第三章 1 蜘蛛の糸
「出ろよ出ろよと思っていると出ないんだよなあ」
「静也さん、例の蜘蛛を探してるんですか?」
下校中、俺は蜘蛛が出そうな場所を探し回った。青い背中が特徴の、ブラジルアオツチグモ。大きさは小学生の手のひらに乗るぐらいというが、小学生だって一年生から六年生までいる。テレビやネットの情報がまだ整理されていないのだ。いい加減なニュースばかり垂れ流しやがって。
「静也さん、鈴原さんのお宅へ行ったんですよね? いかがでしたか?」
「うーん、良い家で人も良かったけど、鈴原さんに清零を渡せって言われたよ」
「なっ! そんなこと出来ませんよ、あれは常久様が持ってこそ真の威力を発揮する刀です! 常久様、つまり静也さんです!」
「いやあ、でもちょっと荷が重いっていうか……それに平安時代の刀だろ? ボロボロになったりしないのか?」
「新源氏清零は、百日を超える祈祷で魔塊を斬る神力が込められた刀です! そこらのなまくらとは違うんですよ‼」
フーッ、フーッ、と荒く呼吸して、「全く無礼な女ですね!」と言ってぷいとふたばは横を向いてしまった。
鈴原さんとふたばには喧嘩して欲しくないんだけどなあ。まあどこかのタイミングで気が合うことがあればいいんだけど。
「でも驚いたのは、お父さんをもう亡くしているってことだな。祖父母に育てられたらしいけど……」
「そんなの静也さんだって同じじゃないですか! 平安時代ならそれこそいっぱいいましたよ! 一人親なんて珍しくありません! そんな、世界で自分が一番可哀想みたいな感じを出すのが気に入りませんね!」
「お前、そこまで鈴原さんをぶっ叩かなくても……」
「静也さん、今日は帰って特別に素振り追加ですよ! 静也さんには早く強くなっていただかないと!」
果たして俺の手がもつのかどうか。そこら辺も考えてもらいたい。
──それから後、結局毒蜘蛛も蜘蛛魔塊も見つかることなく、二週間が経って──。
「見つかりませんねえ」
俺の部屋のテレビを観ながらふたばはそう呟く。
「見つからないなら見つからないでいいじゃないか。不動市には蜘蛛魔塊はいない、それで済む」
俺はちょっと毒蜘蛛の件について飽きていた。
毒蜘蛛が最初に見つかったのは横浜だ。同じ関東だけど不動市からはちょっと遠い。
「いいですか静也さん、蜘蛛が糸を出すのは口ではなくお腹の先端です。そこら辺を間違えないでください」
「へえ、口じゃないんだ。特撮とかアニメの影響で口から糸を吐くものだと思ってた」
「蜘蛛魔塊の退治なら経験があります。それに蜘蛛を突っついて糸を出させて遊んでました。間違いありません」
「平安時代って暇だったんだな」
「暇とか言わないでください! そういう時代の積み重ねがあって今があるんですよ!」
「悪かった悪かった、そのとおりだな」
またテレビのニュースに観入ってしまったふたばをそっとしておいて、俺は鈴原さんに電話を掛けてみることにした。高速で打ち込まれた鈴原さんの電話番号。果たして合っているのか。
プルルルルルル……。
「はい、もしもし」
間違いない、落ち着いたトーンの鈴原さんの声だ。
「鈴原さん? 俺だけど」
「オレという人に知り合いはいません」
「ああ、ごめん、音無だけど」
そうか、俺は鈴原さんに電話を掛けたことが無いから、彼女のスマホに番号は登録されてないんだ。
「音無君? もっと早く電話してくれるものだと思ってた」
「ごめんごめんうっかりして。今大丈夫?」
「大丈夫だけど……もうすぐ夕食だから」
「あっそうか、じゃあまた夜に掛けるよ」
「用事の内容ぐらい言って切ったら?」
「ああ、ふたばがここ最近ニュースをずっと観てるんだけど、毒蜘蛛の続報が無くてね」
「もうテレビ局も飽きたんじゃないかしら」
「だよねえ。いつまでも蜘蛛のニュースじゃ視聴率取れないだろうし」
「ふたばちゃんによろしく言っておいて。それじゃあ」
ピッ。
あっという間に電話を切られた。
分かってはいたけど、結構な塩対応だこと。
「ふたばー、鈴原さんに電話してみたけどもうニュースを見るのは止め……」
「出ました! 毒蜘蛛の続報です! 生息予想範囲には不動市も含まれていました!」
何というバッドタイミング。




