349.やっぱりアレのせい?
まあ、普通の神官だったら酔っ払ってもそんなに危険というわけではないが、聖女レベルの聖力持ちが意識朦朧になったら何が起こるか判らない。
暴走でもされたら災害並の被害が出てもおかしくない。
なのでレイナはお酒を厳禁されていた。
だけではなくて、アルコールを間違って摂取したらすぐに分解するように訓練された。
実際には口にする前にやってしまう。
だからレイナがビールなどを飲もうとしても不味い炭酸麦茶でしかないのだが。
ナイトライフと言っても健全なものしか味わえない。
ロンドンに来たばかりの頃の、シンに連れて行ってもらったあの演劇は面白かった。
でもあんなのを観光地で味わうのは無理か。
「それじゃ今日はこのまま寝るだけ?」
「そうだ」
「明日は?」
アルバートが黙った。
何かあるのか。
「……まだ未定だ。
というよりはしばらく戻ってくるなと言われていてな。
思ったより騒ぎが大きくなっているらしい」
へえ。
「やっぱりアレのせい?」
「そうだ」
車をひっくり返したり逆立ちさせたのは拙かったか。
レイナはこれまでは人前で物理的な力は行使しないようにしていた。
だからこそ平気で襲撃してきたりしたんだろうけど。
実は怪物だったということがバレたか。
アルバートがため息をついた。
「ところでお嬢は人の心を読んだりは出来るのか?」
無茶な事を聞くのね。
アルバートたちの中でレイナってどうなっているのか。
「そんなこと聞かれてどう答えろと?」
「すまん、愚問だった。
お嬢があまりにも平然としているもんでな。
ひょっとして俺より修羅場くぐってきてないか?」
そうとも言える。
ミルガンテの大聖殿は戦場そのものだった。
それも暗闘だ。
実際に誰かが死んだり殺されたりするのを見たわけではないけど、ある日突然ふいっといなくなるなんてことは日常茶飯事。
そしてそれについては誰も何も言わない。
理由も判らないし欠員はすぐに補充される。
今思うととんでもない場所だった。
あそこに比べたら地球は楽園というか夢のようだ。
「安心して。
精神操作系は苦手なの」
少し嫌味を言っておく。
実際にレイナが出来るのはひたすら物理なのだが。
アルバートは真面目な顔で頷いた。
「それが本当かどうかも判らんしな。
てっきり魅了とか使っているのかと思ったが」
「どうして?」
聞いたら意外な顔をされた。
「例えばそこのレスリーを見ろ。
お嬢が命じたら平気で俺を撃つぞ」
レスリーを振り返ってみたら満面の笑顔で微笑まれた。
いや怖いんだけど。
「レスリーって撃てるの?」
「聞くところはそこですか」
レスリーの方も真面目だった。
「撃てますよ。
シンガポールとかでは練習場に通ってました」
やっぱり悪の組織の戦闘員か!
いや、ああいう連中は黒い全身レオタード(違)を着て塞又を振り上げて「イー!」とか叫ぶだけか。
話せるのは怪人から上だけだ。
レスリーは幹部じゃないからやはり怪人?
「何考えてるかバレバレですよ。
そこはせめて女幹部とかで」
「だってレスリーって下っ端なんでしょ」
「特殊工作員とか」
「何話しているのか判らんが止めろ」
うんざりしたような声でアルバートが割って入った。
「お前らが仲が良いのは判った。
どうやら魅了ではなくてお友達らしいな」
「当然です。
私はレイナ様のヲタクの師匠ですよ」
それは何か嫌だが否定出来ない。
「とにかく、向こうでは相当きな臭いことになっていてな。
そのうちにこっちまで飛び火するかもしれん。
シン殿に何か言われているか?」
「やっちゃっていいって」
即答。
アルバートも頷いた。
「そうだ。
実のところ、もはや組織だけの話ではなくなっている」
そうなの。
「よその組織とか?」
「むしろ国だな。
英国だけじゃないぞ。
お嬢、今まで結構やらかしてきただろう。
うちの組織でも気がついたくらいだ。
他にもいるのは当然だ」
ありゃ。
本当にラノベみたいになってきた。
「戦争?」
「いや。
いくらなんでも個人の取り合いで国同士がやり合うことにはならんよ。
だが政治的な圧力はかかってくる。
普通だったら取引になるところだが」
アルバートはニヤッと笑った。
「お嬢は始祖、いやその再来だからな。
だとすれば組織の対応は決まっている」




