366.プレジャーボートって?
しばらくするとレスリーが戻って来て、何事もなかったかのように動き出した。
まずはトレーナーを脱いで活動的な格好になる。
ジーンズにセーターは昨日のレイナと同じだ。
それから出ていったかと思ったらすぐに戻って来た。
「レイナ様。
朝の身支度を」
「支度って何かあるの?」
「ご洗顔とシャワーです」
あ、忘れていた。
「この船にシャワーってあるんだ」
「浴室がありますよ。
こういう大型のプレジャーボートはお金持ちしか使わないので船内にホテル並みの設備を備えています」
そうなのか。
「プレジャーボートって?」
「海洋航行が可能なレジャー用の船の総称です。
定義は決まってませんが割と大型のものを指すみたいですね」
「よく知ってるね」
「調べました」
やっぱり侍女というよりは秘書なのでは。
「まあいいや。
判った」
ということでレイナは浴室に行ってシャワーを浴びた。
驚いた事に小型だが湯船もあった。
贅沢な。
さっぱりして部屋に戻るとレスリーがベッドを片付けていた。
正確に言うと毛布やシーツなどを畳んできっちり置いておくだけだが。
「侍女ってそんなことまでやるの?」
メイドの役目なのでは。
「私はレイナ様の侍女ですが、他に使用人がいない場合は雑用女中になります」
何で得意げなんだろう。
謎の矜持があるらしい。
「本当は侍女よりお付きのメイドがやりたいのですが」
レスリーがぼそっと言った。
「みんながみんな、お前にメイドは合わないとか言うんです。
どうしてもというのなら侍女をやれと」
それはそうだろう。
だってレスリー自身がお金持ちのお嬢様なのだ。
無理にメイドをやっても悪役令嬢が仮装しているようにしか見えまい。
「メイドやってもいいですよね?」
レイナに言われても困るけど。
「まあ、好きにすれば」
ノックの音がした。
「お嬢様方、ちょっといいか?」
アルバートが様子を見に来たらしい。
「大丈夫よ」
レイナが答えるとアルバートはドアを開けずに言った。
「そろそろ入港だ。
荷物をまとめて上に来てくれ」
それだけ言って気配が去った。
ご機嫌斜めというよりは事務的だ。
「怒ってるんでしょうか」
「それはなさそう。
任務だと割切っているのかも」
アルバートは元軍人だという話だから、自分の感情で動くことはないだろう。
何で辞めたんだろう。
まあいいけど。
レイナとレスリーは自分のキャリーケースに物を詰め込んで階段を上った。
リビングを抜けて甲板に出ると周りが一変していた。
前方が全部陸だ。
「ここは?」
「ノルマンディーという地方のカプールという……俺もよく知らん」
いい加減な。
「入管とかはいいの?」
「うちでやっといた。
そもそもお嬢は日本国籍だから、観光だけなら三ヶ月くらいはビザなしでいける」
「そうなの」
まあ、どうでもいいか。
いざとなったら聖力で。




