↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/47

第三話 マイラの故郷 ヤルケノ村

チグサ 16歳 この世界に転移して来た普通の女子高生。

       転移特典で得た「反射」の呪文を使う。

マイラ 16歳 ダルーガ教と対立する、フーラ教徒が住むヤルケノ村の少女。

ボルク 23歳 マイラの兄 ヤルケノ村・防備隊長 

 道中、マイラは時々立ち止まっては周囲を警戒しながらも、

「この辺りはナラヤ地方と言って農業や林業が盛んなところなのよ」、

 などと観光ガイドのように話してくれた。


 林道を避けながら、獣道(けものみち)を進む。

 ちょっと、というか大分きつかったけど、山道を上りきると、視界が一気に開けた。


 ヤルケノ村はナラヤの町からは、里山を一つ越えたところにあって、山の頂上部から見ると、ヨーロッパの寒村といった感じ?


 少し違うのは円形の城壁で囲われている点で、そこは中世のお城みたいだった。

(といっても、お城は無いけどね……。物見やぐらは二つある)


 村の周りには水を満たした堀まであった。


「ちょっとここで待っていて。防備隊をやってる兄さんにあなたのことを話してくる」

 マイラが村の城門から中に入り鎖帷子に身を包んだ男に、私を指さして何か話し込んでいた。


 途端にビシッという音が聞こえ、マイラが張り倒されていた!


 男の怒鳴り声と、負けじと言い返すマイラの声が聞こえる。


 私は歓迎されていないことを知って、めっちゃ不安になった。

 しばらくすると、マイラが鎖帷子の男を伴ってこちらにやって来た。


「マイラが連れて来た異邦人と言うのはお前だな」

 そう言いながら鎖帷子の男は、漫画に出てくるセクハラ親父のように私の姿を上から下まで舐めるように見た。


「なるほど。やつらが、節操のない恥知らずの、淫らでバカな露出女と言うのも分かる……タウリンの酒場の踊り子のようだな」

(宗教警察もそこまで言ってません!)


 そんなにウチの制服って変?


「悪いが、村長に留めても良いか聞くまでは拘束させてもらおう」


 鎖帷子の男はそう言いながら、自分で自分の腕を縛り上げた。


「ボルク兄さん、何を……。チグサの呪術が発動したってこと?」

 マイラが驚いて声を上げた。


 私もびっくりして手を口に当てた。


 私とマイラは、自分で自分を縛りあげた器用なボルク兄さんの後に付いて 村に入った。


 この村では女性たちは比較的自由な服装で行き交っている。


 女性の中には顔を布で覆っている者もいたが、少なくとも市場で見た黒い『ぬいぐるみ』みたいに極端じゃなかった。


 煙突からはパンの焼けるいい匂いが漂い、どこかで鍛冶の音が響いている。


 牧歌的で、耳を澄ますと子供たちの笑い声も聞こえてきた。


「ここなら……ちょっとは安心できるかな」

 私はフッと息を吐いた。


 マイラが振り返り、にっこりと笑った。


「ようこそ、ヤルケノ村へ。戒律で縛られたナラヤ地方で、一番まともな人たちが住んでいる場所よ」


 彼女の笑顔を見ていると、なんだかホッとする。


「そこの娘、村長(むらおさ)がお会いになるそうだ」

 ボルクとは別の防備隊の人が言った。


 私とマイラ、それから益々手をがんじがらめにしてしまったボルクは、この村で一番大きな建物の中に通された。




「日本とかいう遠い国から来た娘、チグサよ。マイラの話では、恐るべき呪術を操るそうだのう……」


 村長が、まだ悪戦苦闘しているボルクをチラ見しながら、それでも朗々とした声で威厳を保ちながら私に詰問した。

 ただ、少し足が震えている。


 ここには村長の他にも村会議員みたいな人たちが数人いて、私をじろじろ見ている。


「あれがそうか」「まだ小娘じゃないか」

「呪術だと? そんなもの使えるものか」

「おおかたマイラのイタズラだろう」

「確かにあの子ならやりかねん」「ボルクもグルか?」

「それにしてもなんだあの恰好は?」「狼にでも育てられたのか?」

 などと口々に勝手なことを言ってる。


(ぜ~んぶ聞こえてるんですけど)


