とある日の特異点
毎晩、午前零時きっかりにまぶたを閉じると、俺は「俺たち」に会う。
そこは天井のない白亜の円形劇場のような空間だ。中央には巨大な黒曜石の円卓が据えられ、その周囲をぐるりと九十九脚の椅子が取り囲んでいる。
そこに座っている九十九人の男たちは、全員が同じ顔、同じ背格好、同じ声をしており、そして全員が『レオン・ヴァイス』という名前を持っていた。
「おい、七十四番。今夜もその薄汚れたインク指で議事録を取るのか? たまには俺たちに役立つ情報の一つでも持ってきたらどうだ」
葉巻の煙を吐き出しながら俺を鼻で笑ったのは、左目に黒い眼帯をつけた豪奢な毛皮コートの男――十三番のレオンだ。彼の世界では、俺たちは裏社会の密輸組織を牛耳る大ボスになっているらしい。
「無理を言うなよ、十三番。彼はそういう星の下に分岐したんだ」
銀縁の眼鏡を押し上げ、冷ややかな声でフォローとも侮蔑ともつかない言葉を投げたのは、白衣を着た一番のレオン。帝国アカデミーで最年少教授となった理論物理学者だ。
他にも、戦場で名を馳せた将軍の八番、世界的なピアニストになった四十二番、金鉱を掘り当てた大富豪の五十六番など、円卓には眩しいほどの「成功した俺」が並んでいた。
対する俺――七十四番のレオンは、街の片隅でカビ臭い羊皮紙を継ぎ接ぎして暮らす、しがない「古地図の修復師」に過ぎない。
俺たち九十九人は、今から十年前の四月十二日、中央駅の時計台の下で起きた「ある分岐」を境に枝分かれした並行世界の同一人物だ。




