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愛に時間を。(2/2)

(1/2のあらすじ)

 巨大コラプサー『ディセウス』へと単身飛び込む我らがミスター。突如現れた美少女・杏奈ジアのサポートもあり、見事、事象の地平面に捕われかけていた、女神オゥトィリカの恋人、その人間の男を救出したようなのだが――?


     *


 集会場の前の広場は、見事に土をならされ拡げられ、格好の演技場へと変えられていた。


 場の中央には楽師が一人。彼は老齢で盲目でもあったが、胴も空ろな見事なシアン(注1)を抱えては、玲瓏清かなその音に、溶けて絡まり、精巧見事に、また絶妙高らか雄弁に、その歌声を披露していた。


 そうして、彼を囲んで踊るのは、いずれもこの地の名手たち。花の盛りの男と女。それぞれ七名、円型美々しき舞台を踏んで、鳴らし踊れば、周囲の他の者たちからは、歓喜の拍手と歓声と、それに感嘆、羨望、敬慕の視線、彼らに向けられ送られていた。


「如何ですかな? 彼らの舞は?」


 曲が終わるを待ちながら、この国唯一ひとりの王、風貌神と見まごうばかり、ユーノス・トーラル・エゥルテスは訊いた。


「我らが国の誇りの踊り、楽しんで頂けているでしょうか? ジア殿?」


 彼らは只今、舞台が見える小高い台、その北側南面に、ジアを上座に王を次席にして座り、ジアより左にナオとネコ、ジアより右にはニアとミスターが座っていた。


 もちろんここのこのネコとは、我らが愛猫フェンチャーチ嬢のことだが、『ネコにも席が?』と疑問抱くはまさに理。しかし果してこの地の王は、とかくかわいい生き物に、目がなく好き好き、無条件で尊敬してしまう癖があったのである。ジアが答えた。


「万人に優れ誉れ高きエゥルテス王よ」


 と、この地の礼も忘れず手を組み(注2)、


「先ほど王は、貴国の舞い手、踊り手たちは、他に比類なき旨仰せられたが、まさに、たしかに、あのお言葉、偽りなきこと、いまお見せして頂けました。私はただただ驚いて、その素晴らしさに言葉もないところで御座います」


 すると、この言葉に気をよくしたのか王は――彼は、見た目ちょっときつめで礼儀作法とかもしっかりしているのに、笑うと笑顔がすっごくかわいい系の美人にめっぽう弱かった(私と一緒)――近侍の者にひとつの毬を取って来るよう言い付けると、続いて広場の方を向き、


「ハリオス・ダマス! ラオダ・ファマドール!」


 と、ひとの名を呼び、彼ら二人の踊りを望んだ。


「いま、『スピラエラの繍毬』を取りに行かせた。ぜひとも客人たちに、そなたらの踊りを見せてはくれぬか?」


 これは、この男女ふたりが、この国――エゥルテス王が治める南銀河は惑星エシクス――でも、並ぶもののない舞いと踊りの名手であったからである。


「楽は?」盲目の楽師が訊いた。「楽は如何致しましょう?」


「『精霊たちの踊り』を!」王が答えた。「『ワナガスの祠』より、『ミツハの水の精霊の踊り』を!」


 やがて問題の毬は届けられたが、それは見事な刺繍で編まれた純白の毬であった。中は空洞。そちらには薄い赤黄あるいは黄金の刺繍が施されている様子であった。


「ハーリオス!」王は叫ぶとその毬を広場の若者に向かって投げた。


 若者は、身をのけぞらせるとそれを受け、先ずは胸から、次にひざ、更にひじ、肩、足、腹と、身体いっぱい毬遊ばせると、そのまま今度は、蒼天めがけ蹴り上げた。


 すると今度は、もう一人の若者ラオダ・ファマドールが、広場の壁、床、柱に屋根、あるいは見物人の肩など使って空へと跳躍、まるで鳥か何かのように、毬を掴まえ捕らえると、毬とともに跳躍の舞を幾度か楽しんだ後、落ちるに任せ、大地へと戻って来た。


