第六章 2
俺たちは近くのショッピングモールまで歩いて行き、そこで遊ぶことになった。というか、茜ちゃんの買い物に俺が付き合わされてるんだけど。
「何ですかこの身勝手な女は! いくら静也さんの妹になる人だからって、わがままは許しませんよ!」
ふたばは声を荒げて言う。
「まあまあ、俺たちが仲良くなってれば、母さんもいろいろやりやすいだろ」
「さっきから何一人で喋ってるんですか? キャハハ、面白い!」
茜ちゃんは上機嫌だ。レストランで食事した時より良い感じ。
「私アクセ欲しいんですよね。一緒に見に行きませんか?」
そう言われて、俺は女の子で混雑しているアクセサリー屋さんに連れて来られた。プラスチックやゴムで出来た安物のアクセサリーが乱雑に並べられている。
「あ、これなんてどうですかー? お兄ちゃんとおそろで付けられますよー」
茜ちゃんがアクセサリーを見せてくる。それは、五百円の赤っぽいゴムの腕輪だった。なるほど茜色ね。
「欲しいなー、お兄ちゃんもそう思いますよね?」
それは買ってくれという意味だろうか。そうなんだろうな。
「分かった分かった。でも俺、今月ピンチだからこれだけな」
「やったー! さすがお兄ちゃん、ありがとう!」
まあこんな物でこれだけ喜んでくれるなら……悪くないか。
茜ちゃんとのデート? を終え、俺たちは別れてそれぞれの家に帰って行った。
しかしその途中、俺の登下校路の向こうから歩いて来た鈴原さんと鉢合わせした。
「わっ」
と驚いたのは、鈴原さんの方だった。
「稽古の帰り?」
と俺が尋ねる。鈴原さんは放課後火、金は剣術の稽古に出かけるのだ。この道を通って。
「ま、まあね。ちょっとサボると感覚を取り戻すのに時間が掛かるから、休めないのよ」
「それはそれは……」
「音無君も習いに来る? ちゃんと素振りはしてるんでしょ」
まあ、そうだけど……今はちょっと家がバタバタしてていけないかも」
「バタバタって?」
「母さんが再婚するからさ」
「ああ、そうだったわね。おめでとう」
鈴原さんは二、三度頷いてそう言う。
「それでさっき相手の連れ子と会ってたんだけどさ……ちょっと振り回されちゃって」
「女の子なの? その子」
「ああ。一つ年下でかわいくて良い子だよ」
「わがままですけどね!」
とふたばが付け加える。
「ふーん……」
「見てください! 装飾品まで買わされて!」
「そういえば音無君そんな物付けて無かったわね。いいんじゃない? 剣術やってると邪魔だけど。お似合いよお似合い」
……何かチクチクと言われてるぞ。
「あ、いや、お揃いにしたいからって彼女が……」
「お揃い? お揃いで付けてるの? 音無君そんなことをする人じゃないと思ってたけど、女の子に頼まれたらやるんだね」
ああ~、何か怒ってるぞ。静かだけど分かる、鈴原さんは血管ピクピクときている!
どうしようか何て言おうかと考えていると……。
「いたぞー、あいつだ‼」
そんな声が聞こえてきた。男が五人ほど、こっちに走って来る。
──さっき茜ちゃんと一緒だったやつがいる。仲間を連れて帰って来やがった。
俺と一緒に鈴原さんまで囲まれてしまう。クソッ、俺一人ならリンチぐらいされても構わないんだけど……。
「よく分からないけど、ピンチなら手を貸すわよ」
鈴原さんは、肩に掛けていた布袋を下ろして構える。
さすがに魔塊狩り以外で真剣は持っていないだろう。木刀か竹刀だ。
「ごめん、迷惑をかける!」
「何だその女? 俺たちがかわいがってやろうか」
茜ちゃんに振られた男が指図して、じわじわと五人が距離を詰めてくる。
「かかってきなさい」
鈴原さんがそう言うと、まず俺に黒い服の男が飛びかかって来た。
「音無君、しゃがんで!」
鈴原さんがそう言うので俺は膝をつくと、頭の上を鈴原さんの剣が通り過ぎた。
「グフッ!」
黒い服の男が鈴原さんの突きで後ろに吹っ飛ぶ。
「こいつ!」
次に赤パーカーの男。鈴原さんは脛を狙って剣を打ち込んだ。
「いってぇぇ──!」
赤パーカーの男はひっくり返って脛を押えている。
「さあ、次は誰⁉」
鈴原さんの気迫に残りの三人が押されて、顔を見合わせている。
「このクソ女────‼」
三人同時にかかって来た。男としてのプライド無しか!
「はあ!」
ビシッ!
「たあ!」
バシッ!
あっという間に二人をやった。残りは一人。
「こ、ここここの女! 何なんだてめえ!」
残ったのは茜ちゃんに振られた男。こいつをやらないと俺はずっと狙われ続けるかもしれない。
「許さないわよ」
静かに鈴原さんは言う。
「クソ女って言ったこと、許さないからね‼」
そして、鈴原さんの綺麗なメンが男の頭に決まった。
「いやあ、助かったよ。鈴原さんがいなかったら俺ボコボコにされてた」
「しっかりしてよ、男の子でしょ」
頼りない男を見るのが嫌なのか、鈴原さんはいつもこういう言い方をする。
俺が自動販売機で買ったスポーツドリンクを鈴原さんに渡すと、力強く蓋を開けて豪快にゴクゴクと喉を鳴らした。
「本当、俺みたいなもやしじゃなくて、鈴原さんが源常久の生まれ変わりならなあ……」
「静也さん、またそんな弱気なことを!」
ふたばが俺の胸をポカポカ叩く。
「……音無君は、自分が思っているほど弱くないわよ」
「え?」
「強いっていうのは剣の実力だけじゃない、内面の強さのことも言うのよ」
「…………」
「これまで私に付き合ってくれて、音無君の心は強いと思った。逆に心の弱い者は、峠剛士みたいに闇に落ちてしまう。魔塊狩りがああなったらお終いよ」
鈴原さんは飲みかけのスポーツドリンクを俺に渡してくる。
ちょ、これって間接キ……。
「頑張りましょう、お互い、魔塊狩りとして」
「う、うん……」
俺は思い切ってペットボトルに口を付けて、スポーツドリンクを飲み干した。




