第六章 1 陰陽の鬼
その日、学校が終わり校門を出て考えごとをしながら歩いていた。
考えごとというのは、もちろん鈴原さんと峠のことだ。
今朝、教室に入って真っ先に鈴原さんに挨拶した。
「おはよう」
しかし鈴原さんはどこか上の空。
「え? あっ、おはよう」
と戸惑い気味に挨拶を返された。
彼女も考えごとをしていたのだろうか。峠に細川君のこと。この間の出来事できっと悪い思い出がぶり返してしまったに違いない。大丈夫か、と心配するけど、今の俺には何も出来ない。
いろいろ思い悩みながら、学校前のアーケード商店街を歩いていると、制服姿の女の子が男に手を引っ張られていた。ミヤコーの制服ではないが……。
「ちょっといい加減放して!」
「何で嫌がるんだよ茜、お前何なんだよ、わけ分かんねえよ!」
「いいから! もうあんたとは切れたの!」
「切れたって……付き合ってまだ一週間も経ってねえぞ!」
「何かキモくて無理になった! それだけ!」
「ハア? そんな言い訳あるかよ!」
……別れ話か。それにしても一週間とはお気の毒な。
「お前、マジで手を出してもいいんだぞ!」
「何それ最低! あんたのこと学校のみんなにスマホで流してもいいんだからね!」
おっ、現代の武器の前では男もこれ以上は無理か?
「やれるならやってみろよ! お前がクソ女ってことも一緒に伝わるだろうよ!」
男も負けてないな。
何か面白そうだから見ていると、男の方に因縁をつけられた。
「おい、何見てるんだよ!」
だって楽しそうだから。
「ああ、いや別に何でも無いから。続けて続けて」
俺がそう言うと、女の子の方も俺をじろっと見てくる。
「助けてくれないんですね」
と言ってきた。
助けても何も、初見のカップルをどうしろと……と思うと、その女の子はよく知っている、白石茜ちゃんだった。
そういえば男の方が茜って呼んでたな……。
しょうがないな、と俺は路地に落ちていた木片を拾うと、男に向かって構えた。
「もう止めとけよ、女の子に手を出すとか格好悪いぞ」
俺がそう言うと、男はファイティングポーズをとる。
「何だやってやろうじゃねえか! そんな棒切れで何が出来るんだよ!」
そう言って、殴りかかって来た。
「静也さん、無駄な喧嘩はしない方がいいですよ!」
と付いて来ていたふたばが言うが、俺は自分でも珍しく好戦的になっていた。
最近の魔塊狩りがそうさせたんだろうか……。
「来いよ!」
男に向かって叫んでいた。
「おらあああああ!」
男が向かって来るが、俺は体を反転させ、「うりゃ!」と木片を振り下ろした。
そうすると、木片は男の脳天に直撃し、グシャと砕けた。
「がっ……!」
男はふらりとして頭を押さえ、尻もちをつく。
「な、何なんだてめえ、覚えてろよ!」
そう言ってよたよたと男は走り去って行った。
「……茜ちゃん、大丈夫だった?」
俺が声を掛けると、茜ちゃんは笑顔になっていて、俺をキラキラした目で見ていた。
「すごーい、強いんですね!」
そんなに本気になったわけではないが、上手くいった。
自分でも驚いている。そうだ、喧嘩したのはまるで今の自分の実力を試したような……そんな気がしていた。
「静也さんがお兄ちゃんだとこれからも安心ですね!」
茜ちゃんはまるで抱きついて来そうに──ってのは大袈裟か。ぐいと前のめりになってそう言う。
「あ、いや、こんなことになる前にちゃんとしないとね。さっきの男は彼氏なんだろ?」
「元、です。もう彼氏でも何でもありません。強引な人で嫌だったんです」
それにしても一週間とは……この子の方にも問題があるんじゃないかと思える。
「これからどこか行きませんか? お兄ちゃん!」
そう言って茜ちゃんは俺に腕を絡ませてくる。参ったなあ、まあ親が結婚するなら俺たちも仲良くなっておくべきなんだろうけど……。




