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第二章 1 母親というものは

「ねえ静也、早起きして木刀で素振りしてたのは何?」

 夕食の時、母さんに尋ねられた。

「な、何でもないよ」

「何でもないなら言えるでしょー? お隣の小菅こすがさん吃驚してたわよ」

「ちょっとした気分転換だよ」

 俺は鶏の唐揚げを口に放り込んで答える。

「木刀振り回して気分転換するの? 何かあんたに殺されそうで母さん怖いんだけど」

 母さんはジトっとした目で俺のことを見てくる。

 ──母子家庭の少年、母親を殴り殺す。家庭内でのトラブルが原因か──?

 そんな見出しの新聞や週刊誌が頭に浮かぶ。

「えっ、やだよ私のことは殺さないでね」

 優がそう言って、怯えた顔をする。この母娘は……。

 母一人子二人、ボロマンション暮らしのこれが我が家である。父さんは若い時に病気で他界し、母さんは一人で俺と優を育ててきた。立派な母親だと思う。

 その母さんを殴り殺すなんていう発想がどこから出てくるのか。やっぱりいきなり木刀はインパクトがあったか。そもそもどうして木刀なんてものがうちにあるのか。


「静也さん、木刀を用意しましたよ!」


 ──今朝、木刀を持ったふたばが俺の寝ている布団の横に立っていた。

「……どこから盗んできたんだ、それ」

「違いますよう、拾ったんです」

「拾った?」

「はい。ゴミ捨て場に捨ててあったので、勿体ないと思い持って帰って来ました。まだ綺麗なままだったのでこれは良いと思いまして」

 ……近所の中学生とかが、修学旅行で調子に乗って買ってきてほったらかしにしていたものを捨てたのだろうか。

「ゴミ捨て場に捨ててあったからって、勝手に持ってきちゃいけないんじゃないか?」

「さあ、どうなんでしょう。この街のゴミ捨ての規則はよく分かりませんが」

「ハア、全く。もういいよ、拾ってきたものは仕方がない。……木刀なんて新しく買う気起こらないからな」

「じゃあこれ使われるんですね! 良かった、お役に立てました!」

 ふたばが喜んでるし、まあいいか。

 俺は布団から出ると、ジャージに着替えてマンションの外に出た。もちろん木刀を持ってだ。

「なあふたば、刀ってどう振るんだ?」

 建ち並ぶマンションの間にある児童公園まで歩いて行く途中、ふとふたばに尋ねてみた。

「そ、それはアレですよ、えい、えい、って上下に振るんですよ!」

「常久さんはどうやってたんだ?」

「常久様ほどの腕前になると、もはや自分の手足同然ですよ。真剣を自在に操って、正に鬼神の如き動きでした。あれを真似しようだなんて、今の静也さんではムリムリ無理往生ですよ」

「手はともかく足で刀を持たないだろ」

「そ、それぐらい優れていたという話ですよ!」

「そうか……清零を使いこなすまでの道は遠いな」

 公園に着いた俺は、早速木刀を構えてムン、と気合を入れた。

「どうだふたば、イケてるか?」

「はい、格好良いです、常久様を見ているようです!」

 お世辞でも嬉しい。

「剣道部にでも入ろうかなあ……」

「それは良い考えだと思いますよ!」

「でも二年の途中から入っても馴染めそうにないし、止めとこう……」

 一年生にボコボコに打たれる自分の姿が目に浮かぶ。

「もう! じゃあ一人で素振りを続けるんですか⁉」

「しばらくはそうする。その後のことはまた考えるよ」

 俺は木刀を振り上げ……。

「てや!」

 と振り下ろした。

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