表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
304/405

シュレディンガーのネコ(2/2)


 承前。


「え?」と空から落ちて来る無数の黒い点を見詰めながらナオはつぶやいた。「落とし物?」


 そう。


 それは確かに、いつかどこかで誰かが――あるいはあなたやわたしが――落としたり失くしたりした、いくつものいくつものいくつもの『行方不明物質』であった。


「きゃっあぁぁあああああああああああああ」


 ナオは叫び、逃げ出そうとした。


 がしかし、それら黒い点は、空のありとあらゆるところに現れては落ちて来ているのであって、いったいどこに逃げればよいのか? そう考えると次に彼女は、


「どこか、どこか、かくれるとこ!」


 と周囲を見渡し、ちょうど十メートルほど先に、自分とミスターが潜り込んで身を隠せられるほどの、狭い岩陰を見付けた。


「もうッ! なんでッ! 起きないのよッ!」


 そう言いながら彼女は、彼を引きずり引きずり、その岩陰へと移動して行った。空中からは引き続き、すっかり黄ばんだマンガ本や、使い古した色付き消しゴム、それに、組み立て式の家具には必ずひとつは入っている、あの、使い方の分からない、ネジだかなんだかよく分からない、そんな部品みたいなものたちが、雨のように降り続いていた。


「いたい、いたい、いたい、いたい、いたい!」


 彼女は叫んだ。それら誰かの落とし物なり失くし物なりを肩や背中に受けながら、


「あーもうッ、なんでッ!」と続けて不満を叫びつつ、「どうしてこんな宇宙の果てに、こんなにいっぱい物が降るのよッ!」


 それから彼女は、いくつかの使い古された軍手(右手のみ)に視界をふさがれたりしながら、どうにかこうにか、その岩陰へと自分とミスターの身体をすべり込ませると、一度しっかり目を閉じて、それからふたたびパッと開いて、そうして今度は、ゆっくり息を吸い込んでから、ゆっくりそれを吐こうとして、


「は?」と息の代わりの大きな疑問符を吐くことになった。「飛行機?!」


 そう。


 それは、古いタイプの四発式大型プロペラ旅客機であり、そいつはいま、ディオーネの青い空を、真っ赤な炎を上げながら、『カルヘドセ』の中心めがけて堕ちているところであったし、また、それとは別に、その反対側では、


「え? なに? 潜水艦?」


 と、全長85mほどのパーミット級原子力潜水艦が、背中にいくつもの銛を打たれた白色マッコウクジラや無数のペチュニアの鉢植え等とともに、『シカール』の頭上――六つある中の左から三番目――へと、今まさに落ちたところでもあった。


 ドッォオンッ!


 と大きな爆発音がして、


 ごぁあぁぃゃぁあぁぁぁああああ。


 と『シカール』は声にならない叫びを上げた。が、それも束の間、潜水艦にひき続き今度は、どこかの国の丸太小屋や、へしゃげたコンテナ貨物、子どもが必死で集めて興味を無くした大量のどんぐり&松ぼっくりの袋等などが、次から次へと彼らの頭上へ降り注いでは彼らに奇妙な叫びを上げさせるのであった。そうして、


 きっしゃぁあぁあ、あぁあぁぁあっ!!


 と驚きの声を上げたのは彼らだけではなかった。上空を旋回していたオウギワシの三妖女も同様であった。なぜなら、


「やーだやだやだやだやだやだ」と、『それ』が近くに落ちて来たとき、山岸ナオも、顔をしかめてこう叫んだからである。「なんでッ! カエルまでッ!」


 そう。それは大量のカエル。カエルの雨あられだった。ウシガエルを中心に。ヒキガエルにツノガエル、アカガエルにアマガエル、中には毒を持ったヤドクガエルやフキヤガエルなんかも混ざっていて、これらは、空を飛んでいた三妖女たちの上に容赦なく降り注いではまとわり付き、自分たちもろとも、彼女たちを地上へと堕とし、そのままその地に埋め溶かしてしまったのである。


 きっしゃぁあぁあぁあぁああぁあぁあぁあぁあ!!!


 と、三妖女の断末魔がひびき渡り、


「やーだやだやだやだやだやだやだ! やーだやだやだやだやだやだ!」


 と、山岸ナオは目をつむった。ギュゥっと。先ほどまでとはまた違う悪夢の光景に、寝ているミスターの腕を取っては、そのわき腹へと顔を埋め、そうしてそのまま視神経を圧迫しておけば、この悪夢もきっと終わる、いやきっと終わって欲しい、と祈るように。がしかし、たしかにこれは悪夢だが、たしかにここは現実でもあった。そのため、


 ぺしぱし、ぺしぱし。


 と突然、そんな彼女の頭を叩く者がいた。小さく、柔らかな、肉球付きの前足で。くり返し、くり返し、くり返し。


 ぺしぱし、ぺしぱし、ぺしぱしぺし。と。


 すると彼女は、


「え?」とおどろき目を開き、顔を上げると、そこにいたある者に、さらに驚かされることになった。「なんで……? どうしてあなたが?」


 それは、三毛とサバトラとキジトラを、足して合わせて二で割って、生意気さを掛けたような、あまりキレイとは言い難い、どちらかと言えばブチャイクな、一匹のメスネコであった。


「うそでしょ?」ナオは訊いた。「本当にあなたなの?」と。「本当にあなたなの? フェンチャーチ?」と。


 にゃーーーーーーーーん?


 あいまいな感じで、ネコは応えた。



(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