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魔界冒険譚  作者: ASOBIVA
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22話 魔王のマギアとは

部下のミテスがかつて悩んでいたことを、元魔王は知っていた。


今から6年前のこと、彼女から届いた報告書には

こんなことが記されていた。


転生の儀に成功したこと、転生者の子は現状健康そうであること。


そして、彼に名付けることをためらっていること。


転生者のことは極秘扱いだ。


周囲に動きを気取られないよう、返信はしなかった。


後の報告書には幼子への愛称であるロークで

呼び名を当面通すと書いてあった覚えがある。


(さすがに2年間もロークで通しているとは思わなかったが…)


ミテスが名付けをためらった理由が、

元魔王にはわかるような気がした。


たかが名前と言うかもしれない。


けれど言葉は力そのもの。


特に「名前」は、存在の在り方に強く影響を与える。


極端を言うならば。


悪と名付けるから、悪をなす。


善と名付けるから、善をなす。


生まれた時は無垢であっても、願われた通りに変わりやすくなる。


ミテスは、転生者である子供に情を持っていた。


きっと母親として、子供の将来を縛りたくないと考えたのだろう。


だから、あえて名を与えなかった。


それが彼の予想だ。


(でも、名前をきちんとやりたい)


名前は、相手の存在を認めるための言葉でもある。


だから生まれてきてくれてよかった。


生きていてくれてよかった。


そんな思いを、名前にしてやりたかった。


「俺が考えた名前なんだが…」


執事になった転生者の少年は、名を受け取るという。


どうか喜んでくれたらいい。


そしていつか自分の息子と名を呼びあう

関係になってくれたら。


きっと自分はそれだけで幸せだ。


転生の儀を行わせた魔王という立場を抜いてもなお

一人の人として、彼らのこれからの幸せを祈る。


「姓を『オロス』、名を『フィロ』」


「お前の新しい名前は、フィロ・オロス…どうだ?」


王様が示してくれた名を、僕はじわじわと噛み締めた。


(フィロ・オロス、僕の新しい名前…)


力強い響きだ。


どんな意味が込められた名なのか、僕は無性に気になった。


「フィロ・オロスって、どんな意味なんですか?」


僕の反応に、王様がフッと笑う。


「最初の反応がそれか!ううーん…」


少しだけ困ったように頬をかいてから彼は言葉を続けた。


「簡単に言えば、『すごい奴』って意味だよ」


深く考えすぎるな、と王様は言った。


気に入るかどうか、話はそれだけの問題だと。


もっと深い意味がありそうな気がしたのだが…

僕の考えすぎだったのかも知れない。


(すごい奴、フィロ・オロス。それが僕)


僕を形作る言葉が一気に二つも増えた。


血が沸き立つような感覚がふつふつとこみ上げてくる。


(僕は「執事」。名はフィロ・オロス…)


頭の中で繰り返せば、実感がやっと追いついてくる。



そう、今この瞬間から僕は、執事のフィロ・オロスだ!


僕の感情の昂りに、抑えきれなかった力が渦を巻く。


ぶわりと、色んなものを巻き込んで…


「おおーい!マギア発動してるぞー!」


王様に指摘されて、無意識にやらかしていた事に気づく。


僕は慌てて放出していた魔素を制御した。


空中に浮かんでいた家具や本は、制御した途端

元の場所へとゆっくり落ちていった。


(うわあ、やらかした…)


どうやら有頂天になるあまり、

僕は無意識に力を漏らしていたらしい。


王様だけではなく先生もいる前で

制御を失ったのは流石に恥ずかしい。


「ごめんなさい」


先生は特に気にしていないようだった。


はじめて僕の特殊型マギアを

見た王様は、興味津々な様子で尋ねる。


「ゲーテから聞いたけど、お前のマギアって

オール・パペッティアだったか。

『ものを操る能力』ってことで合ってるか?」


もう切り札として隠す必要もない。


頷いた僕は、自分のマギアについて二人に説明することにした。


「そうです!自分が動かしたいものを意のままに操作できます。

たとえば、こんな風に」


ちょうど手近にあった本を僕はふわふわと手の中で浮かばせた。


そのままもっと高くまで飛ばすことも加速させて

ぶつけることもできる。


(けど、本当はそれだけだ)


僕は、先生に尋ねるべきことを一つ思い出した。


「そう、そうです、先生!聞きたいことが」


浮かせていた本はいったん

机に置いて僕はマギアで手元にナイフを引き寄せる。


朝の勝負で使ったナイフだ。


元は3年前に先生から預かったものだが、

今やすっかり僕の手に馴染んでいる。


「初めてマギアを教わったとき、先生は言いました。

特殊型マギアを使えるようになったら面白いことが起きるナイフだと」


その通り思いがけないことが起こった。


僕がマギアを使った途端にナイフがいきなり分裂したのだ。


わけがわからなかったが、僕には好都合だった。


操れる刃の数が無数に増えるのなら、作戦の幅は一気に広がるからだ。


「結局このナイフの仕掛けって、数が増えるってことだったんですか?」


僕の問いかけに、先生は首を横に振った


「いや、違うよ」


先生は僕のマギアが対象を操るのか、増やすのか、両方なのか。


勝負の間も確証は持てなかったと告げた。


「あれが、お前のナイフとしての『形』だったってことさ」


先生の言いたいことが僕にはよく分からなかった。


が、詳しく聞こうとする前に王様に話の方向をはぐらかされる。


「ゲーテのマギアは面白いんだよ。

戦闘マシーンみたいなとこがあるくせに、マギアは戦闘系じゃないもんな」


もしかして、あのナイフは先生のマギアと関係があるのだろうか。


戦闘系以外のマギアというと、治癒以外は見たこともない。


全く想像がつかなくて、僕はぼんやりとした相槌だけを返す。


「いいんですよ、余計なことは言わなくて」


先生は腕を組んで、じとっと王様をにらみつけていた。


その様子すら王様には楽しいらしく、くすくすと笑っている。


「ついでに、俺のマギアも教えておこうかな。

まあ、今はほとんど役立たずなんだけど」


王様については、3年を過ごしてもなお、僕は知らないことばかりだ。


彼は自分の事情を殆ど話さなかったからだ。


かつて魔界を治めた王様。


巨大な力を持っていたことは間違いない。


なのに、自分の力を『役立たず』なんてどうして

言うのだろう。


僕はただ、彼の言葉の続きを待った

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