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転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第二十話「幸福な夕食、困難な朝食」
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その14

「負けだ……完全……敗北だ…………」


 そう言って『山岸富士夫親衛隊』隊長ミズキ・アヤネは倒れた。実際のところ、彼らがしたことと言えば、彼ら親衛隊唯一の必殺技(?)『最終なんとか』をいっぱつ放っただけであったが、それでも。まひろの側からの攻撃はなにひとつとしてなかったのだが、それでも。すると――、


「ミ、ミズキッ!」

「隊長ッ!」

「お姉さまッ!」


 と他の隊員たちも陣形崩して彼女に駆け寄って行く。すると――、


「だめ……あれはダメ……」とミズキ・アヤネは言った。静かに。小声で、「あれは……明らかに私たちとはジャンルがちがう……」そうして、「あなたたち……も……ダメージを受け……た感じで……倒れ……なさい。見逃し……て……もらうの……」


 するともちろん、他のメンバーもそれには薄々気付いていたので、


「う、うぐぅッ!」とか、

「うあぁあ、あ、足がッ! 腰がッ! 内臓があッ!」とか、

「む……無念じゃッ!」とか、


 そんな感じでパタパタパタ、見事なくらいその場に倒れて動かなくなった。ふたたび呆れたのはかおるである。彼は言った。


「おい、まひろ」倒れた彼らをまたいで歩き、「どうする? 取り敢えず眠らせとくか?」あとやっぱり気になるんだが、「ほんとにこいつら、富士夫の部下か?」


 そう。そこはまひろも気になった。兄の富士夫が天台烏山の後を継ぎ、グループの体制を組み直しているのは知ってたが、それでも、彼女の知る富士夫なら、こんな少女たちを側近に付けたり、ましてや圧倒的能力差のあるまひろに立ち向かわせたりはしないはずである。彼女は答えた。


「そうですね」すこし考え、「眠らせてから廊下の端に」それから先をジッと見つめ、「どうにも変な感じがします。先を急ぎましょう」


 そうして――?


     *


 そう。


 そうして、このまひろの「変な感じ」は当たっていた。何故なら、前にも書いたとおり、いまこのビルにいる彼女の兄は、彼女の知る兄ではなく、ある能力者から盗み取った『モーフィング』の力を使い、富士夫の顔と身体を手に入れた灰原神人であったから。


 そう。


 灰原神人は富士夫を殺し、彼が持っていた天台烏山の後継者、天台グループの会長という立場を盗み取っていたのである――では、いつから?


「おまえにやられ、逃げ出した直後さ」彼は答えた。八千代の顔を覗き込み、「まひろはさておき、お前は規格外過ぎた」


 そう。


 それはこの宇宙で一度目の『爆発』が起きた直後、正確にはそれが不完全に終わった直後、この宇宙の八千代に彼が顔の半分を灼かれた直後、彼らの戦いの場に、爆発の中心となった花盛りの丘に、妹・まひろのもとへ駆け付けようとしていた富士夫を見付けた彼は、彼を殺し、彼になり替わったのだと言う。


「それから先は努力と研鑽の日々だ」


 グループの再編、新しい能力者の発掘と開発、邪魔な者たちの排除、等々など――、


「すべてはお前のため、どうすればお前を倒し、お前を盗めるか、そのための努力と研鑽の日々だ」


 そうして、その結果、転生者部隊の増強・強化や、この隔離室をはじめとした対能力者用設備の開発・充実がはかられ、更には――、


「いまの俺なら、お前にだって負けないさ」


 そう彼も言うとおり、灰原神人は、集めた転生者たちの中から、使えそうな能力はすべて、性別年齢相手構わずすべて、すでに盗み取り込んでいるということだった――だったのだが、


「結果、一番の課題はそこにないことも分かった」微笑みながら彼は続けた。「そこには足りなかったんだ、明らかに。ふたつの要素が」


 もちろんこれらの発言は、彼が八千代を、目の前にいる彼女を、この宇宙の、彼の顔を灼いたあの魔女だと勘ちがい、信じ込んでいるために続けられているものであった。であったので、これら彼の言葉の中身は、当然八千代には意味不明であり、


「それはお前と祝部ひかりだ」という彼の言葉や、

「ひかりはもうすぐ到着する」とそれに続いた彼の言葉、さらには、

「おまえは俺にそっくりだが」それに、

「それをあいつが隠していた」と言った彼の言葉はさらに意味が分からなかった。

「だがもうそれも今はいない」男は言った。


「『木花エマ』――あいつを殺してやったのも俺さ」


     *


 エレベーターホールには奇妙な鉄の塊と、それを取り囲むように腹這いになっている男たちがいた。服装からこのビルの警備員、というか天台グループの私兵だろうが、彼らの目は、鉄の塊に向けられたまま固定され、手足も同様、自らの意思では床から離せなくなっている様子であった。


「かおるか?」優太はつぶやいた。そんな彼らの表情が、かつての部下に能力をかけられた人々と同じだったからである。「こいつは……もとに戻るんだろうな?」


 彼は現在、ひかりとともに居場所を変えるよう依頼した清水朱央、それに朱央をサポートするよう指示した深山千島、そのどちらとも連絡が取れなくなっており、更には、彼らのスマホの位置情報へのアクセスすら出来なくなっていたため、前後の状況から判断、ここ天台ビルまで偵察に来たのだが、


「するとやっぱり、あっちはまひろで――」とロビーの方をふり返る優太。地面は割れ、ガラスは飛び散り、スチールシャッターは球形に曲げられゆらゆらゆらと揺れている。「ミスターに連れて来られた? そそのかされた?」


 そうつぶやいてから彼は、しばしうなると、そのまま黙考。シャツの下の防弾ベストや拳銃その他を確認してから、


「ちっ」と舌打ち、エレベーターのボタンを押した。


 消えた深山や朱央はもちろん、彼の娘のひかりもきっと、このビルにまで来ているだろう。


「ちっ」とふたたび舌を打った。「あいつが現れるとろくなことがない」


 そうして――、



(続く)

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