表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
402/405

色彩豊かな霧の民(1/2)


「やるならッ! てめえで!

 最後までやっておけよッ!

 このッ! くそ野郎がッ!」


(前回までのあらすじ)

 かなしき女神オゥトィリカ、その恋人をみごと巨大コラプサー『ディセウス』から救出した我らがミスターと飛び入り参加の杏奈ジア。彼らはその後、そこに開かれたマルチバースポータル『異界の書』の導きで、これまた違う宇宙のちがう場所、南銀河は惑星エシクス、神とも見紛うユーノス・トーラル・エゥルテス統治の王国へと落下する。

 クールビューティーだけど笑顔がかわいい杏奈ジアと、ブサかわ具合が丁度いい我らが愛猫フェンチャーチ嬢のキュートなヒップと肉球が、彼の地の王と姫さまのへきにヒットしたりして、彼女ら旅の一行は、大層手厚い歓迎を受けることになるのであった――がって、ちょっとジアちゃん。あなたニアちゃんとフェンチャーチを連れ戻しに行ったんじゃないの?


     *


「それから我らふたり、そこに居られる赤髪紳士、ドクトル・ミスターとわたくしジア=アンは、愛しき妹ニア=アン、かわいい旅の先導者ナオ=ヤマギシ、そうして我らが旅の守護者であり参報役、フェンチャーチ・ストリート・チャリング・クロスに別れを告げると、銀白色のポッドに乗り込み、銀河の中心、光り輝く、しかし空虚な暗黒、巨大コラプサー『ディセウス』へと向け飛び立っ――いえ、正確を期すのなら、飲み込まれぬよう堕ちて行くのでありました――」


 杏奈ジアは語っていた。これまでナオとミスターがめぐって来た旅の物語を、そのはじめから終わりまで、まるでその横に自分やニアやフェンチャーチもいたかのように、所どころを改竄しつつ。


 ここは、前回の広場から場所も時間も空間も移動したエゥルテス王の王屋敷、磨き上げられ輝き放つ白き石壁で囲まれた広壮な広間の中である。日はすでに沈んでいたが、シュチョウメビナとエシクストウダイグサのおかげで、そこはまるで昼間が如くであった。(注1)


「『だめだよ、お嬢さん』と、ドクトル・ミスターは私にこう言いました。『これ以上、女神さまを悲しませてはいけない』と。

 なぜなら、暗闇へ飲み込まれんとする恐怖に、私のほそい肩と手が、ちいさく震えていることに彼は気付いたからであります」


 広間には、天与のちからに恵まれたユーノス・トーラル・エゥルテス王をはじめとして、彼のひとり娘であるテネア・ミシトース、それに各地の領主たち十三名が集まりつどい、彼らの合間合間にジアたち一行も座らせるように円卓を囲むと、エシクス自慢の肉や魚、多様な野菜や果物などを見事に調理した食事と酒で彼らをもてなしてくれるのであった。ジアは続ける。


「『大丈夫。君ならやれるさ』ドクトル・ミスターは言います。ふるえる私の肩にやさしく手を置きながら、『もっと、事象の地平面まで寄せて』

 私は応えます。『分かりました』と、いまにも泣き出し叫び出しそうな弱い心を必死で奮い立たせながら、『どうか、女神さまの恋人を、想い人を、あの暗闇から救い出して下さい』」


 と、なんか私たちが見たのとはテンションというか演出というかキャラ設定が違う感じがしないでもないが、これはこれで、彼女なりの処世術、サービス精神の顕れであった。


 と言うのも、いま、この広間の片隅と言うか入り口付近の壁一面には、前回王が、「友情のしるしとして!」と領主たちに準備させたジアたちへの贈り物に加え、「残りの者たちは後ほど、想い想いの品物を」とした贈り物が、文字どおり山のように積み重なっていたからであり、これを見た彼女は彼女で、「ふむ。これはサービスしなければ」と、彼らの期待に応えようとしていたからである。更にジアは続ける。


「すると突然、そこに女神アキピテルのマルチバースポータル『異界の書』そのひとつが我々の前に現れました。私は叫びます。『ドクトル・ミスター! これは?!』」


 と、広間に集ったおじさま連中、召し使い、カッコかわいい系お姉さまに目がないエゥルテス王&テネア王女が好みそうな自分を演じ、


「『お嬢さん!』ドクトル・ミスターは叫びます。『僕につかまって!』」


 と言われても絶対つかまったりしないくせに、


「『ひかりの速さでふき飛ばされます!』と。そうして――」


 あーれー! と叫ぶのはさすがにやり過ぎだしキャラ設定とも違うので止めておいたが、


「それより後のことは先刻お話したとおり、この地に堕ち、度量宏く誉れも高きエゥルテス王と、そのやんごとなき姫君テネア王女に救われ拾われたのはつい昨日のこと、そうしていま、こうして皆さまから格別な歓待を受けるに至ったわけであります」


