21話 新しい名前
未来はいつだって不確かだ。
夢見たものが、叶う保障なんてどこにもない。
それでもイメージを強く描けたのなら、願いは現実にぐっと近づく。
例えば、先生との勝負で僕は勝てる状況を
作り上げることができた。
僕と彼女との間には絶対的な力の差がある。
本来なら敵うはずのない相手だった。
でも、諦めなかったから勝てるイメージまでたどり着いた。
単なる妄想では意味がないけれど、
毎日の修練がイメージを確信に近づけた。
『生まれてくる息子をどうか導いてやってほしい』
『成長したお前ら二人が魔界を救ってくれる夢を見てる』
王様が僕を見込んで話してくれた頼みごと。
彼の願い、そして夢の話。
驚きはしたけれど、
確かに僕は心が沸き立つイメージを心に浮かべた。
今から生まれてくる王様の血を継ぐ相棒と僕とが、
二人で旅をして。
そして旅の果て、魔界を救ういつかの日。
僕たちはきっと、心から笑っている。
もし実現させようと動くのなら、様々な問題が僕らを襲うだろう。
奴隷の解放だけでも大変なのに、さらに上を目指すのだ。
間違いなく、命の危険だって伴う。
それなのに、わくわくする自分がいた。
だって、ひとりじゃない。
未だ見ぬ「彼」と一緒だから、きっと諦めずに突き進める。
根拠はない。失敗するかもしれない。
それでも、僕はかつて執事が教えてくれたことを思い出す。
『最も避けるべきことは迷って機会を逃すことだ。
ためらうくらいなら、自らの直感に従え。
下手な考えよりも大体正しい』
直感に従うべきとき。
きっとそれが、今なのだろう。
「わかりました」
僕は、王様に返事を返す。
自信が足りなくても、
精一杯胸を張ってはっきりと意思を声に乗せた。
「息子さんの件、お引き受けします」
「ありがとう!!」
承諾を聞くやいなや、王様はまた頭を下げた。
かつて魔界を統治していた王なのに彼は本当に偉ぶらない。
はっきりと感謝や謝罪を口にする人だ。
誰かに思いを伝える勇気を持つ人だ。
彼のそんなところが好きなのだと、改めて思う。
そんな父親の魅力を、彼の息子にもいつか伝えてあげられたらいい。
先生いわく、大方の話はこれで終わりらしい。
が、王様にはまだ言いたいことがあったようで、
しきりに首を捻っている。
喉まで出かかっているのに思い出せない状態らしい。
「ああ、ええと、そうそう。名前だ!」
しばしの沈黙のあと、王様はぽんと手を叩いた。
「今からお前のことは「執事」って呼ぶよ。いいか?」
まず僕をまっすぐ指差して、彼はそう言った。
僕が頷いたのを確認すると、
王様の指先はそのまま先生へとスライドしていく。
「で、お前は昔の呼び名に戻すから。な、『ゲーテ』?」
「は?なんで??」
いきなり名前で呼ばれた彼女が、慌てて王様に突っ込みをいれた。
僕も初めて知ったが、
彼女は昔ゲーテと呼ばれていたらしい。
王様が僕らの呼び名を変えたのは単純な理由だった。
「執事」呼びが二人もいたら混乱するからとの事。
でもなんとなく、他にも理由があるような気が僕はしていた。
ゲーテと呼んだ王様の顔が
あまりにうれしそうだったからかもしれない。
「ゲーテ、いいだろ?」
その笑顔に、彼女は結局押し切られたようだった。
ゲーテ呼びを本気で
嫌がっていたわけではなかったのだろう。
こうして、僕は「執事」という
呼び名をもらった。
そしてさらに、王様は
こんな提案を言い出した。
「あと執事!お前に渡したいものがあるんだ」
僕は首を傾げる。
このタイミングで言われるということは、
執事としての秘密道具かなにかだろうか。
僕はそう予想したが、王様からのプレゼントは思いもがけないものだった。
「お前には、まだちゃんとした名前がなかっただろ」
「お前にふさわしい名前を俺なりに考えてみたんだ」
僕は大きく目を見開いた。
僕を表す、僕だけの新しい名前を彼が選んでくれたのか。
「お前が選んでくれた道への感謝と祝福みたいなものだ」
「どうか受け取ってくれないか?」
こみ上げてくる喜びに、僕は何度も頷いた。
ずっと心のどこかで欲しがっていた最高のプレゼント。
王様から与えられた「名前」を僕は噛みしめる。
その名が示すものは―――――




