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転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第二十話「幸福な夕食、困難な朝食」
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その15

「うん?」とそうしてかおるは訊いた。まるでいま想い出したかのように、「未来がそれだけ未知だとして、その『未来もどき』もまひろが視られないのはなんでだ?」


 彼はいま、その能力でぐっすり眠らせた『山岸富士夫親衛隊』のメンバーを通路の端に動かしているところだった。彼は続けた。


「代書屋の先生とあの魔女は視てたんだろ?」


 ミスターが答えた。


「それは」と、どこから取り出したのやら、大きなブランケットを眠る親衛隊にかけてやりながら、「それは、彼らの能力とまひろさんがコピーしている能力が本質的に違うものだからですよ」


「あ……?」かおるは訊き返した。「どういうことだ?」


 ミスターは続けた――以前ご説明したとおり、


「以前ご説明したとおり、まひろさんがコピーしている能力、コピー出来る能力は、他の宇宙からこちらの宇宙にやって来た、所謂『転生者』たちの能力です」


「あの磁場がどうとかってやつだな」


「磁場ではなく重力の歪みですが――それが転生者たちの力になっている」


「あのふたりのはちがう?」


「ええ、それにあなたのも」


「え? ああ、たしかに。そんなこと言ってたな。だからまひろに俺の『パープルマン』は使えないとかなんとか」


「そう。あなたや佐倉さんの能力は転生によるものではなく、この宇宙に元々ある力なので、重力異常がない。つまりは、まひろさんにもコピー出来ない」


「なるほ……あ、いや、それでも、それだけだと、その『転生者たち』の中に、未来を視るやつがいねえ理由にはならねえだろ」


「いえ、ですからそれも、未来の未知性――と言うか、時間の流れ、歴史がその宇宙固有のものだからですよ」


「あー…………なんだって?」


 かおるの頭上にいくつもの疑問符が浮かんだ。作者の頭にも。ミスターは答えた。


「私もはっきり証明出来るわけではないのですが」とちいさく肩をすくめ――それでも、


「それでも未来はあくまでも、そこに暮らす人々のものだと言うことですよ」とある種の決意表明のように、「仮初めだろうとなんだろうと、外部の力でそれらを予見、ましてや変えるなんてことは出来ない」


 時間や未来、それに希望とは本来、そういうものだろう、と。


 そうして――、


     *


 そう。


 そうして、人間の本性――と言うか暗黒面・ダークサイドをあらわにする方法ならば、彼、灰原神人はようく知っていた。何故ならそれは彼自身、それをやられ続けた人間だったから。


 彼の幼年期は奪われたままであり、その少年期や青年期は、まるで黒く濁った水の底で更に深みへ堕ち込まぬよう仲間や友人、見知らぬ誰かを踏み付け堕とし土台にすることで過ぎて行った。何故なら、そうしなければ、彼自身が踏み付けられては奈落へ堕とされ、土台にされては一顧だにもされず、しずかに忘れ去られて行くのが分かっていたからである。


 であるが、しかし、もちろん、そんな人生にもメリットはある。


 と言うのも、先にも書いたとおり、彼は他人の本性――と言うか暗黒面・ダークサイドをあらわにする方法を、その人生からようく学んでいたから。そこに堕ちた者ならば、彼の友人――は難しくても、何かの仲間、あるいは同じ病を持つものとして接してくれる可能性が出て来るから。悩みや不安を共有しては支え合い、情報交換を通じて孤独感を和らげ合い、互いが互いの精神的支えになれる可能性だって出て来るから――と自分を騙すことが出来たから。


 そう。


 だから彼はこう言う。


 自分では気付いていないし、滑稽と呼ぶにはあまりにも残酷だが、それでも敢えて言うならば、彼は、目のまえの少女と仲よく、出来得るならば友だちになりたくて、彼は、こう、彼女に言うのである。


「『木花エマ』――あいつを殺してやったのも俺さ」


 が、しかし、目のまえの少女、佐倉八千代に、この言葉の意味は分からない。


 分からないが、しかし、その言葉が突きつける衝撃は、彼女の能力を活性化、いや暴走させるには、十分過ぎるほど十分過ぎるものであった。


 そう。


 そのため彼女は訊き返す。


 きっとなにかの聞き間違いだろう、と。


 彼女のこころの黒い扉を、きつく、きつく、きつく、押さえ込みながら、


「なんて?」と、「いま――なんて?」


 そうしてもちろん、この質問に灰原神人はよろこんで答える。


 が、もちろん、彼が犯した罪の理由を、本当の理由を、彼の顕在意識は把握していないし、彼は、相手を踏み付ける以外のコミュニケーションを教育されて来なかったので――彼らが飛ばしたあの凧は、いまだ何処かへ消えたままであった――彼がいま、目の前の可憐な少女に、彼が友だちになって欲しいと願っているその少女に、言ってあげられること、伝えてあげられること、それは、彼が、どのようにして彼女の友人を誘い、騙し、脅し、怯えさせ、殺し、切り刻み、血を抜き、わらい、誰にも見つからない場所に葬ったか、その顛末、詳細、しかなかったのである。


 彼は言った。くり返しになるし、あまりにもあわれで無様、涙も出ないが、それでも、


「おまえは俺にそっくりだ」と。彼女と友だちになりたくて、そうして、


「闇よ、ようこそ」そうして少しほほ笑んで、「――わが旧友よ」



(続く)

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