第三十九話 外伝・バウマン隊長復活(?)
チグサ 16歳 この世界に転移して来た普通の女子高生。「白衣の天使」。
転移特典で得た「反射」の呪文を使う。
マイラ 16歳 ダルーガ教と対立する、フーラ教徒が住むヤルケノ村の少女。
ボルク 23歳 マイラの兄 ヤルケノ村・防備隊長。
ノーラ 13歳 ナラヤから逃げて来た少女。
バウマン 30歳 元ナラヤ宗教警察・隊長。
ゲルド 38歳 ノーラの父親
グスケツ 58歳 ノーラを7番目の妻にする予定だった大富豪。
「お前がノーラという娘の父親・ゲルドか?」
ナラヤ貧民街にある長屋の一つを数人の男を伴ってバウマンが訪ねた。
出て来たのは、まだ三十代後半の男だったが、大怪我をしたと見えて足を引きずっている。
ゲルドは居並ぶ長身の男たちを見て恐れおののいた。
中央にいる人物はよく知っている。
貧民街の誰もが恐れる、旧宗教警察の隊長バウマンだ。
宗教警察の象徴であった黒袴ではないが、背後に控える者たちと同じ制服らしきものを着ている。
しばらく町で見かけなかったので、ヤルケノとの戦争で死んだのだと噂されていた。
こんな男が家に来たと言うことは、吉報であるはずがなかった。
「ヒェ~、あの……あの、娘に何かあったのでしょうか? 昨日から家に帰っておらんのですが……」
最悪の事態を想像してゲルドは青くなった。
だが、バウマンは笑顔でゲルドにこう告げた。
「ゲルド、お前は立派な娘を育てたものよ」
「はっ?」
「実は昨日、ナラヤの選挙を見届けるために、あの『恥乱の魔女』が町に現れたのだ。あの恐ろしい魔女には、もう誰も手を出さない。俺の部下でさえ、奴を見かけると隠れる者もいるくらいだ」
ゲルドは唾をのみ、一歩後ろに退いた。
「それなのにノーラは、『お父様が怪我をしたのは魔女のせいだ』と言って石を投げたのだ」
「ノーラが、そんな……。大それたことを!」
「残念ながら石は魔女の呪術で反れ、当てることができなかったが、魔女を警備していたヤルケノの防備隊がこれを見逃さなかった。それで逮捕されてしまったのだ」
「おお、なんということだ。私が娘を養えなくて結婚させようとしたことを恨んでいたのか……」
ゲルドは頭を抱えてしまった。
「すべて魔女が悪いと思ってな。だがこれは大変名誉なことだ。彼女の行為がどれほどダルーガの民に勇気を与えたことか」
「そ、それは名誉なことではありますが、あの子は町の有力者・グスケツ様に近く嫁としてもらわれる予定でした。私は支度金として金貨三枚を受けとっておりましたのに……」
「う~む、それは確かに困ったことだな。魔女を狙ったとあれば、石が反れたといっても、長期間の拘留はさけられないだろう」
ゲルドはヘナヘナとへたり込みそうになり、震える手で柱をつかんだ。
顔は青ざめ、唇がわなわなと震えている。
「よかろう。グスケツの方には二十年ほど待つようにと、こちらから言っておこう。それとな、ダルーガの有志からは、ノーラの勇気ある行為の報奨金として金貨一枚がお前に出ておる。これで生きていけ」
「ハハ、本当に何もかも、ありがとうございました」
グスケツは深々とお辞儀をした。
「あんなやつに、さらに金貨を与えるなど、本当は納得がいかんがな……。村長が戦争を避けるための手段だから安いものだとは言っていたが……」
バウマンの後ろにいたボルクがぼやいた。
「確かにそうですな。では次はグスケツの方に参りましょうか。その前に衣装を着替えなければなりません」
バウマンはそう言って着ていた制服を裏返した。
するとそれはヤルケノの防備隊の制服になった。
「では今度は俺が先頭に立つか……」
ボルクはそう言って防備隊の隊長服になった。
そうやって、今度はナラヤの高級住宅街に向かった。
「グスケツ、グスケツはいるか!」
ボルクが金属製の扉を警棒でガンガン叩く。
出て来た召使はヤルケノの防備隊・制服を着た数人の男が立っているのを見て肝を冷やした。
「グスケツを尋問せねばならん。グスケツをここへ呼べ!」
慌てて出て来たグスケツはぶくぶく太り、腹の突き出た初老の男だった。
「な、なんでお前ら、ヤルケノ軍が私の家に……、いったいなんの御用なのでございましょうか」
最初の勢いは消えて、最後は丁寧な言葉遣いになっていた。
「なんでだと? 昨日『白衣の天使』様がお前の婚約者・ノーラによって襲撃を受けたことを聞いていないのか! 女がそんな大胆なことをするはずがない。お前がノーラに石を投げろと言ったのだろう?」
グスケツは真っ青になって震え上がった。
「めめめめめめ、滅相もございません。私のような小心者がそのようなことを……」
「だが、お前はゲルドに金貨三枚を渡してノーラを嫁に迎え入れたというではないか」
「それは、私が若い子が好きだから。というだけの話です。しかし、そのような恐ろしい子だったとは……。いやむしろ早くそういう性格であることが分ったことが幸いです」
「では今度はゲルドに襲撃をやらそうというのではないか? 娘が失敗したからと言ってな」
「いやいやいや、あれは正当な支度金でございました。しかしこのようなことになった以上、ノーラとの婚約は破棄させていただき、あれはあの親子との手切れ金といたします」
「では、本当にお前は今回の襲撃に関係していないのだな?」
「はい、それはもう。あの親子とは今後一切連絡を取りません。手切れ金くらい、私が恐ろしい目に合わないことだけで安いものです。本当に私は何も知らなかったのです。あ、それとせっかくここまでおいで下さったのでこれを……」
そう言ってグスケツはボルクやバウマン、他の者たちに金貨を一枚ずつ渡して何度も拝むような姿勢で家の中に入って行った。
帰路、ボルクは笑いが止まらなかった。
こうして無実の罪のノーラはヤルケノに長く拘留(実際は滞在)されることになった。
この後も外伝は続きます。完成した都度、アップしていきます。




