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第六話 戦闘勃発!

チグサ 16歳 この世界に転移して来た普通の女子高生。

       転移特典で得た「反射」の呪文を使う。

マイラ 16歳 ダルーガ教と対立する、フーラ教徒が住むヤルケノ村の少女。

ボルク 23歳 マイラの兄 ヤルケノ村・防備隊長

「もしかしてダルーガの連中?」


「たぶんそうね。兄さんが見張りに出てて、ふもとの方角から松明がたくさん見えるって。まだ遠いけど、松明の数が異様に多いの……念のため、村長がチグサを地下室に隠したがってる。それから安全のためオークの衣を着ておいて」


 マイラは私の手を取ってベッドから立ち上がらせた。


 その手は、少し冷たかった。


 私は枕元に置いてあったオークの衣を乱暴に掴みながら、苦笑した。


「どうしてもこのぬいぐるみから逃げられないのね」


 これを聞いてマイラが肩をすぼめ、小さく笑った。


「ごめんね。兄さんたちが全力で村を守るけど。あなたは私と一緒に来て欲しいの。村の若い子たちが地下室に隠れてるんだけど、彼女たちとチグサを守るのが私の仕事。それに、もし見つかっても、あなたなら少しは戦えるでしょ?」


 そう言われても私はまだ、その力の使い方がよく分っていない。


 ただ、誰かが私を傷つけようとした瞬間、その攻撃がその相手に跳ね返る——。

 それだけの、恐ろしくシンプルな呪術。


 でも誰かが本気で私を殺そうとしたら——、その瞬間、何が起こるんだろう。


 私は深呼吸して「わかった。行きましょう」と言った。


 遠くで犬が吠える声が聞こえる。


 松明の赤い光はもうすぐ傍まで迫っていて、夜の闇にちらちらと揺れているのが窓から見えた。


 闇の向こうで揺れる松明の列は、クリスマスのイルミネーションのよう。


 だけど、そんな平和な明かりではないことはよく分っていた。


 こんな世界に転移して、穏やかな生活を送るなんて、初めから望めなかったのだ。


 私は急いでオークの衣を身に着けながら心の中で呟いた。

(テイク・モンク・まじゃらカーン。今度こそ、ちゃんと使いこなせますように)



 地下室はこの村で一番大きな村長の家の裏、家畜小屋の中にあった。


 異臭のする古い敷き藁が集めてある一角に、作業用具が無造作に積んである場所があって、その下の半ば腐った床を外すと、そこが入り口になっていた。


「ここに若い子が隠れているの」

 マイラはそう言って、私に階段を下りるように促した。


 慎重に、ギシギシという音を立てて、たわむ階段を下りる。


 地下室は、想像以上に息苦しかった。


 そこは天井が異様に低い空間で、身長155センチの私が、ようやく背筋を伸ばして立てる程度。


「ここは男の人たちが屈まないと歩けない高さにしてあるの。万が一見つかった時、ダルーガの兵が自由に動けないようにって」

 マイラが小声で説明してくれた。


 彼女の声はいつもより少し震えていた。


 松明の火で照らすと、その光の先に村の若い娘たちがオークの衣を被ったまま、肩を寄せ合って座り込んでいた。


 汗の臭いがするオークの衣と、土とカビと家畜の糞尿が混じった空気が、鼻の奥を刺す。


 足元は冷たい土。スニーカーはぐっしょり湿って、指先がじんじんと痺れ始めていた。


 地下室の奥行きはかなりあって、所々に地上を覗ける小窓が開いている。


 私は壁際の小さな覗き窓(換気口のようなもの)の近くに陣取った。

 外の様子が比較的よく見える場所だ。


「チグサ……怖い?」

 マイラが隣にぴったりと寄り添ってきた。


 彼女の肩が触れる。意外と細くて、震えているのが伝わってきた。


「怖いよ。正直に言うと、もうめちゃくちゃ怖い。昨日まで普通の女子高生だったのに、いきなり戦争だもん」

 私は少し冗談ぽく笑おうとしたけど、唇が引きつるだけだった。


 遠くで犬が狂ったように吠え始めた。


 続いて大人数のそ『ザッザッザ』という、揃った足音。


 松明の赤い光が夜の闇を不気味に揺らしながら近づいてくる。


「来た……」

 誰かが怯えた声で言った。


 地下室に緊張が走る。


 娘たちの息遣いが一気に荒くなった。 


 小窓から見える門の前で、押し問答が始まった。


「我らは神恵の民・ダルーガの救済隊である!」

 背の高い髭もじゃが、ものすごく胸を反らして相手を見下すように言う。


「フーラの穢れた背教者どもに告ぐ! 汝らの娘子三人を神の嫁に差し出せ! さすれば税を減じてやろう!」

 低音で威圧的な男の声。


 要するに女の子を差し出せと言っているようだ。


「そんな要求には答えられんな。我らフーラの民こそ誠の神に仕える者、異教徒らの下賤な要求に従うと思ったか」

 ヤルケノ村を代表して防備隊長のボルクが、きっぱりと要求をはねつけた。


「ダルーガ教徒はいつもあんな要求をしてくるの?」

 私がマイラに尋ねると、


「毎年ね。兄さんたちはいつもああ言って突っぱねるけど、ただの儀式。結局は、村長の采配で女の子が差し出されるの。でも彼らが求めているのは私たちのように年のいった女性じゃなくて、若い子だけどね」

 マイラは私を安心させるように言って背中を叩いた。


 でもその言葉の裏にあるものは、この世界では私は既に行き遅れということだ。


 門の前の押し問答はなおも続いている。


「それと、魔術を使う異邦人の女がこの村に逃げ込んだと言う情報がある。見つけたのであれば危険なので、すみやかに差し出せ。節操の無い恥知らずな、男をたぶらかす悪魔で、露出癖のある女である」

 やはりダルーガたちは私を追っていたのだ。


 彼らがそう言いだした瞬間、地下室の空気が凍った。


 全員の視線が、私に集中する。


 私たちが危険な目に合っているのはあなたのせいだと言われている気がした。

(まあ、実際にそうなんだろうけど……)


「チグサ、ごめん、私が連れてきちゃったばかりに……」

 マイラが唇を噛んだ。


 だが、今回もボルクは突っぱねた。


「それで今日はこんなに大勢でやって来たというのか臆病者め」

 そう言ってさもおかしそうに大笑いをした。


 村の防備隊の面々も笑う。


 侮辱されたダルーガの交渉人は声を荒げて「では村の中を調べさせてもらおう」と叫んだ。


「それは断る! そんな節操の無い恥知らずな、男をたぶらかす悪魔で、傍若無人。品の無い服装の、露出癖の女など、この村に入ってきた瞬間に首が飛んでおるわ。そういう不道徳者がこの門をくぐれるものか!」

(落語のジュゲムかよ。しかもだんだん悪口が増えてくるみたいだし)


「ボルク兄さん、頑張れ」

と背後でマイラが言うが、なぜか涙がちょちょぎれるんですけど。


 結局交渉は折り合いがつかず、両者が離れて戦闘に突入した。


 村長が今回は仲介に出なかったのだ!


「放て!」


 どちらの言葉かは分からないが、双方がほぼ同時に矢を放った。


次回、チグサの「反射』呪術が炸裂する!

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