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転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第十八話「それでは、いい知らせをいくつかと、わるい知らせをいくつか。」
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その9

『いいだろ、それじゃあ、最終試験だ』


 と山岸の祖母が言った瞬間、だしぬけに彼女は消えた。


「え?」


 と八千代とエマは声に出さずにおどろいたが、直後、これまただしぬけにすべてが光に覆われたので、彼女たちはまたおどろいた。そうして、


「なに?」


 と今度は、声に出して二人はおどろいた。そのままとっさに腰を下ろしてしゃがみ込んだが、すると今度は、さきほどまでたしかにあった地面の感触がなくなっていることに気付き、更におどろいた。


「なんなの?」


 と次にふたりは、互いに互いの腕を取り、落下に、どこまでも続くだろう落下にそなえようとしたのだが、そうこうしているうちに光は徐々に引き上げて行き、勝手に丸まり球になり、かと想うと、可憐なひとりの少女に変わった。


『あ、あー』少女は言った。だしぬけに、『どうだい? 聞こえてるかい?』


 それは、山岸咲子の声だった。


『まずはあたしの調整が必要でね。どうだい? 聞こえてるかい?』


「え?」八千代はおどろき、


「おばあさん?」エマもおどろいた。


 なぜなら今度もだしぬけに、少女の基調色が白から青に変わったからだし、その後も赤とか黒とか黄色とかに目まぐるしく変わって行ったからだし、それと同時に、


『オッケー、聞こえてはいるみたいだね』といきなり甲高い声になったり、


『だったらこれはどうだい?』と逆に地獄の底からひびくような声になったりしたからである。


 八千代とエマは無言で首をたてにふり、互いに互いを一瞥してから、ふたたび少女の方を向いた。なにがなんだか状況を確認したいが、それよりなにより目がはなせないと言った感じだった。何故なら、その白ゆりのような少女は、いまでは落ち着いた中年女性になっていたし、かと想えば、浅黒く日に焼けた男のような格好でそこに立っていたからである。


『あれ?』彼女は訊いた。音程調節は終わったようだが、『ひょっとして見た目がいつもとちがうかい?』


 ふたりはふたたび首をたてにふった。


『ありゃ?』彼女は続けた。首をかしげて、『あまりに久しぶりで加減がよく分からないね』とふたたび少女の姿になりながら、『いま、あたしは何人に見える?』


 突然、周囲が彼女で覆われた。幾千、幾億もの重なり合う彼女たちで。


「ひっ」


 と同時にふたりは息を呑み、そのまま両手をぱたぱたぱた、彼女の姿を消そうとしたが、それら両手も重なり合っては幾千幾億もの波のように点のように目の前の空間に溶け込んでは区別が付かなくなって行った。


『ええい! もう!』と、山岸の祖母たちは一斉に叫んだ。『どうやるんだったかねえ……これ……』


 とアブラカタブラ……ではもちろんないが、なにか無数のひとりでブツブツブツ、呪文のようなものをいくつか唱え、


『これならどうだい?』


 すると今度は、重なり合った無数の空間たちがスルスルスルスル、ゆっくり静かに折り畳まれて、二枚の合わせ鏡のようになった。山岸の家の祖母は、少女の姿に戻っていたが、合わせ鏡の無数の自分にすこしおどろき、


『ああ、たしかにこれじゃあ』と、ふたたびなにやらブツブツブツ。急いで自分に年を取らすと、


『これならどうだい?』両手を開いてふたりに訊いた。


「ああ、それなら――」


 と今度は、エマも八千代も答えそうになったが、それも束の間、


「あ、いえ、でもでもでもでも――」


 と、ふたりそれぞれ、合わせ鏡の両端を指さしながら言った。


 なぜなら、すぐそこの彼女は見慣れたいつものおばあさん姿になっていたが、それでもそれは少しずつ変化しながら、ほぼほぼ無限に連なっていたからである。右の端は赤ん坊、左の端は何やら分からぬ暗闇あるいは光であった。


『ありゃ?』と咲子はふたたび首を曲げ、『ひょっとして、まだまだたくさん見えてるのかい?』


 ふたりは無言でうなずいた。祖母は続けた。


『やっぱり生身と霊体じゃあ勝手が違うのかねえ』と、鏡の向こうにトントントン。向こうの自分の肩を叩いて、


『この時空の確率軸を見せたいだけなんだけどねえ』と叩かれるままにそちらをふり向き、


『なぜか、あたしのだけが強調されてるねえ』


 それから、合わせ鏡の彼女たちは、今度は前を向くよう目の前の自分に合図した。


 すると今度も、ほぼほぼ一斉に、彼女たちは前を向くと、山岸の家の祖母は、そこにいくつかの空白、彼女たちの中にある抜け漏れに気付いた。


『あ、なるほど』彼女は言った。『あの辺で不連続性が生じているんだね』


 何と説明すればよいのかよく分からないが、ほとんどの物体――だけではなく時間や空間も――は本来、確率軸に沿って連続的に変形・変質し、切れ目のないチューブのように連なりながら、ほぼほぼ無限に存在している。


 が、もちろんそれらは、ほぼほぼ無限に続くそれぞれ個別の宇宙に存在しているため、互いが互いを認識、ましてや見ることなど出来るはずもないのだが、


『しかし、『時の魔法』なら、それが出来る』と山岸咲子はほほ笑み、『まあ、もちろん、それが『“時”の魔法』かどうかもよく分からないけどね』


 それから彼女はゴニョゴニョゴニョ、さらに新たな呪文をナンタラカンタラ――、


『これでどうだい?』


 するとようやく、祖母の姿はひとりに収束、代わりに、エマと八千代のまえには、ほぼほぼ無限に伸びた銀色のチューブ――のようななにかが現れた。


 それはかすかに揺らぎ、ひかり、うねり、時おり何かのすきま風か古いネオン管のような音を出していた。


 コッ……ォオォオァオォアォアォア。


 みたいな感じで。


 縦になったり横になったりをくり返しながら、ところどころに虫食い、あるいは虚無が穿った穴のような空白・暗黒を覗かせながら。


「これは?」エマが訊き、


「なんなんですか?」八千代も訊いた。


『宇宙だよ』祖母は答えた。『ところどころすでに欠けたり消えた――』と言いかけすぐに止め、代わりに、『確率軸に沿って、連続的に存在している無数の宇宙。その概念、ミニチュアモデルみたいなもんだよ』


「宇宙?」ふたたびエマが訊き、


「確率軸?」ふたたび八千代も訊いた。


『これからふたりには』山岸の家の祖母は答えた。『この宇宙のひとつに飛んでもらうよ』と。『その宇宙の未来にね』と。


 それが、最終試験。


『そこで見たもの、聞いたもの、それらに耐えられ止まれるか、それでも一歩を踏み出せるか、それをふたりに試してもらう』と。



(続く)

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