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転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第十八話「それでは、いい知らせをいくつかと、わるい知らせをいくつか。」
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その3

「ドラマチックなのにしてよね、その方が想い出したときのエモさがちがうから」


 そう。そうして、右のセリフの数日後、祝部ひかりはおどろいていた。


「ほんと?」とこころの底から本心で、「本当にお父さんに会えるの?」


「本当よ、ひかりちゃん」深山千島は答えた。「団体のひとから連絡があって、あなたのお父さんに間違いな――」


 すると、


 ぎゅっ。


 と突然ひかりが深山を抱きしめた。彼女の胸に顔をうずめ、


「ありがとう」と流れる涙を必死で隠すように、「ありがとう、おねえちゃん」


「いいのよ」深山は応えた。彼女の頭をなでながら、「かわいい妹のためだもの」


 さて。


 優太や守希が娘のことを忘れ新たな記憶を貼り付けられたのと同様、彼らの娘ひかりにも、新たな記憶は貼り付けられていた。


 そう。


 その貼り付けられた記憶の中で彼女は、幼い頃に実母と死に別れ、父親は不明、親戚である深山千島の家に引き取られ、彼女を姉と慕い……とかなんとか、そんな人生を生きていた。大まかなシナリオを書いたのは友枝久香で、それに細かな調整を加えて貼り付けたのはもちろん深山である。であるからしてひかりに、『おねえちゃん』と呼ばせたのには深山の趣味と言うか、こうありたかった人生みたいなものが反映されていたし、ここで出て来た『あなたのお父さん』とはもちろん優太ではなく――友枝久香のシナリオどおり――彼女の実父・山岸富士夫のことであった。そうして、


「どんなひと?」とひかりは訊いた。深山を抱きしめたまま、「写真かなにかないの?」と言って顔を上げ、「私のおとうさんの」なみだが少し、残っていた。


 ここは、彼らがいまいるこの場所は、仕事と進学の都合で家を出た深山とひかりが、一緒に暮らすために借りたマンション、その一室――という設定の場所である。


「そうね」深山は答えた。ひかりの涙を拭いてやり、「もらって来た資料に写真もあったはずよ」と怒りは隠し微笑んで、「よかったら一緒に見る?」


「うん」ひかりは応えた。うれしそうに、「本当に会えるんだよね、そのひとに。私の本当のお父さんに」


「そうね」深山は答えた。ひかりの手から離れつつ、「鞄とって来るからちょっと待ってて」涙もついでに隠しつつ。


「でも、ほんと楽しみ」ひかりが言った。歌うように、浮かれるように、「いったいどんな人かなあ、やっと会えるんだもん、きっとやさしいひとだよね」と深山の怒りと涙に気付かぬままに。


 そうして――?


     *


「時間と場所は分かりましたよ、金平さん」


 と、そうして時間は前後して、山岸富士夫は応えていた。淡々と。事務的な口調を変えないように注意して、電話向こうの金平瑞人に――しかし、


「しかしいい加減、相手の名前くらいは教えて頂けませんかね? こちらにもこころの準備というものがありますし――」


 ここは、富士夫の会社の社長室。いま彼らが話しているのは、第十六話の(その16)で天台烏山が富士夫に「会って欲しい人がいる」と金平経由で伝えた、例の会合のことである。であるが、


「いや、いくら金平さんが聞かされていないとは言っても、それこそ金平さんから天台さんに訊いて頂くとか、せめて年齢や仕事のヒントくらいは教えて頂かないと。ただただ、私と縁が深いとか、私もよく知っている人ってだけで――」


 とひき続き、富士夫はもちろん金平もその会合相手のことは知らない、教えて貰えていない様子であった。


「しかも相手は女性でしょう?」富士夫は続けた。別に疑うつもりもないが、ここ最近は女性がらみで色んなことが起きている。「その……もし……なにか誤解を招くような……」


 がしかし、この懸念に関しては、


『その心配はまったく無用』そう金平は答えた。それこそ事務的に、『富士夫さんにはただただ、その彼女に会って頂きたいだけだそうです』


 カチャ。


 と、そうして彼らは電話を切った。金平から言うことはもうなかったし、これ以上のことを彼が知らないのは事実なのだろう、と富士夫も納得したからである。そうして――、


 ブブッ、ブブッ、ブブブブブッ。


 とそうして、それから一時間も経たないうちに、彼のところに想わぬ来客はあった。


「なに? なんだって?」富士夫は訊き返した。


『ですから、警察の方です』事務の女性は答えた。社長室のスピーカー越しに、『石神井東警察署の署長さんと刑事さんが、なにやら社長にお聴きしたいことがあるとか――』


 そうして――?


     *


「それでは、直接会われたことはないんですね?」


 とそうして、十分も経たないうちに男はそう訊ね、富士夫は答えていた。


「会合やパーティーでなら、お会いしたこともありますけどね、それくらいです」


「亡くなられたお父さまは?」男は続けた。


「付き合いはあったようですが」富士夫も続けた。「私にはなにも――亡くなってから知ったくらいで」


「おばあさまの方は? 若い時代の彼を援助? されていたとか」


「最初の仕事を紹介したみたいな話なら聞いたこともありますが……ああ、そうそう。祖母の葬式に彼の会社の方が手伝いに来てくれましたよ」


「ほう」


「とは言ってもひとりだけ。天台さんご本人は通夜にも本葬にも来ませんでしたから。まあ、その程度の関係だったのでしょう」


「すみませんが、その来られた方の連絡先は? お名前とか」


「え? あー、いや」富士夫は少し考えた。「名刺は頂きましたが、どこにやったか……名前も……なんだかよくある名前でしたし、なにぶん通夜の準備でバタバタしていたもので――」


 と、そうして、それから三十分ほどの間、富士夫は、こんな調子で、石神井東警察署の刑事と女署長とに対応していた。とは言っても、もっぱら訊いて来るのはメガネで大柄な刑事の方で、小柄な――正直富士夫は最後の最後まで、彼女が刑事であるとは、ましてや警察署長であるとは想えなかったが――女署長の方は、彼らの会話を丁寧にメモしているだけだった。ただ最後に、


「あのー」と不思議な顔で彼女は訊いた。「ひょっとしてですが、マリサさん。マリサ・コスタさんをご存知ではないですか?」


「え?」と富士夫は一瞬戸惑ったが、これもすぐに体勢を整えると、「あー、いや、聞いたことはない……と想いますが……そちらも天台さんの関係者で?」


「え?」と彼女・小張千秋は応えようとして、「あー、まだちょっと分かんないんですけどね」と引き続き、不思議な顔で言うだけだった。「ひょっとしたら、なにかご存知かと想って」



(続く)

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