367.スモークガラスですか
「これからどうするの?」
「ヨットハーバーに入港場所を確保した。
車も用意してあるはずだ」
「お食事はどうなるのでしょうか」
レスリーが口を挟んだ。
そういえばレスリーって何も食べてないような。
レイナは残っていたお菓子を喰ったのでまだ持つけど。
全部平らげてしまったのは拙かったか。
「目立ちたくないんでな。
途中で何か買って車の中で食う」
さいですか。
別に文句はない。
本物のお嬢様なら一流レストランじゃなきゃ嫌だとか言うかもしれないが、あいにくレイナは幼い頃から粗食で鍛えられた聖女見習いだ。
極端に言えば食えればいい。
いや、レスリーは本物のお嬢様なのだが。
平気な顔をしているけど、この女も色々あったみたいだからなあ。
そういう面ではやっぱり鍛えられているのかもしれない。
クルーザーは周り一面がヨットやモーターボートな港にゆっくり入って行く。
桟橋が並んでいてマストが行列していた。
「凄い」
「金持ちの保養地だからな。
ここの主力産業だよ」
観光で食っていることもあるけど、むしろヨットや別荘の維持費や資産税で稼いでいるのかもしれない。
聖女らしからぬ金銭感覚のレイナだった。
アルバートの命令でコートを着てフードを深く被ったレイナは桟橋に降りた。
ほとんど人はいない。
そのまま歩いて行くと大通りに出た。
でかいワゴン車が待っていた。
「これ?」
「だな。
よし、注文通りだ」
何のことかと思ったけどすぐに判った。
車の中が見えない?
「スモークガラスですか」
「そうだ。
お嬢には必須だろ」
なるほど。
車内は広々としていて、後部には荷物が積めるようになっている。
そして中からは外が見えた。
多少暗い気がするが問題はない。
「どうなっているの?」
聞いたらレスリーが教えてくれた。
「ガラスを作る時に金属を混ぜると黒っぽくなるみたいです。
光を反射するので向こう側が見えにくくなるし、紫外線なんかもカットするので」
「そういうガラスがあるんだ」
「普通のガラスの上にスモークフィルムを貼るという方法もあるみたいですが、この車はメーカーオプションですね。
それなら安心です」
安心って?
「危険な事もあるの?」
「スモークが濃すぎると外が見えにくくなって事故を起こしやすくなりますし、下手すると車検で撥ねられます。
あと、スモークフィルムを貼るって結構面倒らしいです。
素人には無理だとか」
「出発するぞ」
レスリー先生の講義はアルバートに遮られた。
運転席で不機嫌そうにこっちを向いている。
「ごめんなさい」
「別にいい。
ベルトを締めておけ」
そうでした。
コソコソとシートベルトを締めるとアルバートが車を発進させた。
あまり交通量が多くない大通りをゆっくり走らせる。
「レスリー。
手近なテイクアウト店を調べてくれ。
まだ早いから開いているかどうかもチェック」
「判りました」
早速スマホを弄り出すレスリー。
やれやれ。