「いよっ!」と楽師が節を上げ、


「はっ!」とふたりもそれに合わせた。


 それからふたりは、東西南北、舞台を縦横存分に使いながら、毬を中にし、互いの位置を目まぐるしく変え、舞い、踊り、わらい、それにつられた楽師の歌は、より大きく、より強く、熱帯び、他の躍り手、舞い手、観客たちも、彼らを囲み並んでは、拍子を打ってそれに応えた。会場中に凄まじい響きが、湧いては起こり、起こっては湧いた。すると、想わずジアも、


「ファンタスティック!」と叫んで歓び立ち上がる。「素晴らしい! これは素晴らしいです! エゥルテス王!」


 彼女の言葉に更に気をよくした王は――彼は、見た目ちょっときつめで礼儀作法もしっかりしている美人さんが、何かに興奮して、少し礼儀を忘れたような振る舞いをすると内心『やった!』と喜びほくそ笑むタイプの人間であった(私と一緒)――歌と踊りの途切れるタイミングを待つと、そこに集った人々に向かって叫んだ。


「エシクスを率い、評議に与る方々よ!」


 と、鼻の下がだらーんと伸びてるのが悟られぬよう注意して、


「この他星からの客人たちは! まことしかりと、物の分かった方々だとお見受けする!」


 それから一瞬、ジアを見て、『ああ、ほんま別嬪さんやなあ』とメロついてから、


「そこで! 我らからの友情のしるしとして! 客人たちに然るべき贈り物をしたいと想うのだが! 如何であろうか?!」


 すると、この場に集ったエシクスの人々は――彼らは彼らで、ジアのような美人さんや、フェンチャーチのようなちょっとブサかわ系の生き物に目がなかった――この提案に歓喜の声で応えると、先ずは名立たる領主たち、近習のものを走らせると、王が指示した贈り物――清潔で美しい衣類や、金銀宝石と言った貴重品、あるいはこの惑星独自の品種改良が施された植物の種子など――を取りに行かせた。残りの者たちは後ほど、想い想いの品を、また持ち寄る算段である。ジアは言った。


「万人に優れ誉れ高きエゥルテス王よ」と、頭を深々下げながら、拱手の礼も忘れずに、「皆さまのご厚意ならびにご好意に大変感謝致します。どうかこの惑星の方々に、神々からのお恵み、幸運が授けられますよう、我々一同お祈り申し上げます」


「あ、いや、頭を上げられよ、ジア殿」王は応えた。こちらも拱手の礼を取り、同じく頭を下げながら、「我らこそ皆さまをこの国にお迎え出来た幸運を神々に感謝しているところで御座います。まさか、はじめ娘が、『父上! 空から女の人が!』と言ったときにはどうしたことかと想いましたが――」


     *


 と言ったところで。


 あまりに踊りの場面が楽しく面白く、なんの説明もないままここまで進めてしまったのだが、読者の方々のクエスチョンマークもそろそろかなり大きくなっていると想うので、以下急いで、前回更新分から今回までの流れを簡単に説明しておきたいと想う。


 そう。前回ラストは、たしかこんな感じだったはずだ。


     *


「おんなは度胸だッ! すり抜けながらかっさらいなッ!!!」とジアが叫び、


「いっけーー!!!」とミスターも叫んだ。ふたたび、「ジェロニモーーッッッ!!!!!」


     *


 と、例え宇宙が違っても、血は争えないと言うかなんと言うか、見た目もキャラも異なるこちらの二人だが、土壇場での『いいからやってまえ』テンションと、それに伴う『やってみたらなんとかなった』な運のよさは共通するらしく――、


     *


「え? え? ここは?」と女神オゥトィリカの恋人の救出(光速の0.71倍での人物転送)にも見事成功、


「オッケー! ニア聞こえる?」と離れた宇宙船にいる妹に連絡を取るジアだったが、「これからそっちに帰還――って、なにこれ?」


     *


 と、そこに現われたのは、書物の容をした女神アキピテルの『異界の書』、その六冊の中のひとつであり、そうしてこれは――、


     *


「え? うそ? ジアなの?」と突然の姉からの無線におどろくニアや、


「え? だれ? ミスターは?」と彼女同様おどろくナオ。それに、


「ふぇにゃ?」と、そんな彼らを気にする風もないフェンチャーチ――このとき彼女は、乗組員が猫用に調理してくれた鶏のささみ肉を食べていた――の前にも同様に現れたらしく、


