ざまぁ返し
ティノは私を抱き寄せると囁いた。
「ベア、聞いてください。先程、隣国の第一王子殿下が無事寛解しました。医師として誇らしい…そしてそれを齎したのは間違いなくベア、貴女だ」
「まあ!素晴らしいですわ、ティノ!」
「り、隣国の第一王子殿下だと…?」
お父様の顔が勝手に青くなるが知らない。
お母様がガタガタ震えるのも知らない。
妹が目を輝かせるのも知らないし、妹の婚約者がそんな妹に何故か不審そうな目を向けるのも知らない。
「全て貴女のおかげです、ベア。難病の治療法の模索に、たくさんの患者への献身的治療…全部貴女がいなければ成し得ていなかった。私の理想郷は、貴女がいてこそ完成した」
そう言ってティノは私の手を取り、愛おしそうに指先にキスを落とした。
両親も、妹も、その婚約者も。
みんな、私たちのらぶらぶな空気に入る隙もないらしい。
固まってしまう彼らに、本当にそんなつもりではないのに「ざまぁ返し」が刺さってしまったのだと理解した。
「そんな、私の力だけではありません。ティノが医師を選んで集めて、医学に打ち込んで沢山の人を助けて…それでこの施設はやっと役割を果たせたのです。ティノの成果ですわ」
「ふふ、本当に貴女は謙虚ですね。さあ、今夜は隣国の第一王子殿下の寛解祝いです。一緒に祝ってくれるでしょう?」
「もちろんです、私の大好きな旦那様」
「ふふ、まだ婚約者ですよ。近いうちに本当に旦那様になりますけどね」
妹がどれだけ「いいなぁ」と言おうが、それに妹の婚約者が不信感を抱こうが、両親が「あの子を後継にした方が良かったのでは」と今更なことを言おうが、関係ない。
私は推しと幸せになるだけだ。
そしてそんな推しもまた、私を愛してくれている。
私も、推しを愛している。
その後、大広間で隣国の第一王子殿下の寛解祝いが催された。
煌びやかなシャンデリアの下、各国の王侯貴族がこぞって集まる。
そんな中私はティノにエスコートされ、会場の視線を一身に浴びながら中央へと進む。
会場の壁際、招待こそされたものの「空気」と化しているのは「あの四人」。
このパーティーの主役である隣国の第一王子殿下が、すっかり健康を取り戻した様子で私たちに歩み寄る。
「ユニヴェール殿、そしてエテルネル嬢。我が命を救っていただき感謝に絶えない。この地はまさに奇跡の聖地だ!そしてユニヴェール殿とエテルネル嬢は我らにとっての救済の神だ!」
彼のその言葉を皮切りに、周囲の王侯貴族からも称賛の声が次々と上がる。
「まさにその通り!」
「ここで治療を受けなければ弱る一方だった!」
「救済の神だ!」
「これほど先進的な医療施設は他にない!」
「ここに来て良かった!」
世界中の最高権力者たちの称賛。
その光景を、両親は青くなって、妹はぽかんとして、その婚約者は歯軋りして見守るしかなかった。
「勿体なきお言葉。けれど、全てはティノ…コンスタン様のお力ですわ。私はただの添え物です」
そんな私にティノは微笑む。
「いいえ、違います。ベアはそう言いますが、全ての始まりはベアの持ってきた「リゾート型特大医療施設化プロジェクト」の資料です」
宝物を自慢する子供のような純粋な瞳。
それに映るのは私だけ。
「誰もがただの荒地だと見捨てていたここに、ベアがこれほど完璧な医療施設を建設してくれた。ベアは私の医療の技術を信じてくれたんだ、だから私はこうして皆様の治療に専念できる。ベアのおかげで、私は「一人前の医師」になれた」
そう熱弁したティノは、私を抱き寄せて不敵な笑みを見せた。
「私の医術の全ては、ベアの信頼と献身によって生かされている。私にとって、ベアこそが唯一無二の婚約者です!」
「おおっ…!」
「なんと素晴らしい絆だ!」
会場からは惜しみない拍手と羨望の視線が注がれる。
その瞬間、両親の顔色が青から白に変わるのを私は見届けた。
妹はティノから私への「愛」に溢れた視線を見て、ぎゅっと唇を噛んだ。
妹の婚約者は、それを見てさらに歯軋りしていた。
「ありがとうございます。そこまで言っていただけるなんて、私は本当に幸せ者ですね」
私はティノを見上げて、心からの言葉を紡ぐ。
ティノは嬉しそうにそんな私を抱きしめて、幸せそうに微笑んだ。
こうして私の推し活は「ざまぁ返し」となり、私をハッピーエンドに連れて行ってくれたのだった。
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