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第七話 「反射」呪文炸裂!

チグサ 16歳 この世界に転移して来た普通の女子高生。

       転移特典で得た「反射」の呪文を使う。

マイラ 16歳 ダルーガ教と対立する、フーラ教徒が住むヤルケノ村の少女。

ボルク 23歳 マイラの兄 ヤルケノ村・防備隊

 矢が夜空を切り裂く音。ビュン、ビュン、という乾いた音が連続する。


 目の前で本当に戦争が始まったのだ。


 それは平和な日本に暮らして来た私には衝撃だった。


「こういう場合、防御側が有利なはずよ」

 マイラは少し武者震いをしながら説明してくれた。


 その通り、矢合わせは防御壁のある高所から矢を放つヤルケノ村が優勢で、ダルーガ兵が何人か倒れるのが小窓からでも見えた。


「ボルク兄さん、あいつらを……あいつらをやっつけて!」

 マイラが祈るように両手拳を握りしめる。


 私も「がんばって、がんばって」と必死で応援する。

 そのかいあってか……、


 矢勢に押されてダルーガ軍は後退を余儀なく……、などと甘くは無く、

 敵ははすぐに切り札を投入して来た。


 ゴゴゴという重い車輪の音。巨大な投石機が、松明の明かりに照らされて姿を現わす。


 投石機だ! これはこの世界の戦車みたいなものだろう。


 石を載せるための巨大な腕が、ゆっくりと引き絞られていく。


「まずい投石機だ! 固まるな、ばらけろ!」

 ボルクの叫び声。


 次の瞬間——ドンッ! という地響きとともに、巨大な石が夜空に弧を描いて飛んできた。


 城壁の一部が砕け、地下室内にも悲鳴が上がる。


 地下室の娘たちが恐怖を抑えきれず、互いに抱きついた。


「あいつら、本気で村を潰す気でいるぞ!」 

 ボルクの声が裏返っている。


「ヤルケノの田舎兵らがビビッておるわ! 容赦なく攻め込め!」 


 門の前に固まっていたヤルケノ兵が陣形を崩したと見るや、ダルーガ兵が村の中に切り込んで来た。


 その勢いに押されてボルクたちも後退せざるを得ない。



「チグサ、窓から離れて!」

 マイラが叫んだ。


 ダルーガ兵の一団がこちらに向かって走ってくるのが見える。


 地上すれすれにある、こちらの小窓から薄明かりが漏れているのに気づいたらしい。


「おい! ここに除き穴がある。中にヤルケノ兵が隠れているぞ!」

 ダルーガ兵は地下に潜んでいる娘たちを兵士だと勘違いしたようだ。


「なに、火を放って焼き殺せ!」

 数人の兵士が、巻き藁を窓に投げ込み、その後ろから炎を上げた太い松明を手にした別の兵士が数人、駆けてきた。


火の粉が舞い、熱気が地下室にまで届きそうになる。


「みんな、奥へ! 早く!」 マイラが叫んだ。


 私は咄嗟に立ち上がった。天井が低くて頭をぶつけそうになる。


(もう、唱えるしかない……!)

 心臓が爆発しそうだった。


 喉がからからに渇いている。


「テイク・モンク・まじゃらカーン!」

 頭の中で銀色の鏡が一瞬浮かぶイメージ。


 次の瞬間——、


「うえっ? お前ら、松明をどこに持ってく気だ! そっちは指揮官の本陣だぞ!」


 太い松明を持ったダルーガ兵たちが、突然方向転換して、自分たちの後方へと松明を運び始めた。


 指揮官らしき男が大慌てで怒鳴っている。


 この様子にマイラが目を輝かせた。

「すごい……! チグサの呪術だ!」 


 しかし、混乱は一瞬だった。


「とち狂ったか! この愚か者どもめが」

 士官と思しき者が大松明を掲げた兵を数人、切り倒した。


 ダルーガ軍は裏切者を成敗すると、すぐに反撃を開始した。


「投石機をあの穴に向けろ! 一気に潰せ!」


 ギギギギ……


 木材が悲鳴を上げるような音が、夜の空気を震わせた。


 投石機の巨大な腕が、ゆっくりと、しかし確実にこちらへ向けて旋回する。


 縄が軋み、石が揺れ、空気が重くなる。


(来る……!)


 喉がひゅっと細くなり、呼吸がうまくできない。


 足が震えて、膝が笑っているのが自分でも分かった。


 巨大な石が、こちらに向かって……、地下室ごと押し潰そうとしている。


「させるもんですか!」

 自分でも信じられないほど大きな声が出た。


 胸の奥から、熱いものがせり上がってくる。


「テイク・モンク・まじゃらカーン!」

 鏡のイメージを、今までで一番強く、頭の中に焼き付ける。


 その瞬間――、


 世界が、ひっくり返った。


「目標は左、もっと左に旋回しろ!」「バカな元に戻せ!」「左だもっと左だ!」


 怒号が響き、数台ある投石機がフラフラと動いて、やがてそれらは見る間に反対方向に旋回した。


「違う、そっちじゃない!」と悲鳴にも似た声がした瞬間――、


「打てー」という命令が響いた。


 放たれた石は――、

 本来の目標とは正反対。ダルーガ陣営のど真ん中へ向かって飛んだ。


 ドゴォォォォン!!


 地面が跳ね上がり、地震のように揺れ、地下室の天井から土が雨のように降ってきた。


「ギャアアアアア!!」

 大勢の人間が上げる悲鳴が聞こえて来た。


「味方だ! 味方に当たってるぞ!!」


「やめろ! 止めろ! 止め――」


 阿鼻叫喚が夜を裂いた。


 投石機も反動で自壊し、折れた木材が兵士を巻き込みながら倒れ込む。


 大惨事が巻き起こっていた。


 石を受けた部隊は一瞬で壊滅し、指揮官たちの怒号も、悲鳴にかき消された。


「今だ、突撃! この機を逃すな!」

 ボルクの声が、ひときわ大きく響いた。


 その声に背中を押されたように、ヤルケノ村の兵たちが、混乱する敵陣へ雪崩れ込む。


 私は小窓に張り付いたまま、ただその光景を見つめていた。


 手が震えて止まらない。足がガクガクする。

(私は本当に人を殺しちゃったかもしれない……)


 マイラが後ろから、そっと私の手を握ってくれた。


 彼女の手も冷たかった。けれど、心地よかった。


「チグサ……ありがとう。あなたがいてくれて、よかった」


 その言葉に涙が溢れそうになった。私は慌てて目を擦った。

 

 戦いは、ヤルケノ村の大勝利で終わったようだ。


 地下室から這い上がったとき、村中が歓声に包まれていた。


 負傷した兵を抱える者、勝利を喜ぶ者、泣きながら神に感謝する者。


 その中心で、私は呆然と立ち尽くしていた。


 本当の戦いを経験したのは生まれて初めてだった。


 村長の話では、この村の人口は二百人ちょいらしい。


 それなのに数百人の軍隊を追い返したなんて、

(私の呪術、ちょいとヤバイのかも……)


 村長は「歴史的な大勝利じゃ!」と言って村中がお祭り騒ぎになった。


 だが――、


 その勝利は、まだ始まりに過ぎなかった。


次回の章は、ダルーガ側。聖都ゴンゴザからお送りします。

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