     *


「なるほど、これが条件だったんだな」そうミスターも言うとおり、「女神さまの恋人を救うことで次のポータルが開くのか」


 と、彼ら四人と一匹、それに問題の巨大コラプサー『ディセウス』の中心ちかく、高速ジェット(注3)の根本あたりに一冊ずつ、『異界の書』は現われ、彼らを次の場所へと向かわせようとするのであった。ミスターが叫んだ。


「お嬢さん!」ジアに向かって、「ポッドをオートモードに! その人を女神さまのところに送り届けられるようにして!」


 とそれから、


「それからすぐにジャンプの準備を!」最後の一冊があそこに現われたと言うことは、「光の速度でふっ飛ばされるぞ!」


     *


 と言ったところで。


 女神オゥトィリカはもとより、彼らをあそこまで運んでくれたタウ=ラウストンの船乗りたちへ別れの挨拶もせぬまま、彼ら四人と一匹は、強制的なマルチバースジャンプへと入れられ、冒頭長々お見せしたとおり、南銀河は惑星エシクス、王の都へとたどり着いたわけである。


 そうして、このとき、時間差を持って落ちて来たことと、一番最初に落ちて来たジアの見た目とキャラが、この地の王と姫君の直球ど真ん中どストライクだったこともあり、彼女を一行のリーダー・統率役と見なした彼らによって、いまのような歓待を受けることになったのであるが――、


 と言うことで。


 これから更に、次のポータルの出現ポイント、出現条件を探らねばならぬジアたちなのだが、流石に字数も超え過ぎたので、それは次回の講釈で。



(続く)

(注1)

 正式には『シン=シアン』と呼ばれる。

 西銀河に古くから伝わる撥弦楽器のひとつで、七弦のフレットレス。琴柱のようなものも付いておらず、左右の五指すべてを使用して弾くのが正式とされる。

 音色は中国の古琴にインドのサラスヴァティー・ヴィーナを足したような音をしており、弾き方は、琴のように置いて弾くこともあれば、ギターのように抱えて弾くこともある。が、そこは演奏者の個性に技量に曲の内容、それに当日の観客その他、天気や会場内の温度や湿度等々も含めて、演奏者の判断で、使い分けがされるようである。


(注2)

 『拱手』自体は地球でも東南アジアを中心に残る伝統的な礼儀作法のひとつであるが、西銀河~南銀河でもよく似た作法が見られるため、こちらの言葉を訳語として使わせて頂いた。

 所作や姿勢、敬意の表し方によって細かく分類されるらしいのだが、どんなに調べても調べ切れるものでもないので、その辺は割愛させて頂くとして、大まかに概略だけを書いておくと、

 ①先ず、左右の人差し指、中指、薬指、小指の四本の指をそろえ、一方の掌をもう一方の手の甲にあてたり、手を折り畳んだりする。

 ②次に、手のひらを自身の身体の内側に向け、左右の親指を合わせ、続けて両手を合わせる。

 ③最後に、その両手を額の高さまで上げたり、逆に額を両手の高さまで下げたりすることで、相手への敬意を表す。

 と云うことになるらしい。


(注3)

 要は『ブラックホールジェット』のこと。

 重力天体を中心に細く絞られたプラズマガスなどが一方向あるいは双方向に噴出する現象を『宇宙ジェット』と呼ぶが、それのブラックホールバージョンである。

 星間物質その他がブラックホールに吸い込まれる際、その周囲にはしばしば、降着円盤と呼ばれる円盤状の雲が作られるわけだが、その円盤の軸方向に超高速で脱出していく星間物質が観測され、それらは例えば、クエーサージェットのように、しばしば光速を越えて運動しているように見えるものもあり、今回ミスターが、「光の速度でふっ飛ばされるぞ!」と言ったのも、要はそれをイメージしてのことである。

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