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転生者たち~時空の終わりとソウルフルネス・ワンダーランド~  作者: 樫山泰士
第十五話「正義と自由と公正と平等」
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その16


「ま、流石にそこまでは想わないんだけどね」


 と彼女は言った。分かれ道の少し手前で。夕方だけれど初夏の通りはまだまだ明るく美しく、彼女的には、このまままた、いつものバーガーショップか『ウィリアム書店』にでも寄ってお喋りを続けたいところだった。がしかし、


「昨日の千葉行きで課題が溜まっちゃってて」


 と言う友だち以上恋人未満――にもまだまだ遠い、友人兼幼なじみを誘うわけにもいかなかったし、彼女は彼女で、


「あー、わたしも課題たまってたんだー」


 と化学のエルヴィスの突き出たあごや、古文のマーロンの嫌味な三白眼を想い出すくらいには、学業に滞りを感じており、また、こちらは冒頭のセリフとも繋がるのだが、


「首はへし折らないまでも、首根っこつかまえて色々訊きたかったりはするのよね」


 と、先述の千葉行きで分かったことや、その前後で起きた事柄について、彼女の養父・優太の意見というか、彼がどこまで知っていて、何をどこまで知らないのか、また、何をどこまで知った上で隠しているのか等々など、その辺のことを確認したい、問い詰めたい――そう想い、考え、どうすればそれらにまともな回答を得られるかの作戦を練らなければならない、とそう考えていたからでもあった。友人兼幼なじみが言った。


「でもおじさん、そのへん誤魔化すの得意そうだし」と腕組み空を見上げ、「昨夜だって僕らに――」と続けようとして言葉に詰まった。自分でも顔が赤くなるのが分かった。


 と言うのも昨晩、問題のおじさん・祝部優太は、多分にその『誤魔化す』の一環なのだろうが、みんながいる食事の席で、


「それで? ふたりはこれから付き合ったりするのかい?」


 とふたりに訊いて来たからであり、そのため案の定彼らは、学校の課題や彼女の出自や不可思議な記憶喪失問題等々などと並行して、出来れば先延ばしにしたかった――青春だねえ――こちらの課題をも、意識せざるを得なくなっていたからである。


 であるからして、祝部優太氏の術策に見事はまった彼女・祝部ひかりは、同じく優太氏の術中にはまりまくっている彼・清水朱央と同じように、続くように、言葉に詰まると、こちらもこちらで顔を赤くし、彼女の耳に聞こえるものと言えば、ふたりの靴の足音と、高鳴る胸の鼓動くらいであった。そうしてもちろん、こんな若いおふたりは、どちらもこちらも、ウブでキュートなベイベーで、手がどこにあるのかも分からないほどの奥手で、当然異性とお付き合いしたこともなければ、もちろん同性といい感じになったこともない、完全健康、健全優良な高校生男女であり、そのため彼らは、いつの間にやら、いつもの分かれ道へと、いつの間にやら、一緒に到着していたのである。ずうっと無言のまま。到着後、すでに三分三十秒が過ぎていた。


「じゃ、じゃあ、ここで」と、とうとう彼は言った。妙に上ずった声で。


「あ、そ、そうね」と、彼女は応えた。こちらもかなり上ずった声で、「き、気を付けて帰ってね、朱央」


「う、うん、ひかりちゃんもね」


 とそうして彼らは、ギクシャクギクシャク、手を振りさよならを言って別れることになった。それが、まあ精一杯であった。


「はぁ……」


 とそうして彼女・祝部ひかりは、うつむき、ため息を付き、あまり優秀ではないその頭をごちゃごちゃ回転させると、その回転中の頭があまり優秀ではなかったことを想い出し、そのため今度は、いまだ物理的にも小さいその胸に何事かを問い掛けようとして、その何事かがあまりにも多いことに気付き、仕方がないので、それら悩みに、どうにか優先順位を付けようとして悩み、悩み悩んで、そのためか弱い思考回路がショートしそうになったので、「ああ! もう!」とその回路を一旦止めようとしたところで、


「祝部、ひかりさんね?」と彼女は、見知らぬ女性に声を掛けられた。「ちょっと、お話したいことがあるんだけど、いま大丈夫?」


 女性は、紺のスーツに高いヒールを履き、背筋は伸ばして胸を張っていた。実際の身長はひかりと変わらないか少し大きいくらいだろうが、その凛としたたたずまいは、なにかの映画で見た、大昔のジャンヌ・ダルクのように、ひかりには想われた。


「お話……ですか?」彼女は訊いた。


「ええ、まあ、そうね」黒髪のジャンヌ・ダルクこと友枝久香は答えた。「あなたのお父さん、あなたの本当のお父さん、山岸富士夫さんについて」



(続く)

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