その5
そう。そうして、ヤスコたちの能力者探しは現在、一時保留となっていた。何故なら例の『水使い』吉野浩治が殺されたからである。犯人は不明。殺害方法その他も警察側が必死に隠していることもあってヤスコら部外者がそれらを知ることはなかった。が、ヤスコには奇妙な直感・直観があった。
「吉野さんは能力を知った誰かに殺されたんじゃないでしょうか?」
と、これまでの『リスト』調査で見聞きした、能力者候補の殺害、失踪、行方不明などと今回の件は地続きであるように想えて仕方なかったからである。
「でもいったいなんのために?」男が訊いた。彼女の隣で、「あと、吉野さん以外の方は、能力があったかどうか分からないんですよね?」
ここは、吉野浩治の殺害現場――それはつまりは彼の自宅だが――からほど遠くない小さなコーヒーショップ。奥側テーブルに座るのは、ヤスコとこの男――藤間和雄に扮した灰原神人、それにミスターの三人である。
彼らは、吉野浩治殺害の翌日、その現場を見に行くか、見に行くとして今後の能力者探しをどうするか、その打ち合わせをするはずだったのだが、例の祝部家の一件でミスターが離脱、ヤスコと藤間(灰原)だけでは話がまとまらなかったため、本日改めて、話し合うことにしたのだが――、
「あったと想う方が自然じゃないですか?」ヤスコは答えた。「実際、『リスト』に載っていた藤間さんにも吉野さんにも能力はあったわけですから」
「でも、僕のところには誰も来ていませんよ」と藤間(灰原)は応えた。「それともこれから誰かが来る? 僕の命を狙って?」
「そこまでは分かりませんが、あるいは――」
「だったら」彼は続けた。すこし強めに、「だったらそれこそ、彼らに会わないと。忠告のためにも」
「うーん。それはそうなんですけど――」
「なにをそんなにためらっているんですか?」
そう。実際問題、ヤスコはかなりためらっていた。この『リスト』の解明に。能力者探しを続けることに。
たしかに彼女はこれまでも、『リスト』の調査や候補者への電話ヒアリングを行う中で、彼らの身に起きた不幸その他を見聞きしてはいたが、それはあくまで会ったこともないひと達の不幸であった。
が、それが今回、吉野浩治という、実際に会って話して次に会う約束までした人物が亡くなったという現実を受け、今まで見聞きしたそれら候補者たちの不幸にも急な重力が生まれて来たのである。そうして、その重力が彼女の上に乗り、彼女の動きを鈍らせることになったわけである。であるが――、
「いずれにせよ、彼らに会ってみないと分からないことばかりじゃないですか」
と言う灰原からしてみれば、いまのこの能力者探しは、彼らから能力を奪い自分に積み増しするための、いわば大変効率的な作業であり、それをひとりの女のナイーブさで邪魔されては困る。だったら、
「だったら」と、ここで彼は提案する。「こういうのはどうですか?」言葉にすこし、『パープルマン』をまぶしつつ、「先生の気持ちが落ち着くまで、『リスト』を僕に貸すというのは?」
「え?」ヤスコは訊き返した。「藤間さんに?」
パープルマンの効果だろうか、彼のこの提案は、これはとてもよい提案だ、私の肩の荷を降ろしてくれる優しく甘い提案だ、とヤスコに感じさせるものであった。彼女は応えた。
「あ、ああ、それはいいアイディアですね」
と、いますぐにでもその提案に同意しそうないきおいで。がしかし、
「たしかに」
とここで彼女は、テーブルにすわるもうひとりの人物、赤毛のミスターの声にハッとさせられることにもなる。彼は言った。
「たしかにヤスコちゃんには仕事もあるし、最近けっこう、ハードなことが続いたしね」
一応補足しておくと、ヤスコは最近、近しいひとをふたり亡くしている。
ひとりは問題の『リスト』の製作者で実父の昭仁であり、ひとりは昭仁の部下という触れ込みで現れた小紫かおるであった。
もちろん、かおるについては、「近しい」と言うには会ってからの日は浅かったし、昭仁の部下と言うのもウソではあったが、そのウソが逆に、彼女に『リスト』の調査を続けさせる動機のひとつにもなっていた。
と言うのも、前にも書いたとおり、かおるの死の当日、彼の本当の上司である祝部優太がヤスコのもとを訪れ、かおるのウソの内容を、彼が『リスト』目当てで彼女に接近したことを、彼女に説明して行ったからである。
優太の目的もまた『リスト』であり、実際問題、彼に『リスト』を渡してしまえば、そこで彼女の肩の荷は下りていたかも知れないのだが、彼女はそれをしなかった。
何故ならそれは、あまりに話が唐突で、優太のことを信用し切れなかったことはもちろん、『リスト』の中には気になる名前(山岸まひろやその他ヤスコの知人たち)もあり、おいそれと他人に渡す気にはなれなかったからだし、そうしてなにより、この『リスト』が父・昭仁の一番の形見であり、またあるいは、この『リスト』が、彼女にウソを吐き続けたあの男――彼の告白を彼女は憶えていないが――との唯一もっともらしい繋がりのように想えて仕方がなかったからである。彼の気持ちに彼女が応えられないことに変わりはないが、だからこそ、余計に。そのため、
「だからさ、ヤスコちゃん」とここで彼女の友人、赤毛のミスターは言う。「まずは僕と藤間さんに任せてよ」彼女の肩をやさしくなでながら、「『リスト』なら僕が預かるからさ」
(続く)




