世界が変わった日
コン様の内なる世界から帰還した克崇と澄麗は、遠くの太平洋から昇る朝日を見て驚愕した。
明けない夜はどこに行った。
思わず夜を探してしまうほどに眩しい夏の太陽が朝を告げる中、コン様は言った。
「わし、本当はお天道様が見える時間のほうが好きなんじゃよね」
穀物神である御稲荷様とその使いとされる狐たち。穀物は太陽を受けて育つのだから太陽を好むのは当然だ。
常夜はあやかしたちを活発にさせるための演出だったらしい。
内なる世界では小さな狐の姿だったが、現実世界ではいまだに巨大な狐の姿をしているコン様を見て、克崇と澄麗は迷わずにふさふさの巨体にタックルをかました。
「モフモフだぁ。お日様の匂いがするなぁ」
「こ、これが……コン様のモフモフ……! ふぎゃふぎゃ!」
「しょうがないのぅ。気が済むまでそうするがいい」
存分にコン様のファサファサとモフモフを味わってから下山する。
彼らを待ち受けていたのは、ほんの少しだけ変わった世界だった。
ホテルのエントランスで出迎えた幼なじみたちは相変わらず狐耳が生えたままだったし(従業員や宿泊客も同様に狐耳が生えている)、朝食のバイキングには人間の列にあやかしたちが混じっていた。
コン様やあやかしたちを祓おうとする竜爾郎をなだめて朝食を摂り、それからチェックアウトの時間までみんなで眠った。
起きる頃には二日目の夏祭りが始まっていた。
そこでも、やっぱりあやかしと狐耳の生えた人間が一緒になって祭りを楽しんでいた。
「コッコッコ! すべてはわしの計画通りじゃ」
あやかしスタンプラリーのボーナスステージが終わっても、人類狐耳作戦とあやかし百鬼夜行だけは譲れない。
コン様は世界征服をこれっぽっちも諦めていないようだ。
県南の人々は突然生えた狐耳と、時を同じくして現れたあやかしたちに初めのうちは焦ったり怖がったりした。
県内や県外、果ては海外でも話題になるくらいの大騒動になったのだが、なんとも人の慣れとは恐ろしい。
「県南地域に足を踏み入れると狐耳が生えてきて楽しい」だとか「あやかしと一緒に遊べる」だとか「非日常体験ができる異世界っぽさがたまらん」だとか「食べ物も美味しいし、人もあやかしも優しいし、綺麗な名所がいっぱいあって最高」などと、県南を訪れる観光客が多く押し寄せることになった。
世界征服をするつもりが、県の観光大使に選ばれるのも秒読みなコン様である。
△ △
そして、世界が変わってから、少しだけ時が流れた夏の終わりのある日。
黒岩市にある黒岩蔵御駅の新幹線乗り場に彼らはいた。
大きな荷物を抱えた克崇と、麦わら帽子に白ワンピースの澄麗と、大型犬くらいの大きさに姿を変えたコン様が雑談を交わしている。
「ここの駅ってフォックスランドの狐の代表が『観光駅長』やってたところじゃろ。いいなー。わしも観光駅長やりたいぞ。駅の利用客を出迎えて『コッコッコ、普通の狐と見せかけてコン様でした!』って驚かせたいのじゃ」
「それ、いいね」
「今度蔵御に帰る時は是非そうして出迎えてくれ」
「任せとけ! って最初から知ってたら驚かないじゃろうが!」
「あははっ」と屈託なく笑い合う克崇と澄麗の頭の上には髪と同じ黒色の二等辺三角形の狐耳が載っている。狐耳は二人が笑うたびにピコピコと揺れた。
ホームに一際強い風が入り込む。
どうやら克崇の乗る新幹線が到着したらしい。
初めて見る銀色の鉄の塊にコン様は大興奮だ。
「ココーン! わしもこれに乗りたい!」
「ダメだよ」と澄麗に抱き付かれる形で引き留められた。
プシュと音を立てて扉が開かれると、克崇は一歩踏み出す。




