第102話 出産
遺跡の調査など、もともと急ぐ旅ではなかったが、予定よりもゆっくりとした航海になった。
結果としてチョウキンのある大陸に付く前に、ローザが産気づいた。
「大丈夫だぞ、ローザ俺が付いてるぞ!!」
「ちょっと落ち着いて、大丈夫、コウメイちゃんが楽にしてくれているから」
「無理しなくて良いんだぞ!!」
「マスター、母体胎児に影響を与えずに苦痛を取り除く方法に魔法を補助に使い、古代文明の力で完璧なモニターを行っております! むしろ、少々うるさ、声が強いので落としてもらえると奥様も楽になりますよ」
「ほらカゲテル、少し部屋を出て落ち着け、コウメイなら完璧に仕事をする」
「ああ! ああ!! そうだな、ローザ!
ちょっと外にいるから何でもコウメイに言うんだぞ!!」
「ねーちゃん頑張れ!」
「頑張ってー!」
「うん、頑張るね」
「頑張れーー!! フガモガガ……」
「大声出すなって……じゃあコウメイ、外で抑えとくな」
「ガウ様ご協力ありがとうございます」
「まだか!?」
「さっき外に来たばっかりだろ、落ち着け」
「にーちゃんカッコわりいぞ」
「うう……」
「ねーちゃんはあんなに落ち着いていたのに……」
「ううう……」
落ち着かない。
大丈夫なのは、信頼はしてるんだが、いや、心配だ……
「ああ、もうじっとしてろ……そうだ、素振りしてろ、それがいい」
「ああ! 素振りだな、よし、1・2・3・4・5・6・7……
何回やればいい?」
「取り敢えず日課の10万回やってろ」
「ああ! そうだな!!」
1・2・3・4・5・6……
無心で剣を振る。
何も考えずに剣を振る。
オギャーオギャー!!
無心
無心
無心
「オイ! カゲテル!! 生まれたぞ!!」
身体を激しく揺らされてハッと意識を取り戻した。
ダッシュしようと思ったら、ガウが肩をバンと叩く。
「落ち着け」
「あ、ああ……すまない……」
おかげで歩いて分娩室へと入ることが出来た……
「おめでとうございますマスター、元気な男の子ですよ」
「ほら、お父さんですよー」
ローザに抱かれた、信じられないほどに小さな赤子……俺の……子供……
自然と目頭が熱くなる。
そっと頭を撫でると、恐ろしいほどに頼りなく、そして、震えるほどに柔らかく愛おしい……
「ありがとうローザ、ありがとう」
俺の目から涙が溢れ出した。
「もう、なんでカゲテルが泣いてるのよ……」
「身体は大丈夫?」
「ええ、コウメイちゃんのおかげで、もうすっかり平気」
「ありがとうコウメイ……」
「今後ともマスターのお世継ぎは責任を持って見させていただきます」
「頼りにしてる……」
「抱っこしてみる……?」
「え、あ、うん……」
そっと受け取った赤子は、信じられないほどに小さかった。
「こんなに、小さいんだな……」
「そうよ、みんなこんな小さく弱く生まれてくるのよ」
「可愛いなぁ……」
それから数日は安静にしながら、コウメイの手を借りて万全の体制で子供を見ていく。
「そう言えばカゲテル、この子の名前は?」
「ローザの希望は無いのかい?」
「カゲテルに決めてほしい」
「そうか……貴族の跡取りになるんだよな……ディーン、ディーン=ミタはどうだろう?」
「いいと思うわ、ディーン……あなたの名前はディーンよ」
こうして、俺の長男の名前はディーン=ミタとなった。
王国にも知らせを送らなければいけないんだけど、それはチョウキン国に入ってからのほうがいいだろうと言うことになった。
それからはコウメイのフォローのもと新米夫婦として一生懸命子育てに奔走した。
「コウメイちゃんマジ天使。なんでもやってくれるの」
「お任せください」
「ダァダァ……」
「はい、おむつでございますねお坊ちゃま」
さすがはスライム、ディーンの肌着の隙間から侵入してあっという間におむつを交換する。
ディーンは何をされているのかもわからないほどだ。
「すごいなコウメイ……俺が交換すると大泣きされるんだが……」
「それでも時々はお二人にもやっていただきます。
私はあくまでもお手伝いの立場でございます」
「本当にありがとうねコウメイちゃん」
入浴、おむつ、寝かしつけ……様々な時にコウメイのサポートがあり、俺達は本当に順調に新生児のお世話をすることが出来た。
もう足を向けて眠れない……
そんなこんなで、かなりバタバタしている中、テティスから陸が見えてきた。
ディーンも4ヶ月目の月誕生日を迎え、首も座って、俺たちを確認すると笑顔いっぱいになってみんなのアイドルでしゅきしゅき状態になっている。
「森が多いって虫が多そうだな……」
「マスター、私がそんな物をディーンお坊ちゃまに近づけるとも?」
「そうだな、信頼してるぞ」
「ディーンの笑顔に付く虫は駆逐してやる!」
「お任せください」
「親ばかが増えたね」
「そうだねねーちゃん」
「しょうがない二人と一匹だね」
マシューとネイサンに何を言われようが、俺はディーンを守る!
「それでは、小型艇で上陸しましょう。
テティスは海洋に待機させておきます」
こうして予定より随分と長くなった俺達の船旅は、目的地港町ヴェテルザークへと到着するのであった。




