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もしもまだ、ぼくを必要としてくれるなら。(2/2)

 承前。


「ねえ? 作者さん? これ、ほんと大丈夫なんだろうねえ?」


 うん。


 それではここで、この物語の冒頭、本当に本当の冒頭に書いておいた、『謝辞。』と題された文章をご確認頂きたい。たしかにあそこで私はこう書いている。



 『詢吾へ

  杏奈姉妹と我が愛猫フェンチャーチに

  こころからの感謝をしたい。

  今回の物語への参加を見送ってくれたこと、

  虹色のアフガンを貸してくれたこと、

  それから、

  ときどき聞こえる

  彼女たちのわらい声に。

  ありがとう。

  ようやく書けたよ。』



 とか、まあ、そんなことを、なんか、こう、それっぽい感じで、しかも、「ようやく書けたよ」とか、まるで最後まで書き切ったかのようなテンションで。


 がしかし、賢明かつ懸命なる我らが読者諸姉諸兄の皆さまにおかれましては、先刻お気付きのとおり、この作者が、そんな最後まで書き切ってから連載を開始する、あるいは冒頭謝辞を置くようなまじめ人間であろうはずもなく、この右の文章は、全体の最終プロットを書き終わって後、だいたい七話か八話の初稿が上がったくらいの段階で、


「あ、これ最後までいけるかも」


 という楽観主義的希望観測的適当な未来予測的観測の下、深夜のファミレステンションで書いて載せちゃったものであった。


 であったからして、物語の細部に関する記述は省き、なんだかかっこいい雰囲気を匂わせつつ、それでも一応、先述の全体プロットを再度確認、


「えーっと? うん。これくらいなら書いても大丈夫だな」


 と書く内容を決めたはずなのだが…………なんでうちのネコはそこにいるんだ?


     *


 と言ったところで、


「うにゃんが、ごろニャゴ」とネコは言った。ミスターの足をぺしぱし叩きながら、「うんにゃご、うにゃうにゃ」


「え? なに? 本当かい?」ミスターは訊いた。「あのロウフィストラが僕たちを?」


「ほにゃあ、ふぇにゃあ、ほんふゃん、ほふゃん」


「ああ、お母さんのいる惑星に行くからそのついでに送ってくれるってことか……って、お母さんに会いに行くのかい? あのロウフィストラが?」


「ふぇあーん、ふやん、ほん、ふぇやん」


「あー、それでいま彼は亜空間メールを書いているのか、『もしもまだ、僕を待っていてくれるなら……』」


「『にゃんの、にゃのなの、にゃのなのにゃ……』」


「『エシクス樫の木の上に黄色のリボンを結んでおいてくれ……』いやいや、フェンチャーチくん。それはきっと待っててくれるさ」


     *


 と言ったところで。


 が、いや、まあ、それでも、どうして彼女がそこにいるのか、大体の話は分かる。と言うか、分からないことは分かる。と言うのも、本当に困ったことなのだが、物語にしろ、登場人物・キャラクターにしろ、彼らは、ある日ある時ある水準を超えると、ふぃっ。と作者の手からも、そもそものプロットからも逸脱、自由に動き始めるからである。


 であるからして、こちらのこの樫山フェンチャーチ嬢も――そもそも彼女には時空を超えた放浪癖があるし――きっと待つのに飽きたのだろう、一度は参加を見送ったこの物語にも何かしらのかたちで関与したくなり、飼い主兼作者の私にも無断で飛んで行ってしまった、ということなだろう――本当に困ったことだが。


 と言ったところで。


 先ほどミスターが発した問い「これ、ほんと大丈夫なんだろうねえ?」になにか私が返せる言葉があるとすれば、それは、


「知ったことかよ、バカ野郎」であるし、


「どいつもこいつも勝手に動き出しやがってさあ」であるし、


「こんなのどこでどうつじつま合わせろっていうのさ」ということになる。


 赤ペン片手に、ぼっろぼろのプロットノートを読み返しながら。


 ほんとさー、なんかさー、本編の方もさー、興が載ったのか知らないけどさー、どいつもこいつもさー、予定にないセリフ言い出したりさー、感極まって泣き出したりしてさー、中にはさー、


「ちょ、ちょい待ち、あんたそんなチートスキル持ってたの?」


 みたいなさー、そんな設定いつ渡した? そんな筋立ていつ考えた? 勝手にお話つくらないで頂けますか? って展開がまあちょこちょこちょこちょこ出て来ててさあ、それでもその都度プロット修正して来たんだけどさー、なんだよ! 多元宇宙を行き来するネコってッ! だからッ! あんたはッ! 今回のお話不参加にしたんじゃなかったのかよッ?!


