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転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第二十話「幸福な夕食、困難な朝食」
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その3

「分かりませんか? 木花さん。ミスターですよ、ミスター。こちらの世界の、ミスターです」


 さて。


 この宇宙は驚くほどに広大で膨大でだだっ広くてシッチャカメッチャカで、そこには、我々人類の想像を遥かに絶した驚くべき文明、テンヤワンヤな生命等々が待ち受けていたりする。


 そう。


 それは例えば、北西銀河は惑星ス=イゼンジのチタ族(彼らの宗教では、人は三歩進んで二歩下がる方法でしか歩いてはいけない)や、南東銀河はア・ラレチュラ宙域に散らばるセルプル族(彼らは紅茶に浸したプチット・マドレーヌの欠けらを食さなければ一定以上の過去を想い出すことが出来ない)などのことを言うのだが、そんなパニックパニックパワフル全開な宇宙においても特に、


「え? ちょっとなに言ってるか分かんない」


 と銀河全体からツッコミを入れられるのが、誰もみな行きたがるがどうしたら行けるのだろう教えて欲しい的摩訶不思議アドベンチャ―的宙域の更に奥深いというかよく分からない座標にある、あるいはあることにされている、惑星シュールー、そこに住む『時主族』の方々である。


 彼らは、地球の一部のネコ族がそうであるように、『ひとつの身体に九つの命を持って生まれて来る』そうで、そうして、ここは地球のネコ族とは若干異なるのだが、『ひとつの命が終わると身体はその組成を変え次の命を生きる』ことになっているそうである。


 そう。


 つまりそれは、例えば、我々がよく知る『時主族』のひとり、あの赤毛のミスターであれば、彼はつい数十年前までは、黒髪ロングのカッコカワイイ系美少女(自称)であったわけだし、いまの赤毛丸顔の彼の生命が終わる時が来たならば、彼は今度は、色白、白髪、スマートダンディな風貌の、作者の好みが存分に反映された、英国風老紳士になる予定であり(はやく来ないかな♡)、今回、佐倉八千代と木花エマが飛ばされたこの宇宙の彼は、既にその予定が来てしまっているようなのであった。


 と言ったところで――、


     *


「結局のところ、『爆発』は止められなかったのです」と白髪の老紳士――この宇宙のミスター――は続け、「約19万人」と言ったところで言葉に詰まった。


 ここは、かつて『シグナレス』と呼ばれた場所。電気は止まり、埃にまみれ、壁の絵たちは何処かへと持ち去らわれていた。目印のカウベルもなければ、青の出口扉には大きく太い赤線で大きなバツ印が付けられ、もちろん彼女の、青いランプが周囲を照らすこともなかった。


「ミスターさん?」エマは訊いた。あ、いや、訊ことしたが、「それってひょっと――」


「いや、それでも」と、しかし彼はそれを止めた。「それでも皆さん、私も含め、最善は尽くしたのです」


 きっと亡くなった人々の声や顔が彼を責め続けているのだろう。


「でなければ被害は、都内全域、関東全域にまで広がっていたでしょう」


 彼の説明によれば、この宇宙で『爆発』を引き起こしたのは灰原神人であった。


「戸柱と言う青年の能力を奪ったようでした」


 がしかし、本格的な使い方を覚える前にミスターたちと対峙、


「いわゆるチェイン・リアクション的状況までは至らず」爆発は一度で止み、「互いに大きな痛手を負いはしたものの、その場はそれで収まったのです」


 彼がいまの身体になったのも、そこで以前の身体がもたなくなったからであった。


「その男は?」エマが訊いた。


「その後見つかっていません」ミスターは答えた。


「もう一度おなじことを?」八千代が訊いた。「あいつの目的は?」


 彼女の声にミスターは、一瞬ビクッとその身を震わせたが、


「いまもって不明です」とすぐさまそれを隠して応えた。「と言うのも、あの爆発を発端に、また別の悪い状況が――」


 とここで、彼の話を遮るように、


 バリンッ。


 と突然、店の窓ガラスが割られ、ひと握りほどの鉄のかたまりが中へとはいって来た。そうして、


 ドゥン!


