に合ったおかげで助かった。


「魔王軍幹部!? なぜここに……」


「おいおい、ずいぶん派手にやられてるじゃねえか」


 トウマは床に転がる敵を軽く蹴飛ばしながら前に出る。


「ここからは――ロックにいくぜ」


 ギターを構え、弦を叩く。


「【虚無のノイズキャンセリング】」


 ――ジャァンッ!!


 不協和音。


 耳障りなはずの音が、空間を“歪ませた”。


「ちィ!? 魔力が……!」


 ベケットが顔を歪める。


 魔力の流れが乱され、術式が霧散していく。


「魔術はリズムだ。乱せば終わりだろ?」


 さらに一歩踏み込む。


「【スクラッチ・ピック】!」


 指の間に挟んだピックが閃き、斬撃のように走る。


 ――だが。


「甘ぇ」


 ベケットの姿が消える。


「トウマ、後ろ!」


「――っ!」


 振り向くより早く、拳が振り下ろされる。


 ドゴッ!!


「ぐっ……!」


 トウマが床を滑る。


「【トリック】さ。――急所だけはズラす」


 ベケットは不敵に笑う。


「トウマ……――」


 ナキリは小さくため息をついた。


 あたしは彼女の豹変に息を呑む。


 その瞳は、推しを傷つけた相手への怒りに燃えていた。


「――来て」


 指先を振る。


 すると空間が裂け、次々と現れる。


 黒くて、小さくて、どこか歪んだ存在――


「【ぴえん・デビル】」


 数十体のピンク色の小悪魔が、空間を埋め尽くす。


「行って」


 その一言で、一斉に襲いかかる。


「チィッ! 雑魚が!」


 ベケットが蹴散らす。


 だが――それが狙い。


「【ラブ♡バインド】」


 足元から、黒いリボンが絡みつく。


「なっ――!?」


 拘束。


「逃がさない」


 さらに。


「【ホリック・サバト】」


 ――霧。


 甘くて、狂気じみた魔力の霧が広がる。


「推しへの愛はね……人を狂わせるの」


 視界を奪い、感覚を狂わせる結界。


 戦場そのものを“ナキリの舞台”へと変える。


(今……!)


 霧の中。


 あたしは息を止めて走る。


 見えない。

 でも――魔力で察知できる。


 ベケットの位置。


 呼吸。

 気配。


 強力な魔力が目印だ。


「――そこっ!」


 懐へ潜り込む。


「またその技か!」


 ベケットが迎撃する。


「一度見た魔法なんざ通じねえ!」


 ベケットが吠える。


 ――でも、遅い。


 あたしの手は、すでに届いてる。


「【浸透発勁しんとうはっけい】――!」


 触れた瞬間。


 すべてを、内側へ叩き込む。


 ――遅れて、爆ぜた。


「が……っ!?」


 肉体は無傷。


 だが内部が破壊される。


 膝が折れ、巨体が崩れる。


「……終わりよ」


 ベケットはそのまま、意識を手放した。


「……やった、のね」


 ナキリが小さく息を吐く。


「……決まりだな」


 ようやく復帰したトウマも、ギターを下ろした。


「キミに屈したね。……まあ、及第点だ」


 コモエディアが口を開いた。


「罰を与えずに済んだよ」


 苦笑する。


 でも――


 それだけで――まだ、立っていられた。


 やがて、組合員達がなだれ込んできた。


 拘束されていく決起者達。


 灯台は、取り戻された。


「おお! あなた方が!」


 外に出ると、受付の男が駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか、その怪我……!」


「問題ないわ。それより」


 あたしは軽く肩をすくめる。


「ちゃんと補償は出しなさいよ。あの人達にも生活があるんだから」


 男は一瞬言葉を失い――


「……はい」


 深く頭を下げた。


 *


 夜。


 部屋のベッドに腰掛けた瞬間、どっと疲れが押し寄せる。


「……じっとして」


 ナキリが傷の手当てを始める。


「ほんと、無茶しすぎ」


「……ごめん」


 消毒がしみる。


「ムカツクほど強かったけど、全部が間違っていたとは思えない」


 あたしは頷く。


「それでも止めるしかなかった」


「だからって! 一人で突っ込むなんて……」


「……うん」


 否定できない。


「私はね、ああいうの怖いの。だから無理しない」


 ナキリは包帯を巻きながら言う。


「でもミストちゃんは……無理してでも行くでしょ」


「…………」


「だから、せめて一緒にいさせて」


 少しだけ、声が震えていた。


「……ありがと」


 小さく答える。


 トウマは壁にもたれながら笑った。


「ま、無茶はほどほどにな。次は最初から呼べよ」


「……善処するわ」


 手当が終わり、その日は就寝することにした。


 ベッドに潜り込む。


 体中が痛い。


 でも――


(……負けなかった)


 それだけで、十分だった。


「……それでも、見過ごせない」


 ふと、過去がよぎる。


 良かれと思ってやった。

 ――誰も、ついてこなかった。


 あの時みたいには――もう、ならない。


「……おやすみ」


 呟いた瞬間。


 意識は、すぐに闇へ沈んでいった。

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