 あー、もういいや、寝ちゃお、寝ちゃお、寝ちゃおッ。寝ちゃおう、寝ちゃおう、寝ちゃおーッ!


(そう! 寝ちゃおーっ!)


 そうして――?


     *


「するとあなたは! やはり我が息子ロウフィストラなのですね!」


 とそうして、美貌の女王アーゲイアは叫んだ。感極まり、あふれんばかりの涙を、その美しき瞳に湛えながら。ロウフィストラは答えた。


『お、おっかさん!』と天をも揺るがす大きな声で、『待って、待っててくれたんじゃのう!』


 こちらは再会のなみだを堪える余裕もなく、おいおいおいおいおーいおい。と泣けるだけ泣きながら、よだれや鼻水をすすりながら、ふてくされて寝ている作者のことなど気にもせずに。そうして――、


「よ、よか、よか、よかったわねえ、ロウちゃん」とか、


「ぼ、ぼ、ぼく、ぼくも、苦労して彼をヒト型に戻せてよかったよ」とか、


「ふにゃんにゃ、にゃごにゃご、ごろにゃーご、にゃにゃがにゃんにゃん、ふぇあーにゃ、ふにゃん」とか、


 怖じ気づく彼をなかば無理やり故郷の惑星タウ=ラウストンまで連れて来たズッコケ三人組(ミスター、ナオ、フェンチャーチ)も泣きに泣いていた。


 何故なら、彼らがこの地に着いたとき、この惑星にある樫の木という樫の木の、そのてっぺんには、大きな大きな黄色のリボンが結ばれていたからである。ズッコケトリオは続けた。


「わ、わ、わたし、あ、あ、あのリボンを見たとき、ま、まるで奇跡、奇跡のようだなって」とか、


「あんな、あんな、あんな美しい光景は、ろ、ろ、600年ちかく生きて来て、は、はじめ、はじめてだったよ」とか、


「ふぇにゃんほ、にゃんにゃん、ふぇーん、ふぇん。ふぇにゃんほ、ふぇんふぇん」とか、


 こちらもこちらで、涙と興奮と鼻水で目や耳や鼻を真っ赤にしながら、買い置きの箱ティッシュをすべて使い切りながら、そうしてこちらも、ふてくされている作者の気持ちや、放置されているプロットノートのことなど気にも止めない様子で。とここで、


『おーい。フェンちゃん、ナオちゃん、ミスターさん』とロウフィストラ(ヒト型)が彼らを呼んだ。『おふくろがぜひ、三人を王宮に招待したい言うとるんじゃがのう』そうして、


「あなた方こそ我ら親子の救い主」と女王アーゲイアがそれに続いた。「こころばかりの食事ともてなしを是非お受けいただきたく」と。「次の目的地へは、我が惑星一番の船と船乗りたちを用意し、ぜひ彼らに送らさせましょう」と。


 彼らの次の目的地とは、これも『シァイザの巫女』の予言にあった「九つの太陽と九つのコラプサー(崩壊星)に囲まれた魔の宙域」いわゆる『シン=ガリプシ宙域』であり、ここは、その特徴からもお分かりのとおり、


「よほどの船乗りたちでなければ近付くこともままならぬ危険な場所」と、流石の王妃も注意をうながすエリアであった。「是非、我らにも協力させて頂きたく」


 とこうしてナオら二人と一匹は、王妃のご好意に甘え、彼らタウ=ラウストン人の宇宙船で、次の場所へと向かうのであった。


 しつこいようで恐縮だが、ふてくされて寝ているこのお話の作者や、修正されないままのプロットノートなどについては、まったく、なんの注意も払わずに。



(続く)

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