バイト巫女とゲームセンターの怪異①
「こんにちみこみこ~! 皆の巫女ちゃん、キノでーす! はくしゅー!」
パチパチパチ。
キノちゃんが元気よく、一人カメラに向かって拍手する姿を見た啓太が若干引いた顔をしていた。
うん。突然このテンションになられると、ちょっと驚くよね。……私は動画をよく見ているから、本当にキノちゃんなんだっていう不思議な感じだけど。
今のキノちゃんはお店の人に更衣室を貸してもらって巫女の衣装に着替えていた。鮮やかな緋袴ががよく似合う。
金色の長髪は結ぶことなくそのまま流していて、それがまたカッコイイ。
「はい。今日はお化けが出るゲームセンターにきました! このゲームセンターは昭和からやっている昔からやっているゲームセンターで、ちょっとレトロな感じの場所だよ。店内はこんな感じ。ただ、いつもなら幽霊とかいるなーって分かるんですけど、ここはちょっとわかんない感じなんだよねー。ここに幽霊が出るという話がでたのは——」
キノちゃんはカメラに向かって、ここで起こった奇妙なことを語る。
店長さんには先ほどキノちゃんが話をして、お客様を写さないという条件での撮影許可をもらっていた。ついでにこれから幽霊が出てくるかどうかを試すので、念のため外に移動して欲しいと話、店内に居るお客様にも外に出てもらった。今いるのは、店長さんと私達だけだ。
「――悪人を成敗するのはいいけれど、行き過ぎてそうじゃない人まで怪我をするようになると困るので除霊を依頼されました。隠れている状態だと除霊できないので、これからちょっと刺激します! ぱふぱふっ! 私だけだと上手くいくか分からないので、今日は現役女子中学生の巫女仲間が助っ人してくれます! あ、顔とかの映像は一切NGだから、誰かなって調べようとしないでね。ちょーいい子で、さらにめっちゃ霊能力強くて、皆のために頑張ってる子だから。ちなみに、義務教育中の子を盗撮なんかした時はキノちゃんがもれなく豚箱に送ってあげるから、よろしくみーこ♡」
超いい子と言われた私は少し照れくさくてもじもじしてしまう。
「……キャラづくり凄いな。ちょっと鳥肌立った」
「それは失礼だよ……。まあギャップは大きいかもだけど」
キノちゃんは普段は明るいけれど、結構真面目系だと感じた。このアイドルみたいなテンションは完璧に動画用のキャラである。
「キノちゃんの場合、子供向け番組みたいにやってるから。あ、でも。巫女としての力は本物だよ。キノちゃんが祓った後は、綺麗になっているから」
「へぇ。キノちゃんのお祓いってどうやるんだ? 今日はアレつかうって言ったけど。立花とはやり方違うんだよな? 立花はどうやってるんだ?」
「私は自分の元に引き寄せて、古雅が殴り倒すって感じかな……」
「殴る?」
霊験あらたかな鉄バットを、髑髏マークがついた派手なTシャツを着た金髪の神様が振り回していると言ってもよく分からないだろう。
私も何で祓えてしまうのかよく分からない。
「うん。私の目には殴っているように見える」
「思ったより物理だな」
「えーっと。キノちゃんは違うよ。キノちゃんはよく、九字切りしたり、金色の鈴を鳴らしたりして祓っているから、正統系」
正統系と言ってみたものの、どういう形が正しいお祓いなのかを私は知らない。でもキノちゃんが祓う姿はいつも凛として綺麗だと思っている。
画面越しだけれどキノちゃんが鈴を振ると、その場がキラキラと輝いているように見えた。コメントを見る限り、キラキラエフェクトが見えているのは私だけのようなので、たぶん霊力的な何かをみているんだと思う。
「リズムゲームで祓うのって正当系なのか?」
「じゃあ今日はゲームセンターにあるもので、お祓いをやってみたいと思いまーす! そしてそのあるものが、こちら! じゃじゃーん‼」
啓太がこそっと私に質問したタイミングで丁度キノちゃんも本日の祓い方についての説明を入れた。
キノちゃんが元気よく指を刺したのは、音楽に合わせて太鼓をたたくリズムゲームだった。事前に聞いたけれど、あまりお祓いとはむすびつかない。鈴と同じ、音を出すものではあるけど。
「……今回は正当系ではないかも」
そもそも正当系が何だと言われると、古くからある祓い方っぽいものを指すので、陰陽師とかが活躍した平安時代にはなかったリズムゲームでのお祓いは正当系ではないだろう。なら何系かと言われると……進化系? もしくは次世代系とか、新世代系とか? いい言葉が浮かばない。
「えー、何でリズムゲー? って思った人もいるよね? 分かる分かる。その気持ち。実はキノちゃんが最初にお祓いに目覚めたのが、和太鼓だったから気が付いちゃったんだよね。音って空気を震わせるじゃん? そこに消えろ~って念を込めると、幽霊にはクリティカルヒットで、うまく形をとどめていられないみたいなんだよ。私がよく使う鈴の原理と同じだよ。何で太鼓じゃなくて鈴でお祓いするのかって? 一回持ち運んだら分かると思うけど、和太鼓は結構重いし移動大変だから。あと、和太鼓って音が大きいから、下手すると騒音だって怒られちゃうんだよね」
キノちゃんが私達の疑問をカメラに向かって答えていく。
なるほど。音の振動を使った除霊だから、リズムゲーでも何とかなると。……なるの?
