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転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第十八話「それでは、いい知らせをいくつかと、わるい知らせをいくつか。」
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その1

 森のなかは相変わらずやわらかな雰囲気だったが、どこか奇妙な緊張感は続いていた。森の奥からと言うよりは、どこかとおく離れた別の場所から聞こえる、なにかの糸の切れるような感じで。


「あ、」と山岸まひろは声をあげた。ちいさく。それからすこし非難気味に、「ちょっとミスターさん、どこ行ってたんですか、また突然消えちゃって」


「ああ、ごめんごめん」赤毛のミスターは答えた。大きな樫の木陰から、「ちょっとまた呼ばれちゃってね」


「呼ばれた? 誰にですか?」


「あー、呼ばれたって言うか、気付かされたって言うか、いきなり飛ばされたって言うか」


「は?」


「まあ、でも、これでしばらくあっちの方へは呼ばれることはないだろうから、安心して」


「すみません。話がよく見え――」


「ないよね。仕方ないよ、僕もだんだん見えなくなって来てるから。想い出せなくなってるってのが正しいかもだけど」


「はあ」


「ま、でも、これでつぎ呼ばれるとしたら別のところだろうし、そのときは君をのこして勝手に行ったりはしないよ」


「はあ、それは助かりま――」


「で? どうだい? 『リスト』の方は? 進んでる?」


「え? ええ、言われたとおり上から順に能力を試してはいますけ――」


「あー、いいねいいね、このチェックが確認済みってこと? こっちのバッテンは?」


「あ、それは、能力のコピーが出来なかった人たちで――」


「桑原敏夫……段野耕作……藤間和雄……? なんだろ? 理由は分かるかい?」


「いや、とくに変わったことは……」


「ふーん? 他の人のは上手く行っているんだね?」


「ええ、正しいかどうかは分かりませんが、一応、なにかしらの能力は」


「ひい……ふう……みい……うん。まあ、これだけあればいまのところは十分か――まひろくん!」


「はい?」


「このバッテンの人たちについては、僕の方で調べておくよ」


「あ、はい。お願いします」


「で、くり返しになるけど、次に『呼ばれる』ときは、君をのこして行ったりはしないよ」


「あ、はい、それもよろし――」


「何故なら次の場所へは、君も連れて行くことになるだろうからね」


 そうして――?


     *


 そう。そうして、林のなかは相変わらず穏やかな雰囲気だったが、どこからか冷たい空気が流れ込んでもいた。誰かのなにかのむせび泣きと言うよりは、悲しい時間を包み込む、不思議なギターの音色のような感じで。


「あれ?」と佐倉八千代は声をかけた。いつもの調子で、それでもどこか、遠慮気味に、「なにかあったんですか? おばあさん?」


『え?』山岸の家の祖母は答えた。『あ、ああ、ごめんごめん。ちょいとぼーっとしてたね』と遠く西の方へと向けてた顔を八千代のほうへ戻しながら、『ちょっと、気になる声が聴こえたもんでね』


「声?」不思議な顔で八千代は訊いた。しかしそれでも無自覚に、「声なんて聞こえました?」


『え?』と山岸の家の祖母は訊き返しそうになったが、『あ、いやいやいやいやいやいやいや』すぐに片手を左右に振ると、『流石にこれは、お嬢ちゃんでも聞こえないだろうよ』


「は?」


『と言うか、ひょっとして、なにか感じてたりするのかい?』


「なにか?」


『誰かの声――てはないんだろうけど、それに近いなにか、風とか音とか空気の揺らぎとか』


「あ、はい、それは」八千代は答えた。それでも無自覚無意識に、「あっちの」と西の空を指しながら、「ちょうどおばあさんが見ていたのと同じ方角から、冷たい風? 音? 悲しい時間? みたいなものが」


 空はたかく、すっかりと晴れわたり、どこかの森が大きく風で揺らいでいるのが分かった。


『ほお』と山岸の家の祖母はつぶやいた。『まさかこれにも気付くなんてね』と若干おどろいた様子で、『修行のおかげか元々なのか……』それからすこし考えて、『お嬢ちゃん』


「はい?」


『ミスターさんから聞いたよ。エマちゃんとふたり、なにかあたしに話したいことがあるんだろ?』


「え? あ、はい。実は――」


『あ、待って、待って』


「はい?」


『“エマちゃんとふたり”話したいことがあるんだろ?』


「え? あっ、そっか」


『ふたりで話すと決めたんなら、勝手に話しちゃだめだろ? あの子も呼んでおいで』


「あ、はい」と彼女の言葉に八千代は、そのままそこを離れようとした。が、すぐにたちどまると、「あ、でも、おばあさん?」


『なんだい?』


「“あっち”は大丈夫なんですか?」とふたたび西を指差し訊いた。


『え? ああ』祖母は答えた。『孫の……ひ孫のことでちょっと気になることがあったけどね。あっちはあっちで、まあ、なんとかなったようだね』


 そうして――?


     *


 そう。そうして、彼女のオフィスは相変わらず冷たく暗い雰囲気だったが、彼女、友枝久香の声はどこか明るく楽しそうだった。新しい服を買って貰えた少女と言うか、すでにそれには着替え終え、いまは夏のパレードを待っているといった感じで――それで?


「それで?」と彼女は訊いた。「奥さまの方は? 大丈夫でした?」


「ええ、はい、おかげさまで」と祝部優太は応えた。自分のメガネのフレームが変わっていることには気付いてもいない様子だった。「記憶がまだすこし混乱しているようですが、検査の結果はどこも悪くはないようで、しばらく安静にしていれば治るそうです」


「いろいろストレスもあったのでしょうね、おうちの火事とか」


「ええ、でも、それもボヤですみましたし、倒れたと聞いたときはおどろきもしましたが、いまではすっかり元気なようで――」


「休みたいときはいつでも言って下さいね。祝部さん、有休まったく使っていませんし」


「ええ、はい、そう言って頂けると助かります」


「祝部さんに倒れられたらこちらも困りますし、くれぐれも無理だけはしないよう、とにかく今は、奥さまを大切にしてあげて下さい」


「ええ、はい、それはもう」優太は答えた。「うちは子どももいませんし、夫婦ふたり、家内にはいつまでも元気でいてもらいたいですよ」



(続く)

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