362.レイナ様に気圧されたのでは
「レイナ様」
揺すられて目をさますと車が停まっていた。
「起きた」
「港に着きました。
これから船です」
早いな。
スマホを取りだして見たら出発してから一時間くらいたっていた。
よく寝たらしい。
車から降りてキャリーケースを取り出すと、アルバートと話していた男が運転席に乗り込んで発車させた。
たちまち遠ざかって行くワゴン車。
手際がいいな。
「こっちだ」
大型のトランクを引いたアルバートがぶっきらぼうに言って歩き出す。
レイナはレスリーと顔を見合わせて笑ってから続いた。
歩き出してから気づいたのだが、そこは桟橋だった。
すぐそばに海があるらしくて潮の香りがきつい。
大小さまざまな船が並んでいるが、大部分はヨットだった。
マストが高い。
「こんなので行くの?」
「さあ。
知りません」
さようで。
大小さまざまな船が並んでいたが、そのうちに桟橋の間隔が広くなった。
船も大型化している。
「これだな」
アルバートが声を掛けると舷側から男が顔を出した。
何か話すと階段が出てきた。
つまり舷側がそれくらい高い。
改めて観ると船はでかかった。
ヨットじゃない。
マストや帆がなくて流線型の操縦席みたいなものが船体に載っている。
「これって」
「クルーザーですね。
と言ってもそれって日本の呼び方で、欧州では全部ヨットなんですが」
甲板が高いせいで海面が遠い。
斜めに流れるような構造物のドアをくぐると短い階段があって、降りたらそこはリビングだった。
いや、そうとしか言いようがない場所なんだけど。
ぐるっとソファーがあって。
「見覚えがあるような」
「アメリカの映画によく出てきますね。
お金持ちの年配の人がビキニの美人を侍らせていたりして」
レスリーはどっち側なんだろう。
むしろイケメンを侍らせる方なのでは。
乗組員らしい若い男が妙にコソコソしながら案内してくれた。
狭いドアを開けてもう一段降りたらベッドルームになっていた。
部屋はあまり広くはないけどベッドが2台並んでいる。
といってもベッド自体はかなり大きい。
お金持ち用だ。
乗組員の男と話したレスリーが言った。
「ここは私達の部屋だそうです。
鍵がかかるから安心だということで」
「それはどうでもいいけど」
まさか船にこんなに広いベッドがあるとは。
ホテルか。
乗組員の男は顔を背けるようにしてそそくさと去った。
「どうしたんだろう」
「レイナ様に気圧されたのでは」
そうかも。
別に威圧したつもりはないんだが。
アルバートがひょいっと顔を出して言った。
「出発だ。
悪いが今夜は船上泊になりそうだ」
どうやら宿の都合がつかなかったらしい。
「別に良いけど」
「すまんな。
レスリー、ちょっとこい」
「失礼させて頂きます」
侍女に戻ったレスリーがお辞儀して去った。
つまり私はここから出るなと。
しょうがない。