初めての挑戦なのでよく分からない。
「音系の除霊方法だと、ネットで有名になった『ビックリするほどユートピア!』って叫びながら尻を叩く奴もあるね。めっちゃウケたけど、あれも尻を叩く音がいい感じなんだと思うよ。あとはまったく暗い気持ちにならないのがいいと思う。やってみたけど、たぶん効いた。やっぱり悪さする奴って、負の感情に引き寄せられて増幅したりするんだよね。でもビックリするほどユートピアにはどこにも負の感情ないからね。リズムゲーも、楽しんでやるのがいいと思うよ」
「びっくりするほどゆーとぴあ? 知ってる?」
「一応。ネットで見たことは……」
ネットで除霊を調べていた時に出て来たけど、キノちゃんやったんだ。どこまで忠実にやったんだろ……。家でやったら母に気が狂ったと思われそうだし、古雅に見せたくないので、私は一度も挑戦していない。
「まあ、口での説明はこれぐらいで、実際にやってみた方が早いね。じゃあちょっと準備するね」
そう言って、キノちゃんは一度カメラを止めた。
そしてふうっと大きく息を吐く。
「と、言う感じで申しわけないんだけど、一緒に太鼓のリズムゲームやって欲しいんだけど……その格好だと後ろからの撮影だとしても制服出ちゃうしどうしようか。私の予備の巫女服だと、華那子ちゃんにはちょっと大きすぎるんだよね……」
キノちゃんは結構身長が高い。元々年齢が離れているというのもあるけれど、キノちゃんはモデル体型というやつなんだと思う。
「よければうちのコスプリの衣装貸しましょうか?」
コスプリ?
どうしようかぁと悩んでいると、話を聞いていた店長が代案を出してくれたが、コスプリが分からない。
啓太も分からないようで、なんだそれと言った顔をしている。
「えっ。いいんですか? ありがとうございます。助かります! じゃあ、華那子ちゃん衣装選ぼう」
「あの、コスプリってなんですか?」
「華那子ちゃんってプリクラはやったことある?」
「ないです。えっと、写真がシールになるものですよね?」
言葉としては聞いたことがあるし、クラスメイトが友達と撮ったものを貼っているのを見たことはある。
「そうそう。それの進化バージョンで、コスプレしながらプリクラを撮れるゲームセンターもあるんだよ。どれがいいかなぁ。制服から制服にというのも微妙だし、やっぱり無難なのはメイドかな。華那子ちゃんはどれがいい?」
……メイドが無難なんだ。
お祓いするメイド。冥途へ導くメイド……なんちゃんて。
自分がまさかメイドの恰好でお祓いをすることになるとは思わず、脳内でダジャレを言って現実逃避するが、現実からは逃げられない。
『華那子、見ろよ、特攻服があるぞ! これとかどうだ? おっ。こっちは、スケバンか?』
「メイド服にします」
何故か特攻服やロングスカートのいわゆるスケバンと呼ばれていた人が来ていたっぽい服と小道具に竹刀を見つけた古雅がテンション高く言うが、それはない。
しかしいざ更衣室でメイド服に着替えると……結構恥ずかしい。
慣れない短めのスカートがスース―して、心もとない。
「えっ。凄いかわいい! めっちゃ似合ってるよ」
カーテンを開ければ、真っ先にキノちゃんが褒めてくれたので、何とかその場に立っていられるけれど、正直、恥ずかしい以外の気持ちが湧かない。
「あの、本当に顔は出さないで下さい」
「うん。もちろんだよ。出せないのがもったいないぐらいだけど、変なストーカーが湧くと大変だしね。ほらほら、少年。ちゃんと褒めてあげないと!」
「痛っ! 何で俺が⁈」
私を褒めていたキノちゃんが、啓太の背中をバシッと叩いた。
「いや、お見苦しいので……無理して褒めなくて大丈夫です」
というか、恥ずかしいので、さっさと終わらせて着替えたい。
「見苦しくはないだろ。あー……うん。可愛いと……思う」
啓太は微妙に視線をさまよわせながらも褒めてくれた。可愛いと言われると、余計に恥ずかしくなる。
ただのお世辞だと分かっているけれど……ちょっと嬉しい。心臓がバクバクいっている。
「あ、ありがと……。き、キノちゃん。早くやりましょう」
「おっけー。張り切って行こう!」
恥かしくて逃げ出したいけれど、お祓いをするために着替えたのだから、やることをやらなければ脱げない。
なのでキノちゃんを急かし、私達は太鼓のゲーム機の前へ移動した。




