第一章 5
「小さい方にも止めを刺して!」
鈴原さんがそう言うので、俺は慌てて立ち上がり、ピクピクと痙攣している小型の犬魔塊に清零を振り下ろした。
ギャン!
というのが断末魔の鳴き声だった。
「死にました」
隣で見ていたふたばが冷静にそう言った。
俺は……初めて魔塊と戦って、二匹を仕留めた。
まあ、ほとんど鈴原さんのおかげだけど……。
「素人剣術で、よくやったわね」
鈴原さんが近づいて来て、労いの言葉を掛けてくれる。
「いや……鈴原さんこそよく助けてくれたよ。魔塊のことを凄く知ってる」
「そうですよ! あなたは一体何者なんですか⁉」
ふたばが訝し気な目つきをして鈴原さんに尋ねる。
「何者も何も、不動之宮高校に通う音無君のクラスメイトよ、幽霊さん」
ギュッと左の手首を握って鈴原さんは答えた。出血を止めようとしてやっているのだろう。
「た、ただのクラスメイトが魔塊のことを知っていたりその魔塊に追われていたりするわけないでしょう! おまけに私のことが見えたり……!」
「簡単なことよ。私も魔塊狩り──そう言えば納得するでしょ」
「んなっ! 鈴原さんが魔塊狩り⁉」
俺は思わず大きな声を出してしまった。
このすらりと細いお人形さんのような女の子が魔塊狩り……どうりで魔塊のことに詳しいわけだ。
「おいふたば、魔塊狩りの人にはお前が見えるって言ってたな?」
「そうです。でもそれは特別の特別なんですよ。所詮私はただの幽霊ですから。普段から余程鍛えている人や、生まれつき感覚が優れている人にしか私は見えませんし、当然会話も出来ません」
「そうか。この街に来てそういう人に会ったことはあるか?」
「静也さんと鈴原さん以外には、今のところありませんね」
うーん、まだ出会ってないけど、不動市には他に魔塊狩りがいて、日々魔塊と戦っているのだろうか。 鈴原さんのように。
「鈴原さん、魔塊狩りは他にも……」
「全く、不注意だったわ。いつもならこんなこと無いんだけど」
スルーされてしまった。ちょっとぐらい話を聞いてくれてもいいじゃん……。
「今日は遅くなった学校の帰りを魔塊に狙われたの。何とか人のいないところに誘導してみたんだけど……」
「魔塊に咬まれて平気? 病気を持ってたりしないの?」
「それは魔塊の種類によるけど、犬魔塊程度なら平気よ。狂犬病みたいなことは無いから大丈夫」
「そうなんだ……」
「私としたことがつまらないミスをしてしまったわ。いつもはもっと気を付けるか、武器を持ってるんだけどね」
鈴原さんが武器……そういえば、鈴原さんは時々布で包んだ細長い物を肩に掛けて学校に来る。あれは、刀か何かなんだろうか。
「あなたの素性は少しですが分かりました。この不動市のことは調べていましたが、実際に魔塊狩りの方にお会いするのは初めてです」
ふたばの口調が少し柔らかくなる。
「幽霊さんはどこの幽霊さん? 私の感覚だとそうね……子どもだけれど古めかしい、おばあさん臭さを感じるかしら」
「だっ、誰がおばあさんですか! 私は平安時代から幽霊をやってるんですよ! きっとそのせいですよ!」
「あら、そうだったの。どうして音無君に付いて回ってるの?」
「よくぞ訊いてくださいました! この音無静也さんは、かの高名な魔塊狩り、源常久様が転生されたお方なのです!」
…………。
「あ、いやだから、どうして音無君の傍にいるのかってことなんだけど……」
ふたばはゴホンッと咳をして、胸を張る。
「私は源常久様の右腕だった、ふたばと申します! その私が常久様の転生された静也さんの傍にお仕えするのは当然のことでしょう!」
「なるほどね、あなたは源常久に未練があるのね」
「み、みみ未練と言いますか、私が現代においてやるべきことは、静也さんの魔塊狩りをお手伝いすることなのです、はい!」
「そう。源常久といえば、魔塊狩りたちの間でも伝説的な存在よ。その転生した人が音無君とは……」
はいはい頼りないですよ。俺なんかが生まれ変わりですみません。
「まあ、何にせよ魔塊狩りが一人でも増えてくれるのは歓迎するわ。最近は魔塊が増えて、この不動の街も油断ならないのが現状だから」
「あの……俺はまだ魔塊狩りをやるとか決めてないんだけど。何か二人で勝手に話を進めてるけどさ」
「なに? ここまで来てはいごめんなさいとか言うの? あなたは見事に犬魔塊を倒したじゃない。見込みがあるわよ。何より源常久の転生した人なんでしょ? あなたほど魔塊狩りに相応しい人間はいないと思うけど?」
「い、犬魔塊を倒せたのは君の手を借りてのことだろ。俺自信ないよ。そもそも刀もまともに振れないんだよ?」
「じゃあ訓練しなさい。ただボーっと生きていて強くなれると思っているの? 木刀でも買って一日百回以上の素振りをしなさい。そうすれば徐々に筋肉がついてくるわよ」
「無茶苦茶だよ……」
「あら、無茶なことは言ってないわよ。女の私だってやってるんだから、男の音無君だって出来るわよ」
「良いですね! 静也さんが立派な魔塊狩りになるのに私も付き合いますよ! さあ、早速明日から頑張りましょう! 早起きして素振りをしましょう!」
ふたばが座り込んでいる俺の周囲を飛び回って、満面の笑みで言ってくる。
「お前なあ……」
鈴原さんといいふたばといい、簡単に言ってくれる。
頑張るのは俺なんだぞ。
素振り百回とかそんなの絶対筋肉痛になるしマメも出来る。
しかも、ただ素振りしているだけでいいものじゃない。対魔塊のためにいろいろと工夫しなければいけない。魔塊にだっていろいろいるだろう。今回の犬魔塊のように直線的に動くようなやつならまだ楽なん
だが、これからは簡単にはいくまい。ヘンテコなやつを相手にしなければいけない時が来る。
何でこんなことになったんだ。そうだ、夜中にコンビニにさえ行かなけりゃ……。
鈴原さんを助けてしまったのが始まりだ。
……いや、別にそれはいいんだけどさ。鈴原さんは命懸けだったんだし。
俺はヒーローなのか?
ただ魔塊に食われるだけの餌になるのか?
まあ取り敢えず、素振りをするのは決まったらしい。




