その14
さて。
前にもどこかで書いたと想うが、宇宙は、ちょっとなにを言っているのか分からないくらいに、多い。流石に無限ではないが、それでも、数え切れないと言ってしまってまったく差し支えないほどに多いのは、確かである。
そうして、これも前にどこかで書いたと想うが、無限にちかいこれらの宇宙は、遠く遠く離れているとも言えるが、と同時に、すぐそこ、ここに隣り合って、あるいは重なり合って、存在しているとも言える。
どうしてこんな分かり難い書き方をするのかと言えば、これら宇宙の間には、
「これは決して、崩れることの無いジェリコの壁!」
と私の大好きな声優・宮村優子さんの声で言って頂きたくなるような、本当に、絶対に、ある意味けっして崩れることのない、それらを隔てる『壁』があり、そのため、その『壁』を乗り越え、あるいは突き破り、それら宇宙や宇宙の住人が、互いに交流することは――本来であれば――まあ先ず絶対にないことだからである。
そう。すぐ隣にいるはずなのに、決して触れ合うことが出来ない。それが――そもそもの本来であれば――これら宇宙や宇宙の住人たちの常態なのである。
が、まあ、皆さま既にお気づきのとおり、ここでわざわざ、『本来であれば』と二文続けて留保を付けたとおり、もちろんこれらにも例外はある。
そう。一番分かりやすいのは、いま現在、本編とはまた違ったタイムラインで、これら多元宇宙を行ったり来たりしている赤毛エイリアンと9才の女の子のようなケースであろう。
彼らは、発達し過ぎてまるで魔法のようになった科学の力で、これら『壁』の最も薄くなる時間と空間と確率を探し出すと、そこを抜け道として、自身の心や身体や魂といったものを量子や重力子などに仮置き、『壁』をすり抜け宇宙間を行き来する、といったようなことをやっていた。あの赤毛の、取っ散らかりつつものん気な雰囲気のせいで、そんなすごいことをやっているとはとても想えないかも知れないが、それでも。
と、ここまではよろしいだろうか?
よろしければ、次は、もう少し分かり難いお話になる。
そう。それは、この物語の時間軸で言うと、本編のおおよそ一年ほど前、ある女性――『魔女』と言ってよいと想うが――が、これら無数の『壁』をつなげ、自身もそれら無数の『壁』と無数の多元宇宙へと拡散・希釈されて行ったという、おとぎ話のようなお話である。
で、まあ、もちろん、こちらは本当に、おとぎ話のようなお話なので、この現象を起こせた詳しい理屈については、私の拙い筆では到底説明出来そうもないので省かせて頂くし、と同時にもちろん、こちらはおとぎ話のようなお話であるので、その魔女の彼女も、なんだかんだと、愛の力を使ったりなんかして、幸せな結末へと一応たどり着くのだが――、その辺の詳しい事情については、また別の物語に書いておいたので、こちらも今回は省かせて頂きたいと想う。(注1)
と言うのも、いま、この物語に必要なことは、その恐ろしくも美しい物語を反芻することではなく、その後に起きたちょっとした、だけれどとても重要な、この作者による業務上の大ポカと、その大ポカが引き起こしてしまっている大変な事態について説明しておくことだからであり、そうしてそれが、例の『コピー』と『壁』の関係を説明するためには必要だからである。
では、その、『大ポカ』と『大変な事態』とはなにか?
それは、先述のおとぎ話が終わったあと、つながっていた『壁』を離して宇宙を元にもどしたあと、ついつい、それらの『壁』にあった『窓』を開け放し、それを閉め忘れてしまったという『大ポカ』と、その結果、閉め忘れた『窓』を通り、それぞれの宇宙で暮らしていた人々、そこで死んだ人々の魂 (それは情報であり熱でもあるのだが)が、ある意味勝手に、他の宇宙へと飛んで行ってしまっているという『大変な事態』である。
*
「と、ここまではいいかな?」
と、ここで突然、ミスターが口をはさんだ。きっと、あまりの説明文の長さに、息抜き的場面転換が必要と考えたのだろう、頭の上クエスチョンマークまみれのまひろに向かって、
「まあ、よくなくても続けるけどね」
「はあ……」
で、さて問題は――これも前にどこかで書いたと想うが――、この『他の宇宙へと飛んで行って』である。と言うのも、
「本来、それぞれの宇宙は孤立系で、そのため閉じられていて、その初めから終わりまで、エネルギーの総量は変わらず安定しているはずなんだけど」
だけれどそこに、他の宇宙から死んだ人の魂 (それはつまりは情報であり熱である)が入って来たり、逆にこちらから出て行ったりすると、そこで、その宇宙のエネルギー総量が変わり、
「宇宙のエネルギー総量が変わると言うことは、その宇宙のバランスが崩れると言うことでもあって、これを無視し続けると、その宇宙は崩壊してしまうことになるし」
また、それに加えて、『壁』に『窓』が開いている以上、その宇宙の崩壊は、他の宇宙の崩壊をも招くことに繋がる。それも、
