第八章 4
──あれから鈴原さんは。
「ねえ、剣術習う気本当に無い?」
とやけに俺を勧誘するようになった。
もし自分が動けなくなった時、代わりに働いてくれる存在の重要さを思い知ったのだという。
「家買ったばかりだから、うちに金が無いんだ」
と言い訳して断っていたけど、そのうち習うようになるんだろうな、と予感はしていた。
何故かって、俺は魔塊狩りをまだやっていたからだ。木刀での素振りも欠かして無かった。
「今日の魔塊はオタマジャクシよ。蛙魔塊になる前に処分するようにっていうのが本部からの指令。街の外れの池なんだけど、どう? 蛙とか平気な方?」
ペアを組まされることが多くなった俺と鈴原さんは、時々喧嘩しながらも仲良く魔塊狩りを続けていた。鈴原さんの傷が開くといけないので、しばらくは簡単な仕事を俺が一人でこなしていくという形でやっている。鈴原さんは後ろから見守って口を出すだけ。
新源氏清零は常久さんとふたばが持って行ってしまったので、俺は新しい刀を打ってもらった。名前は新源氏スーパー。俺が名付けた。
「だっさ」
と鈴原さんに言われたけど、これがなかなかの斬れ味で、何度か仕事をこなしたがまだ刃こぼれ一つしたことがない。
どうしてなの? と不思議がる鈴原さんに、「使い手が良いんだよ」と言うと、訝しげな顔をしていた。俺の素振り剣術、舐めてもらっちゃ困るぜ。
さて、オタマジャクシの魔塊だ。まだガキなので余裕と思っていたけど、これが意外とすばしっこい。
たあ、やあ、と刀を振り回してみたものの、当たらない。
早くしないと手足が生えてくるわよ、という鈴原さんに、そんなに早く成長するわけが……と言っていた俺は驚かされた。
ちょろちょろと手足らしきものが生えている。
普通のオタマジャクシの何十倍もある大きさ。それが猛スピードで成長しているのだ。
これが蛙になって襲いかかってくると思うと……もう逃げ出したい。
「そらっ! 音無君そっちに行ったわよ!」
「えっ、あっ、はい!」
「今度はこっち!」
「クソッ、速いしヌルヌルしてるし……もう!」
こんな感じだったが、何とか退治出来た。
本当に、蛙魔塊と戦わなくて良かった……。
魔塊退治が一段落したところで、俺は再び遠鬼の墓に行った。もうふたばはいない、一人でだ。
饅頭からスナック菓子まで、たっぷりと置いてきてやった。これで満足してくれるだろう。
──常久さんとふたばは、どこへ行ってしまったのだろうか。お空に昇ってしまって、今頃遠鬼とワイワイやっているのだろうか。
もう分からないことだけど、あの世で幸せになってくれていると嬉しい。
「考えたって、どうしようもないことよ」
鈴原さんは冷たく言うが、きっと心の中では心配しているに違いない。このツンデレめ。
「アアア~ア~ア~♪」
今日は優と茜ちゃんにカラオケに連れて行かれた。
何故か二人共七十年代ぐらいの古いロックが好きで、そればっかり歌う。優は元々流行のポップスしか歌わなかったので、茜ちゃんが教えたんだろう。
しかしハードロックばかりはしんどい、よく喉が持つな、二人共。
「──私聞いたことがあるんだけどー」
マイクを握った茜ちゃんが急に話し始めた。
「何かー、化け物から秘密に街の平和を守ってる組織があるって聞いたんだけど、お兄ちゃん知らない?」
「全く知らない」
こういう時嘘をつくのはちょっと心が痛む。
「私もとう! とう! って悪い化け物をやっつけてみたいなー」
茜ちゃんは意外とロックな性格をしてるな。
音楽の影響だろうか、元々の性格がそうだからロックが好きなのか。
新しく買った家が賑やかになりそうだ。




