バイト巫女と巫女系動画配信者⑤
「じゃあ、また後でね!」
バスで移動してきたキノちゃんとは、駅前のゲームセンターで再度会うことになり、私は啓太と一緒に自転車で移動した。
最初は自転車に二人乗りする案も出たが、キノちゃんが二人乗りは法律違反だからやっちゃ駄目だし、タイヤに足をまきこんで大怪我することもあるからやめた方がいいと諭した結果だ。
金髪でフレンドリーだけど、キノちゃんは結構しっかりしている。
もしかした動画配信しているから、どこかで見られてネットで炎上するリスクがあるからかもしれない。
でも、見ず知らずの私を盗撮魔から守ろうとしてくれた上に役所まで一緒に来てくれたのだから、元々正義感も責任感もある人だ。ギャルとか不良と呼ばれる人のイメージとは結構違う。
私がちょっとギャルや不良を怖いという偏見の目で見ているだけで、実際はそういう親切な人が多いのだろうか?
「キノちゃんって、なんだか不思議な人だよね」
「ああ。演技してるっぽいよな」
独り言でつぶやいたつもりが、ばっちりと啓太には聞こえていたようで、ドキリとする。そ、そうだよね。一緒にいるなら声をかけたと思うよね。
いつも私が独り言をつぶやくと、古雅が気が向けばその話題に入ってくるぐらいだったので、ちょっときょどってしまう。
「え、演技? えっと? 見た目は派手だけど、二人乗りを辞めたから? 不良っぽくはないよね」
「それもそう。……悪い人じゃないんだよな。多分見た目が派手なのは、不良じゃなくて、周りに舐められないようにするためじゃね?」
周りに舐められないように?
それは想像していなかった回答だった。
高校生にもなると髪の毛を染める人は出てくる。校則で禁止されていたりもするけれど、夏休みだけでも染めるとか聞くと、やっぱりおしゃれのためかな? と思っていた。
その中でも茶色とかではなく、金髪に染めているのを見ると、ギャルとかと呼ばれる感じのお洒落で、先生の言うことをあまり聞かないイメージから不良と思ってしまったのだ。
だから舐められないようにというのは想像していなかった。
「えっと、つまり生き物が毒がないけれど、毒がある生き物に擬態しているみたいな感じ?」
「理系な返しだけど、まあ、そんな感じ。金髪ってだけで、ちょっと気が強くて怖そうってイメージになるだろ? なんか話していると思ったより真面目だし、そっちかなって」
確かに。
不良だったら、ちょっとした法律違反とか無視するイメージだ。二人乗りとか率先してやりそうな気がする。
ただそんな風に啓太が思ったのは、啓太も同じような考えで髪を赤く染めていたりするのだろうかと考えて、私は黙った。
擬態している生き物って、それが嘘だって知られたくないものだよね?
本当にそうなのかは分からないけれど、気軽に聞いていい話ではない気がする。
「そう言えば、見た目以外にも演技っぽいみたいな言い回しだったけれど、他にも演技していると思うの?」
「うーん。なんとなく、違和感があるんだよなぁ」
「そう言えば、名前も本名かって確認してたもんね」
キノちゃんを疑ってみているから、偽名とかじゃないかって疑っているのかと思ったけれど、元々何か違和感を感じて余計に疑り深くなっていたようだ。
とはいえ、私はいつも動画で見慣れているキノちゃんだから違和感があまり分からない。
「化粧もしていたし、あれかな? 巫女系動画配信とかしているから、キャラづくりとかしているのが違和感に感じたのかも」
「えっ。化粧してたか?」
「してたと思うけど?」
金髪だし化粧ぐらいするよねとは思ったけれど、ナチュラルメイクだったから意識して見ていないと分からないかもしれない。
そんなことを話して自転車を走らせていれば、ゲームセンターに到着した。やはり暑いので、自転車を置いて中で待つことにする。
自動ドアをくぐれば、冷たい空気が中から出て来た。
「あ゛ー。生き返る」
「本当に。そうだ。自販機でジュース驕るよ。ついてきてくれたお礼に」
「いや。いいよ。お茶持ってきたし」
「私の気持ちが収まらないから。お願いできないかな? それに私も買うし」
入口横の自販機を指さして頼めば、しぶしぶと言った様子だったが了承してもらえた。
「何飲む? 私はスポーツドリンクにするけど」
「じゃ、俺も同じの。汗かいたし」
私も制服をやめて、もう少し通気性がいい服にすればよかったと今更ながらに後悔している。ゲームセンター内は空調がきいていて、少し寒いぐらいだったので今は丁度いいけれど。
私がお金を入れてボタンを押せば、啓太が取り出してくれた。それを受け取り、脇で飲み始める。
「……ところで、幽霊、見えたりしてる?」
「ううん。とくに、これといったものはないかな。古雅はどう?」
