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転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第二十話「幸福な夕食、困難な朝食」
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その9

「『預言』と『予言』はちがう」


 これは、前にもどこかで書いたとおりであるが、石橋伊礼が灰原神人に殺され、彼が伊礼の能力を引き継げなかったがために現在、この世界から『預言者』はひとりもいなくなっていた。


 もちろん。未来を視て語るという意味では、佐倉八千代にもその能力はあったが、彼女がしていることはあくまで『予言者』仕事に留まり、伊礼のように、いつかどこかの何者かが送ったメッセージ、それらを受け取り解釈し、送信者たちの切なる想いを人間たちに伝える仲介者、『預言者』としての機能は抜けていた――そこが最も重要だったのに。


 送信者たちの『切なる想い』。そこに悪意はないのか? 単なる暇つぶしやいたずらの可能性はないのか? そもそもそんな知りもしない奴らを信用出来るのか?――それを見極めるのも預言者としての伊礼の務めであった。


 そう。メッセージを受け取った伊礼が毎回、どうしてあれほど疲弊していたかの理由はそこにある。彼は、いつかどこかの何者かから送られた、あるいは贈られた、来るべき世界の内容とその意味を咀嚼し、解釈し、取捨選択を行ない、その事実を前にして我々が取るべき態度、行動、倫理を考え模索し、それを自身のノートに、その考えの結論として、書き留めていたのである。そうして――、


「ふむ」と男はうなると、そんな伊礼が遺した預言のノート、その最後の1ページを再度読み返してから、「どう想います?」


「どう?」訊かれた女性は応えた。「――ですか?」


「読まれたんでしょう?」重ねて男は訊いた。「連絡までにかなり時間があった」


 ここは、かつての天台烏山が使用していたオフィスで、男は、仕事とともにこのオフィスも引き継いでいた。見晴らしはよかったが会長室の割には広くなく、どちらかと言うとこじんまりとした場所だった。南側の壁には、月と司祭と旅人の絵が架けられていた。訊かれた女性・深山千島は答えた。


「すみません。つい気になって」と正直に。それから、「灰原が生きているらしいことは読み取れましたが――」と詳細はぼやかしながら。


「うん」男は応えた。敢えて彼女がぼやかした部分を強調するように――石橋先生の、


「石橋先生の預言が本当に本物だとすれば、『爆発』はもう一度起こる」ノートを確かめ、「起こすのは灰原神人、止めるのは佐倉八千代」そうして深山に念押すように、「――ですよね?」


 この質問に対して彼女は――男の能力について、深山はもちろん、彼と一番近しい仲であろう友枝久香ですら知らされていなかった――なにか背中にとてつもなく冷たいものを感じると、ただただ、


「はい」と言って答えた。唾を飲み込み、「私にも、そう読めました」


「ふむ」男は考えた。彼に『預言』の何たるかは分かっていなかったが、それでもそこに、なにか運命めいたものを感じずにはいられなかった。そのため、


「佐倉八千代が灰原神人を倒す? 殺す?」と続けて男は、その運命めいたものとやらにいかに抗い、戦えばよいかを模索し始め――ここで、


 プルルルルルルルル。


 と会長室の電話が鳴り、彼の考えはそこで止まった。


「わたしだ」


『会長に左武さんからお電話です』


「代わってくれ――どうした?」


『祝部を張っていたチームから連絡がありました――お嬢さんの居場所が分かりました』


     *


 さて。


 遠いとおい未来、遥か彼方の銀河系では、我らがよく知る赤毛丸顔(いまは白髪ダンディ紳士)が所属する『時主』族の方々は、『銀河の賢人』とまで謳われることになるのだが、これはあくまで、彼の種族全体を総称してのことであって、我らがホモ・サピエンス(賢明なヒト属)の中にも、バカで愚かで他人に迷惑しかかけないようなひと(第四十五・四十七代米国大統領とか第百〇四・百〇五代日本国総理大臣とか)がいるのと同様、彼ら時主族の中にも、なかなかに間の抜けたタイプのひとも相当数混ざっていたりする。


