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第五話 ヤルケノ村の、チグサ歓迎晩餐会

チグサ 16歳 この世界に転移して来た普通の女子高生。

       転移特典で得た「反射」の呪文を使う。

マイラ 16歳 ダルーガ教と対立する、フーラ教徒が住むヤルケノ村の少女。

ボルク 23歳 マイラの兄 ヤルケノ村・防備隊長 

 ヤルケノに来て三日目の夕方、


 村は、私を歓迎する晩餐会を開いてくれた。


 私はその席で初めてフーラのムームーを披露した。


 ちなみに制服はだいぶ汚れていたので、香草で洗ってもらっている。



 集会所の中に入ると、転移した時に感じた香辛料の匂いが充満していた。


 テーブルの上にはこの地方特産のイワナに似た魚が焼かれ、それぞれの席の前に置かれた小皿に二匹ずつ振り分けて並べられている。


 この魚料理にはトロミのあるソースとどっさりと香辛料がかけられていた。


 同じように香辛料が振られたザリガニや沢蟹は蒸されていて、ブルーベリーやマンゴーに似た果実が山ほど添えられていた。


 カエルの揚げ物には各種の見たこともない山菜やキノコが乗せられている。


 ミルク色のスープには、ここに来た時から提供されている固いパンが浮かび、


 そして一番立派な大皿にはネバネバとした、ぶつ切りのヌタウナギのご馳走(?)が並び、


 誰もが満面の笑みを浮かべて私を歓迎してくれた。


 料理が表す文化的ギャップの衝撃度はともかく、


 皆が私を歓迎してくれている気持ちは、泣きそうになるくらいうれしかった。


(たぶん元の世界で見慣れたご馳走がここに並んでいたら、

 私は我慢できず、ワンワンと声を出して泣いていただろう)


 けれど、この笑顔の輪のどこに私の居場所があるのか、まだ分からなかった。


 村長はテーブルから少し離れた王座のような場所に座り、

 その前には簾がかけられていて——、


 どうやら私とはあまり顔を合わせたくないようだった。


 私の隣に座ったマイラはうれしそうで、

「これで蝙蝠が並ぶと最高なんだけど、あれを食べてることが分ると、

村が焼き討ちされるからまあ、仕方ないわね」と言った。


 蝙蝠はダルーガにとって禁忌の食物だそうだ。


 嫌なら自分たちだけ食べなければいいのに、他教徒人にも強要するようだ。


 まあ、私がいた世界でも蝙蝠には

 未知のウィルスがいるという人もいたので、そこは理解できる。


 それと異世界に来たら、好き嫌いは言えないことぐらい分っている……。


 けれど、お皿の上のグロテスクな料理を前にして胃が縮み、

 私は無難そうな魚と果物だけを少しずつつまむことにした。


「チグサ、パルポは(ヌタウナギはそういうらしい)美味しいのに食べないの?」

 マイラがちょっと心配そうに言った。


「いえ、昨日今日と色々あったから」と私は言い逃れをした。


 私を転移させた謎の人物(?)はどうして日本と似た食文化のある異世界にしてくれなかったのだろう。


「よかったら、今度チグサの国の料理も作ってくれる? チグサは何が好きだったの?」


 そう言われた私は即座に「ホットケーキ」と答えた。


 ホットケーキミックスさえあれば簡単にできる……。

 そう言いかけて私は重大なことに気付いた。


 ここにはホットケーキミックスなんて売ってないだろう。


 異世界に転生したラノベの主人公(特に女性を主人公にしたもの)は

 元の世界の知識を披露して、異世界人に新しいお菓子を焼いて歓迎されるというものが多い。


 しかし、現実には簡単じゃないんだと私は思い知った。


「ホットケーキ? 今度作ってね」

 マイラは屈託なくそう言った。


(できればそうしたいけど、小麦粉と卵があったとして……、後はどう作ればいいんだろう?)




 喧噪の宴が終わった夜のヤルケノ村は静かだった。


 私に用意された丸太小屋の中にある備え付けの寝台は固くて背中が痛い。


 私は我慢して寝ころびながら天井の木目をぼんやり見つめていた。


 フーラ伝統の白いムームーが、肌に少し擦れて落ち着かなかった。


 それと上から下までカバーするフンドシみたいな下着も……。


 もう一つの支給品・オークの衣は、枕元に丸めて置いてある。


 寝袋にいいかとも思ったが、このセンスの無いぬいぐるみは、やはり着る気になれない。


(日本にいた頃は、眠れない夜をどう過ごしていたっけ?)


 スーパーの明かりが眩しくて、


 ファミレスで友達とくだらない話で笑って、


 スマホの通知がうるさくて……、


 私は少々デジタル・デトックスになりかけていた。


 そのスマホも今は圏外だ。


 充電できないから電源を切ってあって、


 死ぬほど辛くなったら残してある写真を見るつもり。


 電気は私の知識ではどうにもならない。


 バッテリーが切れた瞬間が私と元の世界との縁の切れ目だろう。


 親に「勉強しなさい」って、小言を食らっていたことも

 そんなに日が経っていないのに遠い昔のようだ。


 安全で、便利で、退屈だった日本……。


 でも、帰りたい。



 自転車で車道を走っていたあの日、突然、前方に光が爆ぜた。


 クラクションとブレーキ音が重なり、私は目をつぶった。


 まるで夢を見ているような不思議な情景の中で、背景が切り替わり……、


 私は『力ある者』の謝罪の言葉を聞いた。


 次に目を開けた時、私はあの石畳の広場に立っていたのだ。


 ここが異世界だという実感は、時間と共に重くのしかかって行く。


 言葉は不思議と通じ、文字も読めるのに、常識は全部違う。


 学校の制服を着ていただけで宗教警察に囲まれ、


 鏡みたいな呪術を使ってしまったら、村長からは「魔女」と呼ばれる始末。


「はあ……」


 小さく息を吐いた瞬間、戸がそっと開いた。


「チグサ、起きてる?」


 それはマイラだった。


 村の中ではいつも白いムームーを着ていたが、今日は男と同じ厚手の布服を着ている。


 いつも浮かべているイタズラっぽい笑みは無く、真剣な面持ちだった。


「眠っている所を悪いんだけど……ちょっと、村の外が騒がしいの」


 私は上半身を起こした。

「騒がしいってどういうこと?」


「招かざる人たちが山道を降りて、こちらに向かって来ているようなの」


魔女(?)を追ってダルーガの軍隊がヤルケのに責めて来た。

本当の戦争が始まる!

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