 私は侮られないように、落ち着いて村長に答えることにした。


「千草と申します。いえ、呪術とかそんなたいした物じゃなくて、ただ相手が私に対して攻撃をしかけようとすると、その標的が自分自身に向かうみたいな……」


「おお、言葉をしゃべったぞ」


(悪かったわね。私だってしゃべれますぅ)


「ふむ。よくわからんが、チグサよ。ではひとつ試させてもらえんか?」


 村長はあごひげを撫でながら言った。


 私の応対が普通だったので、だいぶ安心したみたいだ。


「そうだそうだ」「見せてもらおうじゃないか」「呪術とやらをな」

 外野席がうるさかった。


「例えばそこの給仕女が酒を入れた瓢箪を持っておる。それをお前に投げるようにと言ったら、どうなるかの?」


「まあ、おそらく何も起こらないかと」


「では試してみよう。給仕女、その瓢箪をチグサに投げつけよ!」


「ヒッ?」

 私はサッカーのゴールキーパーのようなブロック体制を取って、飛んで来る瓢箪を手で払おうと身構えた。


 だが、給仕女が迷いながらも瓢箪を振りかぶると——

 村長の顔が、わずかに引きつった。


 次の瞬間、瓢箪は弧を描いて飛び、


 スコ~ンという音を立てて村長の額を直撃していた。


「ぐふおっ!」


「わ~、村長、大丈夫でございますか!」


村長は額を押さえながら床にへたり込み、震える指で私を指した。


「だいたい分った。日本から来た魔女・チグサよ、そなたの滞在を許す。ゆるりと休まれよ」


 魔女と呼ばれた瞬間、私はちょっとヘコんだ。


(ここでは、私は外の世界から来た変な人ということだろう。もう静かに暮らせないかもしれない)


 とはいえ、私は村長公認の客人となり、マイラが専属の付け人として、身の回りの世話をしてくれることになった。


 するとそれまでは、私が笑いかけても見えない存在のように目を背けていた村人たちが、今では軽く手を振ってくれるようになったのだ。


 村の中にいる時のマイラは、窮屈そうなオークの衣を脱ぎ捨てて、白いムームーのようなワンピを軽やかにまとっていた。


「これはね、私たちフーラの民が着る伝統的な女性服なの。チグサは着替えを持ってないでしょう? これを着て頂戴」

 そう言って、彼女は私に白いムームーと、一本の長い白布を差し出してきた。


「この長い布は、どうやって使うの?」


 てっきりインドのサリーのように、ムームーの上から体に巻きつける、お洒落なショールか何かだと思ったのだが、違った。


「下着」

 マイラがあっさりと答えた。


「でもね。村の外に出る時は、この服では危険なの。ダルーガのやつらにフーラ教徒だと気付かれるでしょ。やつら異教徒の女はさらって嫁にしてもいいなんていう身勝手なボホーラ法というのがあるのよ。だから、あなたにもほら」


 そう言ってオークの衣を『チグサの衣装』(日本語みたいに読める)

と書かれた麻袋から取り出した。


(ヒェ~、どうやら私はこのぬいぐるみから逃げられないらしい)


 私のオークの衣もマイラのものと同じように中からも脱げる仕組みに加工されていた。


「あの時、ダルーガの宗教警察をすごく冷酷に感じたと思うけど、奴らなりにあなたをボホーラ法から守っていたのよ。まあ、あなたは強いから、嫁にされることはなかったでしょうけどね」

 マイラは楽しそうに、くすくすと笑った。


 そんな彼女の表情が、急に怒りで強張ったのは、私が何気なくこんな質問を投げかけた時だった。


「そんなにダルーガ教徒が横暴なら、どうしてフーラの人たちは、もっと遠い安全な土地へ引っ越さないの?」

 立ち上がったマイラの目が、怒っていた。


 握りしめられた拳が、プルプルと震えている。


「だって、あなたがいたナラヤも含めてこの辺りは昔、全部フーラの土地だったんだもの。あいつらは行商人としてやって来て、最初のうちはフーラに従うふりをしてたんだ。だけど、いつのまにか家族や友人を呼び寄せて、人数で上回ると、途端にダルーガの地だと宣言したの!」


 その声は、この地で土地を奪われた人々の歴史の痛みそのものだった。


(この質問は地雷だったようだ)


 

この後、マイラはチグサにヤルケノ村を案内し、チグサはこの世界の一端を知ることになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。