第五章 2
俺たちは淡々と森の中を進み続ける。
ふと、そこで心配ごとが……。
「……熊とか出ないよね?」
「出ないわよ。出て来たらご自慢の清零で叩き斬っちゃえば?」
「そんな、罪の無い動物を殺すだなんて……」
「罪はあるわよ。私たちを襲ったっていう罪が」
俺はちょっと驚いた。そこまで言い切れるんだ、鈴原さんは。
「……クールだね鈴原さん」
「酷い冷血女だって思った?」
「うん、思った」
「でも、やらなきゃやられるのよ。じゃあやるでしょ? 音無君もきっとそうする」
俺が罪の無い動物を殺す、か……。
「いや……俺は殺さないね」
「殺すわよ。お腹が空いたらウサギを捕まえて殺して食べる。そういうものよ」
「いや、殺さない」
「強情」
「鈴原さんもね」
峠剛士の言っていたとおり、鈴原さんはこういう性格だ。
──あっそうだ、峠剛士……。
「鈴原さん、落ち着いて聞いて欲しいんだけど」
「私はずっと落ち着いてるわ」
「俺、峠剛士に会った」
…………。
「何ですって⁉ どうして早く言わないのよ! 黙ってたのよ! 普通言うでしょ! なに⁉ 意地悪なの⁉ 馬鹿なの⁉」
その後、ブチキレた鈴原さんを宥めるのに二十分ほど掛かった。
「ハァ、ハァ……まあいいわ、それで? どこで会ったの?」
「大通り、俺んちの近くで。向こうから話し掛けてきたよ。良い外車に乗ってた」
「チッ!」
それだけで舌打ち……よっぽど憎いんだな峠のことが。
「歩いてた俺に車で寄って来て、窓を開けて声を掛けてきた。俺はその日、斎藤と四神獣の神社を回っていて、その帰りだったんだけど……。俺の顔も知っていたし、鈴原さんとの関係も知っていた」
鈴原さんはギリッと歯を噛みしめて、悔しそうに右の拳を左手に打ちつける。
「出て来るなら私の前に出て来なさいよ……!」
そう言って足元の小石を蹴飛ばした。
「それで⁉ 他に何を話したの⁉」
「人を斬って刀を持ち逃げしたのは本当なのかって。そしたら『本当だよ』って言ってた」
鈴原さんの眉尻が吊り上がって、般若のような顔になる。
こんな顔するんだ……鈴原さん。
怖いというよりも、ここまで感情剥き出しにしている鈴原さんを見るのは初めてなので、ちょっと驚いた。
「それで、取り逃がしたの⁉」
「ああ、ごめん……向こうは車だったし……」
「言い訳しないで‼」
「ちょっとちょっと、車だったし仕方ないって言ってるでしょう! もうちょっと冷静になってください!」
ふたばが俺を庇ってくれる。
「不動の街を車で悠々と走り回ってるなんて、いい度胸してるじゃない! いいわ、峠剛士は私が絶対に捕まえてみせる! それで……!」
「そ、それで……?」
「場合によっては、殺すわ!」
「それは駄目だ! 冷静になってくれよ!」
「くっ……!」
──それから鈴原さんは一言も喋らなくなって、目的の場所へ向かって俺たちは黙って進んだ。
いくら魔塊狩りを裏切ったからって、そこまで怒るかなあ。仲間を殺したっていうところがネックなのか。それとも大切な刀を持ち逃げしたっていうところが? そのどっちも?
それにしても、やっぱり鈴原さんにも奥があったか……。
「子どもの頃から峠に剣を習ってたんでしょ? そこまで怒るものなの?」
俺がそう尋ねると、鈴原さんはキッと俺に鋭い視線を投げてきた。
「それとこれとは別!」
きつい声で言う。
近いからこそ余計憎らしい。そういうことなんだろうか。
鈴原さんだけじゃない、魔塊狩りという組織全体が峠を追っているのだろう。……やっぱり裏切り者には厳しいんじゃないかよ! まあ、人を殺してるから当然といえば当然なんだろうけど。
「冷静になろう。とにかく今日の俺たちの仕事をやり遂げよう」
「私は冷静よ! あと二キロ!」
で、鈴原さんが本当に冷静さを取り戻すまで──二キロを要した。
「鈴原さん、心は静まった?」
「ええ、もう大丈夫。音無君、体は?」
「……ハア、だるい」
「もうすぐ着くわよ」
一体何があるっていうんだろう、こんな森の中に。




