第三章 3
「さて、ふたば。これを見ろ」
俺は地図を広げてふたばに見せた。
「ここはどこですか?」
「不動市の、特に俺たちが住んでいる周辺だよ。これは学校の図書館で借りてきた地図だ。俺たちは不動市中央区のここ」
と指を差す。
「に住んでいる。俺たちが蜘蛛魔塊を探すのは、ここら辺を中心にしてだ。頭に入れとけ」
「はい、今頭に入れています」
ふたばは真剣に地図とにらめっこしている。
「……とまあ急に言っても全部が頭に入るわけじゃないだろう。土地勘のある俺が自転車で先導するから、お前は付いて来い。お前の鼻が頼りだ。魔塊の臭いをキャッチしたら俺に教えろ。よし、それじゃあ行くぞ」
「了解しました!」
夕刻、俺たちは蜘蛛魔塊を探しに出かけた。優が早く帰っていたので、「今日は遅くなるから、ごはんは要らないって母さんに言っておいてくれ」と頼んで、私服に着替え自転車に乗って不動の街を駆けた。
「人を捕食するって言っても繁華街に出るとは思えないし、公園とかかなあ」
と大きな公園に寄ってうろうろしてみたが、ふたばの鼻に反応は無い。
「別の公園に行きましょうか」
「うーん、そうだな」
そうして公園を順番に回って、夜になりコンビニでパンを買って食べていると、お巡りさんに注意されてしまった。
「君、学生?」
「は、はい……」
「家は近いのかい? 親御さんが心配されているから早く帰るように」
「はい、すみません……」
正義のために働いている俺が、正義のために働いているお巡りさんに注意される。虚しい。まあ向こうも仕事だし、正義と正義がぶつかるとこうなってしまうのだ。
「何ですか! これだから下っ端の警察官は! 平安京でも検非違使は偉そうで嫌いでした!」
とふたばはプンプンしている。
「仕方がない、今日のところは引き上げるか」
俺とふたばがマンションに向かっていると、スマホの着信音が鳴った。自転車を停めて画面を見てみると、相手は……鈴原さん。
「もしもし」
「音無君? 今どこに居るの?」
「ここは……どこだろうな。目印が無い。とにかく中央区だよ」
「ちゃんと蜘蛛魔塊を探してるのね」
「そりゃそうだよ。こう見えても責任感はある方なんだからね。さっきまでは……自転車で走り回ってたよ。でも成果なしだね」
「そう、お疲れ様」
「そっちはどう? お巡りさんに見つかってない?」
「見つかってないわよ。あなた注意されたの?」
ハア、と俺はため息をつく。
「結構しつこく説教されたよ。全く、誰のために俺がこうして動いてるんだと……」
ぽろぽろ愚痴をこぼしそうになった。
「しっかりして。これからが大事よ」
「え? あ、はい!」
ピシッ、と背筋が伸びるような感じがした。なんか魔塊より鈴原さんの方が怖い。
「そこから空井山は近い?」
「空井山……まあ行けない距離じゃないけど」
「じゃあ向かってくれる? どうも出たらしいのよ」
「蜘蛛魔塊が? 随分早いご登場だね」
ふたばが言っていた、速い、多い、強い、という言葉を思い出した。
「現場の魔塊狩りと合流して。協力して戦ってね。出来るでしょ? あなたなら」
簡単に言ってくれる。
俺は電話を切ると。
「蜘蛛魔塊発見だ。行けるか?」
とふたばに言う。
「もちろんです!」
ふたば空中で回転して、すたっと下りてきた。
「場所はどこでしょうか⁉」
「空井山っていう、ここからそう遠くない小山だ。高さは二百メートルってところだな。小学生の時遠足で行ったことがある。住宅街にあって、朝や夜に近くの住民が散歩している」
「さすが、お詳しいですね!」
「まあな。っていうか、中央区の住人なら知らない方がおかしいぐらいだ」
「へえ、そうなんですか」
「ただな、気を付けなけりゃいけないことがある」
「何ですか?」
「空井山は、江戸時代には罪人の死体を葬る場所だったんだ」
「そんなのを怖れてるんですか? 本物の幽霊がここに居ますよ」
「まあそうなんだけどな」
「じゃあ行きましょう、空井山へ!」
元気良く飛び上がって飛んで行ったふたばだったが……。
「……すみません、道が分かりませんでした」
と引き返してきた。こいつのせっかちなところ、いい加減治らないだろうか。




