婚約
婚約がトレードされてから、妹が後継者として発表されてから…数年が経った。
私はティノ…コンスタン様の婚約者として、幸せに過ごしている。
ティノは相変わらず医学に熱心で、たまの手紙と贈り物だけ…あとのやり取りはせいぜい月一の二人きりのお茶会くらい。
けれど私はそれすら愛おしいからそれでよかった。
「コンスタン様の婚約者になれて、幸せです」
私の心からの言葉に、ティノは最初面食らった表情。
だけどその後、優しく笑ってくれた。
「そう言っていただけると光栄です」
…さて。
この数年で計画していた「あの話」をそろそろ切り出そうか。
「ところでユニヴェール閣下の持つ飛地の領地なのですが…あの荒地を使って、実験的な領地経営をしてみませんか?」
「父の持つ飛地の領地…ああ、あそこですか?なにもない荒地ですけど…」
「ええ、だからこそやりがいがある企画だと思うんです!閣下ならきっとこの資料を見れば分かってくださると思いますわ。特にコンスタン様にとってはいいお話なんです!先にコンスタン様に資料をお見せしますね」
私が机に広げたのは、現代日本の知識とこの世界の知識を混ぜ合わせた「緻密な計画書」。
これならいけると自信を持って作った「リゾート型特大医療施設化プロジェクト」だ。
ティノはそれに目を通して、目を輝かせる。
医学に全てを捧げるティノにはさぞ魅力的だろう。
前前世の私が愛していた、純粋な好奇心に目を輝かせるその表情。
現実で見られるなんて、なんて幸せなのかしら。
「これは素晴らしい企画ですね…お手伝いしてくださるのですか?」
「もちろんです!私の持ち込んだ企画ですもの」
「世界中の患者を治療できる特大施設…ありがとう、貴女は私を理解してくれているのですね」
可愛い。
目をキラキラさせる推しに思わずグッとくるが、不審者扱いされたくないので胸を押さえるのを我慢する。
私の実家は、私を手放せて万々歳。
妹は私との確執もなくなって幸せそうな毎日。
元婚約者も妹にデレデレ。
でも、私だってティノに心の中でデレデレだしティノもこうして「理解ある婚約者」を得た。
この「婚約のトレード」はまさにみんな幸せになる一番の手段だったのだ。
けれどこの「リゾート型特大医療施設化企画」が成功した場合、両親や妹にとっては手痛いざまぁ返しになってしまうだろう。
私にとってはただのティノへの推し活でしかなく、ざまぁ返しになってしまうのは単なる副次効果でしかないのだが…どうか許して欲しい。
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