 そうしてまた、彼ら時主族は、その生まれ変わりにより、見た目や性格、喋り方まで変わって来るのは、これまで何度かお見せして来たとおりであるが、それでもその、なんと言うか、その魂と言うか根本の部分においては、あまり変化はないらしく、それはつまりは、私がなにを言いたいのかと言うと――、


「テッテレー。『どこにでも開き戸』……は故障したまま直していないのでしたな」とか、


「それでは代わりに『壁抜けフラフー……ってあれは……どこに……しまいましたか…………あっ、あったあっ……ちがった。これは『イソノ式全自動タマゴ割機』でした」とか、


「困りましたねえ、このほか誰にも気付かれず佐倉さんが捕まっているビルに侵入出来る秘密道具と言えば…………あ、これなんかはどうでしょうか?『オールマイティ定期券』」


「なんですか? それ」


「これはですね、どんな場所であろうと、そこの入退場を管理している係員やガードマンに見せるだけで何の疑問も持たれず通して貰えるという優れものの秘密道具なのですよ、のび……木花くん」


「あ、いいじゃないですか、それで侵入しましょうよ」


「うんうん。未来の世界デパートで特割セールをしていたときに購入したまま使う機会がなかったのですが、まさかこんなところで役に立…………はて?」


「どうかしました?」


「しまった。定期が切れている」


 みたいな?


 せっかく作者好みのイケオジ老紳士に生まれ変わったにも関わらず、肝心な部分ではあの赤毛丸顔と大差ないと言うか、やっぱり同じ人物なんだなって分かって残念と言うか、問題の天台ビル、セキュリティが超厳重で、いま現在八千代ちゃんが捕まっているあのビルへの侵入方法が見い出せなくて困っているミスターとエマちゃんなのであった――ということが言いたかったのであった。って言うか、「であった」をくり返し使っちゃうのは物書きとしてはけっこう致命傷なのであった――であった。


「やれやれ、困りましたねえ」


 と言ったところで。


 ここは、都内数ヶ所に設けられたミスターの隠れ家のひとつ。せまい半地下にSEP付きのタイムバブルを展開、周囲からの関心が集まらないようにしている場所で、彼らは現在、深山発信、優太経由で届いた情報――佐倉八千代がどこに捕まっているか――をもとに、彼女の救出作戦を練っているところなのだが――とここで、


 ブブッ、

 ブブッ、

 ブブブブブッ。


 と、突然ミスターのレンチがいつもの振動音を出しはじめ、


「はい? もしもし?」


 と、その電話にミスターは出たのだが――ってちょい待ち。それ電話にもなるの?


「ええ、はい。普段は直接会いに行く方がはやいので使っていませんが、非常時連絡用に」


 はあ……、でも、そんな非常時用の番号を知ってるのって……、


『彼女が知ってたんだよ、くそジジイ』と掛けて来たのは、意外にも小紫かおるであった。『ヤスコ先生に教えてもらってたらしいぜ、くそったれ』


「ヤスコくんが?」ミスターは応えた。


『いざという時はあんたを頼れとかなんとか』かおるは続けた。言葉の端々に悪意と舌打ちを混ぜ込みながら、『どこをどうすれば、あんたのことをそこまで信用出来るのかは分からねえがよ、とにかく彼女が、これをまひろに伝えて――おい、まひろ、つながりやがったぞ、代われ』


 そうしてそれから、彼は電話を離れた。途中、


『俺は反対だぞ』とか、


『絶対に手伝わねえからな』とか、


『行くんならひとりで行けよ、バカ野郎』とか、


 そんなことをブツクサ言いながら。声が少しかれているのは、きっと、この電話を掛ける前に相当ふたりで話し合ったからだろう、


『ったく、頑固なところは先生そっくりだ』と言う、かおるのぼやき声すら聞こえた。『このバカが』


 そうして――、


『ごぶさたしてます。ミスターさん』そうして次に電話に出たのは当然、山岸まひろだった。『八千代さんの件は聞きました』


 どこか明るく、かおるのぼやきすらどこか頼もしく笑っているような声だった。


『兄のビルに乗り込むんですよね? お手伝いします』



(続く)

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