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転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第二十話「幸福な夕食、困難な朝食」
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その12

「そう言えばおまえ、未来は視えないんだったよな」


 小紫かおるが訊いた。山岸まひろに。彼らはいま、エレベーターに乗り込んだところだった。


「これだけ能力者がいてどうして?」


 前にも書いたとおり、山岸まひろの特殊能力のひとつ『複製』は、転生者たちの重力異常をコピーすることで、それら能力を彼女も使えるようにするという代物だが、このことをかおるは、この数年彼女たちと行動をともにする中で、まひろ本人あるいはミスターから聞いて知っていた。すると、


「それは――」と彼女は答えようとし、


「それは未来があまりにも未来だからですよ」とその回答をミスターに取られた。「タイムトラベラーなんかしているとよく分かります。確定している未来などないと」


 彼はいま、いつものレンチを使い、エレベーターの操作基盤からビル全体の遠隔監視システムへ侵入、八千代が監禁されている部屋の位置と、可能ならそこの映像が視られないかを試していた。


「うん?」かおるは訊き返した。「でも行政書士の先生や赤毛の――こっちの魔女も視てたんだろ?」


 ここで言う『赤毛の魔女』とはもちろん、彼の知る、こちらの宇宙の佐倉八千代のことを指すのだが、いま助けに向かっている別の宇宙の彼女と区別するため、かおるは敢えて「こっちの」と付け加えたわけである。ミスターが応えた。


「石橋先生の『預言』がはずれたケースはあなたも知っているでしょう?」


「うん?」とかおるは考え、言い難そうに、「ひかりさんだな。彼女の友だちには悪いことをした」


 彼は、ひかりの生存を知らされておらず、また、ひかりを救えなかったのみならず、彼女の友人・先名かすみも事件に巻き込んでしまったことを後悔しており、そのことも、彼が過去を怒りに変えてしまっている原因のひとつになっていた。ミスターが言った。


「それはつまり」と、かおるの後悔には敢えて触れずに、「石橋先生の能力は『預言』で、それは、この宇宙のどこかの誰かが彼に忠告、あるいは『こうあって欲しい』とのイメージを預けただけのものであって、『確定した未来』ではないことを意味しているんですね」


「うん?」かおるは訊いた。どこか話がずれているなと想いつつ、「こっちの魔女のほうは?」


「彼女はより複雑です」ミスターは答えた。


 八千代のいる部屋は確定出来たようだが、何故かカメラのハッキングに手間取っていた。


「これはあくまで仮説ですが、彼女の未来予知と言うか幻視は、彼女の強力なテレパス能力と現実変性能力が組み合わさって出来たものの可能性が高いんです」


「うん?」とかおるは困惑したし、実を言うとこの作者も若干困惑している。続けてかおるが訊いた。「どういうことだ?」


「つまり」ミスターは答えた。


「つまり彼女は、未来そのものを視たワケではなく、我々が日々感じている未来へのちょっとした不安や予感や予測、こうあって欲しいという想いや、あるいはこうなってしまうのではないかという不安を常に受け取って生きているのではないか?――もちろん、その中には、特に強い波長として、石橋先生が視ていた預言なども含まれていたでしょうが――そうして、それら意識や情報等々が、例えば、彼女の心の防御が弱まる睡眠時などに、複雑に入り混じって立ちあらわれ、『夢』として彼女に近づいたのではないか?」


「なる……ほど?」


「すると、そんな複雑に入り混じったビジョン、『夢』を視た彼女は、その『夢』をどうにか整理し受け止めるため――本来とても優しい女性なのですよ、彼女は――現実でも無意識かつ頻繁にやっていること――強力なテレパスによる現実変性――を行ない、『彼らの夢』を彼女が受け止められるかたちにしてから、それらを受け止める」


「なるほど」すこし考え、かおるは言った。「それを『未来』だと想っていた?」


「ええ、あくまでも、現時点での私の仮説ですが」ミスターは答えた。


 それからかおるは、この複雑な話を、どうにか自分なりに咀嚼し解釈しようと、すこし黙って考えていたのだが、


「しかしそれだと」そう応えようとして、それでもそれを一旦止めて、さらに考え、


「いや、しかし」と続けようとして、更に足ぶみ、なんとか慎重に、彼なりの言葉を選びながら、


「しかし、それでも、いま起きているこの現実は、あいつが視ていた『未来』とやらにそっくり、かなり近いんだろ?」


「ええ、はい」ミスターは答えた。とてもこたえ難そうだった。「彼女のテレパス能力は、受信だけでなく、その発信も自然で静かで強力ですから」


「フィードバックが起こった? 起こり続けている?」


「“不安や想いが意思を変え、意思が未来を形づくる。”」ミスターは答えた。「きっと、人々の不平や不満、不安や悪意が、八千代さんの善意を上回ったのでしょう」


 それはとても、とても答えにくい答えだった。


「木花さんを失くしたのは、彼女にとっても、この世界にとっても、本当に、本当に大変な痛手でした」



(続く)

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