 とそうしてそいつは、小規模だが、重くて鈍い爆発音と、非常に強い閃光で彼らを襲った。


『佐倉! 八千代!』窓の向こうから、拡声器越しの男の声が聞こえた。『ようやく見付けたぞ!』


 先ほど見かけたあの大男、左武文雄の声であった。


『まさか! 街に戻って来るとはな!』その声には、明らかに憎しみの色が混ざっていた。『この赤毛の魔女が!』


     *


「こちらです。木花さん」それからしばらくしてミスターは言った。「頭をぶつけないよう、気をつけて下さい」


 それは、細い路地の壁にポコッと開いた、小さな円いなにかだった。ちょうど人が屈んで歩けるくらいの。ミスターは続けた。


「こちらを通って行きましょう。ここはまだ彼らに見つかっていないので」


 この円いなにかは、彼が張った異空間トンネル、その出入り口のひとつだった。彼は、区内を中心に、その他都内各所へと通じる抜け道を作っていたのである。であるが、


「どうやら時空の歪みを検知出来る能力者がいるらしく、見つかったものから封鎖されているのです」


「これ、このまままっすぐ進めばいいんですか?」エマは訊いた。腰を屈めたまま。


「ええ、ここは一本道ですから」ミスターは答えた。彼女の後ろを、同じく屈んで歩きながら、「さっきと同じ黒い円が見えたら止まってください」


 トンネル内部はパールホワイトに近い白色で、彼らが通る時だけうすぼんやりとかがやくようだった。


「あ、」突然エマが立ち止まった。こちらをふり向き、「ノート」


「ノート?」ミスターが訊いた。「なんのノートですか?」


 それは、例のビルで拾った、石橋伊礼の預言ノートのことだった。


「さっきのあれでお店に落としちゃったんだわ」


「残っていたんですか?」おどろいた声でミスターは訊き返した。「あれほど探したのに……」と続けてしばし黙考。それからゆっくり顔を上げると、「そうですね」と言って続けた。「そちらものちほど取りに行きましょう。八千代さんを助けるときに、一緒に」


 彼らはいま、ふたりだけでこのトンネルを通っていた。例の閃光手榴弾と続いて突入した黒づくめの男たちに八千代が連れ去られたからである。


 男たちは武装し、それでも萎縮し、とにかく八千代を捕まえようと、エマやミスターには目もくれず、とにかく彼女を取り囲み、そのためふたりに、逃げ出す隙を与えてしまったのである。


「佐倉さんの能力が世間に知られましたからね」ミスターは続ける。


 どうやらこちらの世界では、問題の灰原神人と佐倉八千代が直接的に対決し、そのとき撮影された動画――圧倒的なテレパス能力で灰原を痛めつける八千代の動画――が拡散、そのうえ『爆発』後も、様々な場面で、義憤に駆られた彼女が、黒ずくめの男たちやその他の権力者、抑圧者、差別主義者たちを攻撃する動画や画像やうわさが、その真偽も確かめられないままに流され拡散、結果、


「『赤毛の魔女』と恐れられては街を追われ、いまは行方知らずの状態です」


 と、そうしてまた、それと時間を前後して、石橋伊礼の預言能力も世間に知られることになったのだが、こちらは彼が既に死亡していたこと、彼が遺した預言ノートがすべて焼却されたこと等々から、いまでは気に留めるものもほとんどいないらしかった。先ほどミスターが「残っていたんですか?」とおどろいたのは、そういう理由である。そうして――、


「あ、」とふたたびエマが言った。前を指さし、「あれですか?」


 そこには、先ほどと同じ黒い円、トンネルの出口が見えていた。



(続く)

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