 と、どうにかこうにか、最後まで語り終えたのであった。


 そうして、それから彼女は、得も言われぬ微笑をつくり皆を見回したのだが、そこに集った一同は、さながらいまのお話と、彼女の微笑に魅せられたのか惚れたのか、声を発する者もなく、静まり返り食事の手も止まったままであった――が、ちなみに。


 さっきもちょっと書いたとおり、このとき彼女が語ったのは、ナオとミスターの旅の物語、ナオの宇宙が消え、恐竜に追われ、ひとつ目玉のコンピューターとお話をし、なんやかんや死者の国なんかにも行ったりなんかした、あれらの物語の抜粋編集改竄版なわけだが、それではどうしてジアがそれらの物語を知っていたのかと言うと、それは時々彼女が、このお話の作者の家に遊びに来ては、私が書いたものを読んだり、推敲途中のお話を聞いてくれたりしてたからなんだけど――ってこの子、ほんとに当初の目的(妹とネコを物語から退場させる)を忘れちゃってない? すると、


「おお、ジア殿」とここでエゥルテス王は言った。沈黙を破るように。作者の長い地の文を遮るように、「なんとも数奇な旅のお話、我ら一同大変興味深く聞かせて頂きました。いかにも皆さまはこれまで様々な苦難に遭ってこられたのですな」


 と、これもちなみにだが、このときどうして、この場にいた人々が、こんな突拍子もない旅の物語を素直に受け入れられたのかと言うと、その人心の純粋素朴さも去ることながら、こちらのエゥルテス王も若いころはヤンチャにヤンチャを重ねておられ、東西南北いろんな銀河を遊び歩いてはいろんな事件に巻き込まれており(例えば、宇宙を滅ぼすひとつの指輪を捨てるために北銀河の更に極北まで行ったとか)、それら旅の物語を王国の皆に聞かせて来たり、同人誌にして頒布したり、有志で劇団立ち上げ舞台で発表したりしていたので、


『ま、そういうこともあるかもね』


 と、この王国の人々は、この辺のすこし不思議だったり、とっても奇妙なお話にも免疫があったからである。王は続ける。


「が、しかし、安心なされよジア殿」と彼女の肩になれなれしく手を置きながら(注2)、「ここエシクスの、ペグマタイトの床(注3)を敷きつめ、棟木高く築いた私の屋敷へ来られたからには、ふたたび漂泊に漂泊を重ねるようなことにはならぬと想いますぞ――そうだな! 皆のもの!」


 と、国をあげ、次のジャンプポータル探しに協力する旨を約束するのであった。



(続く)

(注1)

 いずれもここ惑星エシクスで品種改良された植物である。

 シュチョウメビナ(朱鳥女雛)は、遺伝子操作で体内に発光物質を持つことになった多肉植物で、昼間の光を受けて成長、夜になると自然に朱色の光を放つ性質を持っているし、

 エシクストウダイグサ(エシクス灯台草)も、この地で遺伝子操作を施された植物だが、こちらは蓄光材料であるアルミン酸ストロンチウムを自身で作り出すことで昼間の光を吸収、暗闇で青あるいは白色の光を放つ性質を持っていたりする。


(注2)

 なんだかずっと、スケベ親父感のある王だが、実はその辺とってもまじめで、彼の妃は、テネア姫を生んだ直後に帰らぬ人となっているのだが、その後の王は、数多来る縁談を断わり続けては、他の女を娶ることも、屋敷のかわいいメイドさんにお手を付けることなんかもなく、なんなら、朝夕欠かさず亡き妃の霊璽に祈りを捧げ、そうしてひとり涙をながす……という、なかなかに奥さまひと筋なおじいちゃんなのであった。


(注3)

 『巨晶花崗岩』『鬼みかげ』とも呼ばれる火成岩の一種。花崗岩マグマの冷却・固結の最終段階で生成される。数cmから数mの石英や長石、雲母から構成され、希元素鉱物や宝石類を多く含んでもいるため、建材としては非常に希少で高価、また加工も難しく、それを床一面に敷きつめていることからも、この王屋敷の豪壮華麗さが分かる。

 また特に、この広間の東の隅、まるで隠れるように敷かれている床の中には、つい「あっ」とおどろくほどに大きな、青いざくろ石 (ブルーガーネット)が埋まったまま入っており、もしエシクスに行かれる機会に恵まれた方は、一度ぜひ見ておいて頂いて損はないかと想う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