「それも最初はゆっくりかも知れないが、ある一定量を超えた時点で、それらの崩壊は連鎖反応的、等比級数的に増えて行くことになり、止めることが難しくなり、最終的には、すべての宇宙の崩壊可能性へと繋がるわけだけど――どうだい? ものすごく『大変な事態』だろ?」
「はあ……」とここでまひろ。「それはたしかに、大変な事態だとは想いますけれど――」とやっぱりまだまだよく分かっていないのか、「その大変なお話と、いま僕がやってる、この『コピー』がどう繋がってくるんですか?」
そう。それを説明するためには、この『バランスの崩れ』と、我々が見ている能力者たちの関係性を説明しておかなければならない。
「そう。それはつまり、この『バランスの崩れ』は、他の宇宙から来た魂たち、それを引き継いだ人たち――『転生者たち』――を中心に起こっている現象なんだけど」
この『バランスの崩れ』は、例えば念動力や、例えばテレパシーのような、いわゆる超能力的なものとして、この宇宙の現実に、彼らの身体や周辺に、発現しているのである。
「はあ?」と更にまひろ。ひき続き疑問符だらけの様子だが、
「ここまで言えば分かるよね」とそんなクエスチョンマークは無視してミスターは続ける。「君が身に付けようとしている『コピー』とは、彼らの能力――『バランスの崩れ』――をコピーし、利用するものなんだよ」
*
と言ったところで。
ここでようやく、今回の(その6)と(その7)でミスターがやっていた作業――問題の『リスト』の解読&アップグレードからの、『転生者たち』の位置・空間情報の把握並びに、時間・確率情報の割り出し作業――の意味が分かって来る。そう。それはつまり、
「それはつまり、このUG版リストを使えば、彼らの周囲で起きている『バランスの崩れ』が現在、どこで、どのような形、確率で発生しているのかを追えることが出来て」
更に、まひろ君の『壁』のちからを使えば、その座標情報から、彼らのもとに瞬時に移動出来るどころか、
「今回、このタイムバブルを作る時に使った『時空間複製装置』(注2)の原理を応用すれば、その『バランスの崩れ』すらコピー出来て」
更にそれらをまひろ君の『壁』にペーストしてしまえば、
「まあ、まひろ君がそれを使いこなせるようになるって前提だけど」
彼らと同等、いやそれ以上の能力を、まひろ君は発揮出来るようになるって寸法ですね。
「そうそう。そういうこと」
いやいや、ミスター。ツッコミどころは色々ありますが、それでもこれは結構なアイディアですよ。なんてったってまひろ君にしか出来ない芸当だし、これを自由に使えれば、彼女はほぼほぼチートな能力者になるってことですからね――ねえ、まひろ君?
「へ?」
と、ここでまひろ。いきなり話を振られたところで、彼女の頭上にはひき続き大きなクエスチョンマークが浮かんだままであり――って、ごめん。なに? まだよく分からないの?
「え? ああ、まあ」と続けてまひろ。作者とミスターを交互に見つつ、「なんとなく? は分かりましたけど……、なんと言うか……、色々こんがらがり過ぎていると言うか……、実感が湧かないと言うか……」
でも君、さっき、宙に浮かんだり水を操ってたりしてなかったっけ?
「はあ、まあ、それはそうなんですが……」とまひろ君。そろそろ頭上の疑問符が鬱陶しくなったのか、そいつをパタパタ払いのけると、「それでもその……、宙に浮かんでたのは、その『コピー』とは関係ない、『壁』の使い方の訓練でしたし……」
と続けて、今度は腕組み、なにもないはずの空間に、まるで巨大なビーズクッションでもあるかのように座りはじめると、そこに浮かんでぽわんぽわん、何食わぬ顔で、
「その『コピー』にしても」と言っては両手をくるくる、「この水のやつが初めてでしたし……」
と先ほどこぼした風呂桶一杯分の水を再び一箇所へ集めると、驚くこちらに気付いているのかいないのか、
「それもミスターさんのお腹の音でこぼしちゃったわけでしょう?」と言っては、
ポイッ。
とそのまま、その固まりを、森向こうの池へと投げて戻した。
ドッボーン。
と水の大きく落ちる音に作者とミスターは驚き、なんなら恐怖もしていたが、それをやった当人は、
「正直、そもそも実感が湧いてこないと言うかなんと言うか……」と首を傾げて不安そうに言うのであった。「仮に湧いたとしても、そんなにうまく色んな『コピー』が出来るものなのでしょうか?」
(続く)
(注1)
こちらの、支離滅裂だが愛にあふれたおとぎ話については、今回の物語の中でも、また改めて言及することになると想うが、それまで待てないと言う方のために、その『別の物語』へのリンクだけは貼っておくことにする。おとぎ話の名前は『SHEEP:ヤスコ先生の恋人。』である。
https://ncode.syosetu.com/n2280jo/
(注2)
こちらの装置の機能については、第十四話(その16)に書いていた通りなので、忘れちゃった方はそちらを再度ご確認下さい。




