第四章 1 四神獣の神社
「なあ、どうして不動市に魔塊がたくさん出るようになったんだ?」
学校の屋上で、ジャムパンを食べながらふたばに尋ねた。
「いろいろ理由はありますが……私がこの街に来て感じたのは、四神獣の調和が崩れているということですね」
「ししんじゅう?」
「はい。北に玄武、東に青龍、西に白虎、そして南に朱雀です」
「全く分からないんだけど……」
「東西南北を守護する神獣のことです。日本では昔からこの四神獣を崇め奉ってきました。京都なんて分かりやすいですね、街の構造自体がそうなっているんですから」
「どうしてその四神獣のバランスが崩れているんだ?」
「さあ、そこまでは……。静也さんのご友人に歴史に詳しい人がいらっしゃるじゃないですか。その人に訊いてみれば何か分かるかもしれません」
「斎藤か。常久さんのことも知ってたし、何か情報を聞き出せるかも……」
またそれとなく話してみるか。
「ああ、それからふたば」
「はい、何ですか?」
「常久さんってどんな人だったんだ?」
「常久様ですか? そうですね、常に自分に厳しく他人に優しい、自己研鑽を怠らない立派な方でした」
「そうか、俺にそっくりだな」
そう言うと、ふたばが目を細めてじーっと俺を見てきた。
「な、何だよう」
「ハア、あの時少しの間だけでも常久様に戻られたのは何だったんでしょう……」
空井山でのことだ。確かにあの時、俺は自分じゃなかった。
「俺は俺、常久さんは常久さんだ。あんまり期待するな」
「期待しますよ! それは当たり前です!」
「はいはい俺は常久さんの転生者です生まれ変わりです。これからも魔塊狩りとして頑張るから付いて来いよ」
「もちろんです! どこまでもお供します! 学校でもおトイレでも!」
いや、それは迷惑だから……。
──魔塊狩りとしてか。しっかし驚かされたのは高子先輩。あんな小さい人でも魔塊狩りをやってるんだよな。しかも腕が立つ。
魔塊狩りってどういう組織なんだ? どういう情報網で俺のところまで蜘蛛魔塊退治の応援要請が来たんだ? 俺はもっと魔塊狩りのことについて知るべきなのかもしれない。
それだったらまずは……彼女に訊くべきだな。
彼女とは老舗の喫茶店で待ち合わせた。
柔らかそうな素材のシャツに、手の込んだ編み込みのスカート。
上下赤で揃えている。
へえ、こういう私服なんだ……セーラー服も良いけど、こっちも良い。
「突然何のことかと思ったら、魔塊狩りについてもっと知りたいだなんて」
彼女……鈴原さんは少し不機嫌な感じでそう言った。
「ごめん、わざわざ呼び出して。学校でも良かったんだけど、二人でいるところを見られて妙な噂が立つといけないと思ってね」
「自意識過剰よ。みんな私たちのことをいちいち気にしたりしないわ」
「やっぱ、そういうところ、見えてないんだよなあ鈴原さんは」
「な、何よ、見えてないって!」
「鈴原さんのことを見てる男子はいっぱいいるよ。俺はそいつらから恨みを買いたくない。だからこうして外で会ってるんだ」
「……そうなの。自分のことは案外分からないものね」
「そのとおり。まあコーヒーでも飲みながらゆっくり話そう」
「魔塊狩りのこと、ね」
「ああ、魔塊狩りの組織を知りたいんだ」
「魔塊狩りの組織には何か特殊な名前があるんでしょ? そんで裏切ったら殺されるとか」
「殺されないわよ。組織としての名前はそのまんま、魔塊狩り支援本部。京都にあるわ。ここを中心に日本全国の魔塊狩りは動いている」
「へえ、京都」
「平安時代からあるからね。表向きは和菓子屋をやったり酒造をやったり。それにアウトドアメーカー、IT関係とかもね。まあいろいろやってる」
「ふんふんなるほど」
鈴原さんは運ばれてきたコーヒーに口を付ける。
「……基本的には本部の言うとおり動くけど……中には言うことを聞かない人もいる」
「ほらやっぱりいるんじゃん、裏切り者」
「裏切り者というか……まあ裏切り者か。仲間を殺して大切な刀を奪って逃げた人がいたわ」
鈴原さんはそう言って唇を嚙む。
「私は個人的にその男を追っている。でもまるで手掛かりがない」
「男? 男なのか? そんな怖い人を鈴原さんが追う必要あるの?」
「私が子どもの頃から剣を教えてくれていた人なのよ。名前は峠剛士。信じてただけに許せない人よ」
鈴原さんはカチャカチャとスプーンでカップをかき回す。かなりイラついてるなあ。
「その峠剛士はもう魔塊狩りじゃないの?」
「分からない。全てが謎よ。どうして刀を奪って逃げたのか。今どこにいるのか」
「俺も手伝うよ、峠剛士っていう人を探すのに」
「ありがたいけど、あなたは今不動市で続発する魔塊出現に対処することに専念して頂戴。ふたばちゃんも、ね」
「……気配を消していたつもりでしたが、気づかれてしまいましたか」
ふたばがカウンターから顔を覗かせる。当然店員にも周りの客にもふたばは見えていない。
「……分かったよ」
子どもの頃からの因縁か。これはおいそれと手が出せるものじゃないかもしれないな。
俺が座っていた席から立ちあがると、鈴原さんはこう言った。
「期待してるからね。ただ命は大事に……ね」
鈴原さんに優しくされると、他の人の何倍も嬉しい気分になる。




