その5
正直、ここまで上手く行くとは想っていなかった。
と言うのも、彼女はこれまで、問題のリスト、父が遺したあの奇妙なリストの人たちに会おうとしては、ある時は電話をガチャ切られ、またある時は怒鳴られ罵られ、またある時は警察に通報され掛けたりしていたからである。
であるので、昨日出会った藤間和雄――彼は空気中の水分を凝集して凍らし、まるでクリスタルのような珠玉を形成する能力を持っていた――が、このリスト巡りに同行すると言い出し、更には――、
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「住所が分かっているなら、直接会いに行きましょうよ、アポイントとかもなしで」
と言い出した時には、驚き呆れるというよりは、そもそも彼の言っている意味がよく分からないくらいであった。彼は続けた。
「だって、さっきも言ったように、僕の力を見せた方が話は早いし、彼らも納得しやすいはずでしょ?」とにこやかな笑顔と達者な弁舌で、「だったらメールや電話より、直接会わなくちゃダメですよ」
「どう想う?」ヤスコは訊いた。隣に座るミスターに。すると、
「ああ、まあ、一理はあるかもね」とすんなり彼は応えてくれて、そこでヤスコも、彼の案に賛成するのであった。「ヤスコちゃんとちがって藤間さんはコミュ力高そうだし、いけるんじゃないかな」
と、まあ、ミスターの言葉には少々引っ掛かる部分もあるにはあったが、たしかに。同じ半引きこもり生活な自分と藤間を比べてみても、やはりあちらは、元々まじめなサラリーマンで、こうして話をしていても、変な敵意や壁を感じることもなく、「ひょっとして、この人なら……」とヤスコに想わせ、結果早速三人は、彼の提案を実行に移すことにしたのである。そうして――?
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「あーっはっはっは」とそうして、「そいつは俺も一緒さ、兄さん」その男性は笑って応えた。「あ、でも、ここじゃあなんだしな」と彼らと出会って数分以内に、「裏の倉庫に一緒に来てくれ、俺の力を見せてやるよ」
ここは、『リスト』にあった候補のひとり、男が営む雑貨店。時間は、ヤスコたちが藤間のアパートを訪ねた翌朝である。
「すごいわね、藤間さん」ヤスコは小さくつぶやいた。隣を歩くミスターに、「一体どんな魔法を使ったのかしら」
「うん?」ミスターは応えた。藤間たちの後ろを歩きながら、「魔法なのか、能力なのかは分からないけどね」
彼らはまだ気付いていなかったが、ここで藤間和雄――に扮した灰原神人――は、ある能力を使っていたのだが、それはもちろん、藤間和雄本人から奪った能力ではなく、小紫かおるから奪い取った能力、その一部であった。そうして――、
*
ピシッ。
と鋭い音がして、とうとうピッチングマシンは壊れた。発射口にはひびが出来、ふたつの直軸モーターからは白い煙が上がっていた。
「なに? いまの?」いちばん驚いたのは木花エマであった。「ヤッチがやったの? あれ?」
彼女は昨晩、突然枕もとに現われた赤毛のエイリアン――部屋中のものをすべて投げ付けてやった――から、氷川神社裏で特訓中の佐倉八千代や自分のために、お弁当を作って来てくれないかと頼まれていたのである。すると、
「あ、木花さん」とリンゴのような女の子・高嶺ゆき子がそれに応えた。そちらをふり向き、「きっとそうだと想います。昨夜あたりから急に力の使い方が上手に――」
がしかし、前にも書いたとおり、彼女はいま、未来の世界からこの時間帯にやって来た高嶺ゆき子であり、
「えーっと?」ともちろん、この時間帯のエマは彼女をまだ知らない。「どちらさまでしたっけ?」
そのためゆき子は、後ずさりする彼女に、出しかけていた両手を引っ込めると、
「あ、そっか、そうでしたね」と事情を説明、「詳しい時間は言えませんけど」
と未来のどこかで、また彼女と出会うことを納得して貰ったのだった。
「あ、じゃあ、あのミスターさんも、そっちの未来から来たミスターさんってことね」エマは応えた。お弁当を入れたサーマルバッグを彼女に渡し、「まあ、もう、色々慣れたけどさ、ゆき子ちゃんも大変ね」
彼女は彼女で、ミスターのテンヤワンヤなくんにゃらがりに何度か巻き込まれたことがあり、この辺の時間軸とかなんだとか、その他ナンダカンダのワカンダフォーエバーについては、あまり深く考えないようにしているのであった。が、ただ、まあ、それより、
「ねえねえ、ゆき子ちゃん」と彼女の心配ごとは、向こうに見える彼女の友人の方にこそあった。「あの子、未来では大丈夫なの?」
と言うのも、彼女の友人・佐倉八千代は、いま、壊れたピッチングマシンの前にいて、それを診に来たミスターと、奇妙なおばあさんが話をするのをジッと、彼女らしくない、敢えて言えば暗い、想い詰めたような表情で聞いていて、エマがやって来たことにも気付いていない様子だったからである。
「ええ、ああ、それは……」とゆき子は答え掛け、言葉を濁した。未来の情報をどこまで彼女に伝えてよいか分からなかったから、と言うよりは、それを伝えることで未来がどう変化するかが気になったからである。
「うーん?」とエマはうなってつぶやいた。「まあ、そうよね」
ゆき子の態度から彼女は、ゆき子の知っている未来の八千代といまの八千代が繋がっていないことが分かったからである。
そう。
いま、たしかに、ミスター達が施している八千代への訓練は、もしかすると、ひょっとすると、彼女にとって重要な意味を持つものなのかも知れないが、しかしそれでも、やはりそれでも、八千代の持つ本当の能力、一番重要な能力は、ボールを止めたり、なにかを壊したり、ましてや誰かを傷付けたりとか、そんなところにあるはずはない、絶対にないはずだ、とエマは知り、確信していたからである。それがたとえば、森永久美子のかたき討ちのためであったとしても。いや、それであればなおさら、と。
「うーん?」とふたたびエマはうなってつぶやいた。「でもそれは、ミスターさんも分かっていることなんじゃないの?」
(続く)




