第103話 Trouble while traveling
港へ入る偽装用の小型艇からさらに小舟で一旦ヴェルテザークの港へ上がり、港湾所で停泊許可を受ける。いくらかのお金を払って船を置かせてもらう。
Sクラス冒険証があれば入国審査やらなにやらを含めてこういった場面で非常に強い。
そのまま冒険者ギルドへと向かって、滞在の通達をしておく。
義務じゃないけど、なにか起きた時に色々と融通が効く。
むしろ特権に近いSクラス冒険者証を使っていればすぐにばれるからちゃんと顔を出しておくほうがイメージがいい。
そして、ギルドもこちらに配慮してくれる。ここでも専門の窓口として職員がついてくれた。
「お困りのことが有れば何でもお申し付けください」
その変わりできたらレベルの高い素材とかをうちに卸してくださいね。ってことではありますが、ここはありがたく利用させてもらう。ローザは現在子育てで冒険者としては動かないことを報告し、王国への出産の届け出なども依頼しておく。
そんなこんなでこの港町で一番の宿を長期抑えてもらった。
港を一望できる素晴らしいロケーション、出産直後のローザとディーンも安心し過ごせる一流のホテルにした。
もう、悪いけどお金で解決できる問題はお金で解決する事にした。
家族の安全を金で買えるのならいくらだろうが安いものだ……
そもそも、もうすでにお金に変えたら国が傾くようなものを大量に持っているんだ。
派手に手に入れて、派手に使って回していかなければ経済は回らない。
宿を見つけ、その日はおとなしく夜食をとって就寝。
穏やかな初日がすぎる。
カーンカーンカカーンカーンカーンカカーン……
だったら良かったんだが……
すっかり日の落ちた港町に、規則的な鐘の音が響き渡った。
「ガウ、わかるか?」
「ああ、敵襲……魔物が襲ってきたな」
「ネイサン、マシュー、ローザとディーンを頼んだぞ!」
「任せといて!」「気をつけて!」
俺とガウは宿の窓から飛び出して冒険者ギルドへと駆ける。
「マスター、どうやら東の森林から魔物が溢れたようです。
原因は洞窟が弾けたようです」
情報収集してくれているコウメイが状況を伝えてくれた。
「だったら直接防壁へと向かうか」
「ギルドの人員もそっちに向かっているだろう!」
ダンジョンが弾ける。
簡単に言えばダンジョンが魔物で一杯になって外に溢れ出ることだ。
どういう理由か、溢れ出すとダンジョン内の魔物は一斉に外に出る。
だから弾けると表現される。
ダンジョンから四方八方へ大量の魔物が放出される。
「コウメイ、ダンジョンの位置はわかったか?」
「はい、すでに抑えています」
「ガウ、ギルド関係者を探しておいてくれ、取り敢えず魔物の方はなんとかする」
「どうやら雑魚ばっかみたいだから、任せるとするか……」
防壁は兵士や冒険者、戦えるものが集まって騒然としている。
「カゲテルー、ギルマスいたぞ」
「か、カゲテル様、ガウ様と一緒に防衛を助けてくれると」
「はい、それで俺の従魔はスライムなんで、スライムには攻撃しないでくれると助かります」
「わかりました! すぐに周知します!」
俺の方が遥かに若いんだけど……Sクラスって看板は凄いな。
「コウメイ、他の村や街への被害は?」
「まだ問題ありませんが……大丈夫ですね。
すべて補足しました」
「わかった。じゃあ、やっちゃって」
ドーン!! ドーン!! ドーン!!
森の中にいくつもの光の柱が立つ。
あの足元では大量の魔物がスライムの魔法で一掃された。
急に大きな音と振動が伝わって、周囲が騒がしくなるが、俺達はこのまま港町へと向かってきている魔物退治へと移る。
「さて、どれくらいいるかね」
町の外に居たスライムたちが光源を空に打ち上げる。
煌々と照らされた魔物、大小様々な魔物がまるで波のように街へと向かってくる。
「な、なんて数だ……」
「ハイオークやオーガもいるぞ!!」
「ばかな、キメラだと!?」
照らされた魔物に防衛隊が口を揃えて恐怖を示す。
俺は気にせずずらりと並んだスライムに号令をかける。
「撃て」
ヒュン……
静かに大量の矢が敵集団へと降り注ぐ。
ただの矢ではない、魔力が付与され、撃ち抜かれた魔物だけではなく、着弾と同時に爆発して周囲の魔物を破壊していく。
「撃ち方やめ! 突貫!」
騎馬部隊が魔物の波を食い破っていく、幸か不幸か突撃をすり抜けた魔物は、背後に続く歩兵部隊に掃討されていく。
「まるで……戦争だ……」
その光景を見ていた誰かがつぶやいた。
そう、スライムによる軍隊、魔物との戦争を行って見せているんだ。
「これが……Sクラス冒険者の力……」
「スライムマスター……」
「うおおお!! スライムマスター!!」
圧倒的な戦力差に、防衛にあたっている人たちから歓声があがり、だんだんとスライムマスターというコールへと変わっていく。
恥ずかしいから止めてくれ。
結局、全ての魔物を掃討するのに2刻ほどかかったが、実質被害0で反乱騒動は制圧した。
「ダンジョンの閉鎖も行ってくれた上に、各地の魔物も殲滅、被害もなく負えられたのはカゲテル様のおかげです」
「いえいえ、こちらもしばらくお世話になるので、お気になさらず」
「いや、Sクラス冒険者は破天荒とお聞きしていましたが、カゲテル殿は紳士的で協力的で有り難い!」
ギルマスさん、そういうことは本人に言うもんじゃないぜ、苦笑いしちゃうだろ。
その様子を見てガウが笑いをこらえている。
「しばらくこちらのダンジョンに潜りますが、残していくスライムで今日ぐらいのことは出来ますから、この街には私の大切な家族も居ますから、しっかり守りますよ」
ギルドマスターも街を任されている領官もその言葉には喜んでくれた。事実だ。