『ここは雑念が多い感じだけど、これといった幽霊は見えないな』
「だよね……。古雅も幽霊は見えないって」
ひたすら機械のメロディーなどがうるさく響いているので集中しにくいが、パッと見た限りは幽霊だと思うような人はいない。
時間帯のせいなのか店内の人はまばらで、悪鬼もいるにはいるけれど、これなら駅の方が多い。
時折視界の前を影のようなものが過ぎていくけれど、これは幽霊というよりは昔の残像のような感じだ。
土地の記憶というものだろうか。幽霊でなくてもまれにそういったものは残っていたりする。古い建物とかで、利用された方の思い入れが強かったりするとあるのだ。ここは結構昔からあるゲームセンターのようで、店が元々古い感じだし、年季の入った機械もある。
古雅のいう雑念は、たぶんこの昔利用した人の残像だろう。
「そういえば、啓太君って、ゲームセンターとかよく行くの?」
「よくはいかないな。小遣いが足りなくなるから」
「それは確かに」
クレーンゲームとか、全く取れる気がしない。おこづかいでやろうと思うと、凄い金額を使ってしまいそうだ。
「あ、でも、ここの店って一回百円とか十円もあるんだ。思ってたより安いかも」
入口近くにあったお菓子のクレーンは一回十円と書いてあり、その隣のクレーンには『一回百円!初心者向け!』とポップが書いてあった。
「へぇ。折角だし、後でやろっか。今どきのゲーセンは、老人の方がよく行くって聞いたし、こういうので時間潰してるのかも」
「えっ。そうなの?」
お年寄りがゲーセン……なんだかイメージと違う。
「ボケ防止に丁度いいって聞いた」
「へぇ。そういえば、ここもけっこうご年配の方がいるね」
昼間は学生は学校だし、働いている人も行けない。
となれば、働いていなくて、お金があってという人が対象になる。
「あっ。二人ともごめんね。待たせて」
だらだらと暇つぶしな世間話をしていると、キノちゃんが到着した。
「ジュース飲んで待っていたから大丈夫です。あ、キノちゃんもいります?」
「私は大丈夫だよ。ありがとう。ところで、幽霊見えたりした?」
「それが幽霊は見えなくて。過去の映像的な影が通っていったりするのは見えるんですけど」
「えっ。過去視までできるの? すごっ」
「ち、違います!」
土地に焼き付いた雑念がチラチラと視界にうつるのは過去視とは全く違うので、私は慌てて首を振った。
「違うの?」
「そういうのじゃなくて、うーん……生霊のもっと薄い感じと言いますか。人の強い思念がその場所に焼き付いた感じというか……古い建物とかではよくあるんです」
「へぇ。私の目は感度がそこまでよくないから、知らない世界だなぁ。まあ、ひとまず、それだけ感度がよくてもぱっと見は幽霊はいないということね」
「はい。休眠状態で隠れているものまでは分からないんですけど……」
お礼で来たのに役立たず感が強くて肩を落とす。
「ダメ元だから全然いいよ。むしろ、厄介な依頼に付き合ってもらっちゃってごめんね。……そうだ。折角だから一緒に除霊やってみる? もしかしたら、その空気が嫌で、出てくるかもしれないし」
「えっ。ごめんなさい。私、除霊は無理です。いつも私がおびき寄せて、古雅が祓う形で仕事しているので」
除霊行為をすると霊が出てくることもあるとは聞いたことがある。多分、バ〇サンを焚くと、ゴ〇ブリ外に逃げ出てくるのと同じだろう。
弱ければそのまま消滅してしまう。
でも残念なことに、私は除霊が上手くできない。悪鬼程度なら手でつぶすこともできるけれど、幽霊のような意思がはっきりした思念体は無理だ。
「えー。そうかな?」
私が断ると、キノちゃんがグイっと私に顔を近づて来たので、反射的にのけぞる。ジッとまばたきもせず、顔を覗き込まれて息が止まった。まるで私の内面まで覗きこまれているみたいだ。私は目をそらすこともできず、黒い瞳を見返えす。
「ちょと。近すぎ。止めろって」
声も出せず固まっていると、啓太がキノちゃんの手を引っ張り、私から放した。
「ごめんごめん。本当に私の目は精度悪くて、集中しないと全然見えないの。でもそれだけ霊力があれば、問題なく除霊できるよ。それともしたくないって方?」
「したくない?」
「よく見える人は霊との距離が近すぎて、除霊をためらう人がいるって、前に役所の担当さんから聞いたことがあったの。でもその様子だと忌避感はなくて、本当にやったことがないって感じだね」
幽霊を祓うことにためらいがあるかと言われると、ない。
古雅が祓っているのはいつも見ているし、それをためらったことは一度もなかった。
「なら、一緒にやってみよ。丁度、ここならおあつらえ向きのものもあるし」
「ゲーセンでおあつらえ向きって何だよ」
啓太の質問に、キノちゃんはにこっと笑って奥を指さした。




