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第三話 潔く諦めてもらおう

 木村町の闘いから数日後、昼食後の町内巡回を行っていると見知った女性と出会った。


「おや、もう再生槽から出られたのか。甲村スミレ787」


「ソレは前回蒸発したヤツ。わたしは788だ」


 ああ。言われてみれば耳朶にその刻印が在る。


「それは失敬。あまりに頻繁ひんぱんに代替わりするせいで憶えられなくてな」


「あんたの脳ミソがポンコツなダケでしょ。また真っ昼間からぷらぷらして。仕事見つかったの?親に食わせてもらって恥ずかしいと思わないのかい、このプータローが。

 同じすねかじりでも、コンビニバイトやってる高校生の方があんたの百億倍立派だね」


「正義の実行がオレの仕事だ。ぷらぷらして居るのはオマエも一緒だろう」


「わたしはスーパーの店員だ。いま昼休みで、所用で郵便局まで行って戻る途中。一緒にすんな。幼児にさえゴクツブシって言われたクセに、まだグダグダが治らないみたいだね」


「ぐ、何故なぜそれを知っている」


「由美チャンは、わたしの従姉と同じ幼稚園に通っている仲良しなんだ。あんたはソコじゃ有名人だよ。この界隈かいわい随一、殺しに殺しまくっている人殺しロボットの運転手って」


「オレは人は殺さない。悪をらしているダケだ」


「あんたが闘いの最中、消滅させた人間はすでに五桁を越えてるだろ」


 甲村スミレは畳み掛ける。


 無尽蔵に再生出来るからってやり過ぎた。

 自治体からあてがわれた再生権を使い果たして、記憶と人格を二進法コード化された人達はもっと多い。彼らは圧縮テキストデータとして記憶媒体に記録されたまま、人間銀行の地下金庫で眠ったまんまだ。


 いつ国の余剰予算案が認可され、再生費用が下りるのかは分からない。だからその日までズッと世間から切り離されて保管されている。


「これじゃあ、死んでるのと変りがないだろうが」


「口をつつしめ。彼らは眠って居るだけだ。死んじゃ居ない」


「半年前、あんたは隣の市のタッタイマ町とやり合って、その地区の人間銀行を消滅させたよね。何万人分のデータが収められていたか知っているのかい」


「……流れ弾だったのだ。オレはタッタイマ・キングの必殺光線をブロックしたに過ぎない。拡散反射したその先に……正義の為やむを得ない犠牲だ」


「聞いてるよ。本来、手を出す必要もない案件だったんだろ。ソレを脇からクチバシ突っ込んでき回して。挙げ句の果て、隣の市を壊滅状態にして」


「正義というものに境界線は無い。義を見てせざるは勇無きなり」


 胸を張って断言した。恥じ入るところなど微塵も無かった。正義は正義だから正義なのである。

 だのにコイツは「はっ」と鼻で笑って見せるのだ。その無作法さが腹立たしい。


「まぁ、どんだけヒトをぶち殺そうとわたし達は罪に問われないさ。世界中に蔓延まんえんしている『まぁ、いっか症候群』のお陰で法はあって無きがごとし。衛星軌道上の宇宙人さん達からふんだんに技術供与を受けて、死んだり生き返ったりも思いのまま。

 盛大にお互い殺し合って、人類の物理的な数はもう最盛期の千分の一だわ」


「……だから何だ」


「べっつにぃ~。人類が絶滅しようがどうしようが『まぁ、いっか』。いまこの瞬間を生きているならソレでいい。いまココで消滅しようがどうでもいい。まぁ、いっか。コレで終わりだわ。

 宇宙人さん達が何をしたいのか、何を考えて居るのかシッタコッチャナイ。まぁ、いっか、よ。ヒトの生死が軽くなると世界も軽くなるのね」


「さっきから何を言っている。そんな話当たり前だ。小学生だって知っているだろ。オレへの当てつけじゃなかったのか」


「べっつにぃ~。そのしょぼくれた脳ミソをちょっとは絞ってみたら?人間、疑問を持たなくなったら終わりよ。でもまぁ、全ての悪を懲らしてあんたが人類最後の一人となったとき、『どんなお気持ちですか』って、ちょっとインタビューはしてみたいかな」


 甲村スミレはオレを横目に眺めながらオレを見透かし、どこか遠くを見る目で言葉をつむぐ。


「案外、宇宙人さん達もわたしらのコロシアイを見て楽しんで居るのかもね。わたし達に技術を無料提供してるのもそれが目的だったりして。『まぁ、いっか』も彼らの仕込みかも」


 そう言って「はっは!」と軽く笑って見せるのだ。


 不意に、無人の荒野の中に独りたたずみ、正義を叫ぶオレとマンシオンの姿が浮かんだ。


 慌てて頭を振る。

 ええい、この口先だけの小悪魔め。オレを心理攻撃で戦闘不能にしようと目論もくろんでいるのか。マンシオンの無いオレなら組みしやすしと考えて居るのか。


「在り得ん。オレは悪を懲らすのみ。人類の殲滅せんめつじゃあない。むしろその逆だ」


「あらそう?あんたの正義はあんたダケのものだと思っていたけれど。まぁ、いっか。どうでも良いわよね」


 散歩の邪魔して悪かったわ、甲村スミレ788はそう片頬で笑うと去って行った。

 散歩では無い巡回だと訂正したのだが、その背中はすでに曲がり角を曲がって見えなくなっていた。


 ええい、何なのだ。


 思わず舌打ちする。今回ダケじゃない、毎回毎回意味不明で思わせぶりなコトぬかしやがって。いつもいつも煙に巻かれ、上手く言い返せない自分が歯がゆかった。

 頭の中で何か引っ掛かるのだが、それが何なのか分からなくて腹立たしかった。


 相変わらず不愉快なヤツ。


 まぁ、いっか。ヤツはヤツ。オレはオレだ。


 気持ちを切り替えるとその場できびすを返し、あいつが消えて行った方向とは真反対へ向けて「巡回」を再開した。




 今日も正義の為に闘った。


 相手は町の境界線で揉める鈴木町のロボット「ザ・鈴木」だ。


「いくぞ、マンシオン」


 変形と同時に居住区画がねじくれ歪み動き出す様に、住民の皆様が悲鳴や絶叫を上げる。自分の部屋の壁や床や天井に押しつぶされた者も居るだろうが耐えてくれ。直ぐに済む。


 ザ・鈴木はガスタンクからの変形を終えてファイティング・ポーズを取る。

 すかさずヤツが四本の腕から繰り出したのはエクスパンド・パンチ。時間差攻撃の連打を辛うじて避ける。㎞単位で伸びるヤツの腕は巨砲の砲弾と変わらず、その運動エネルギーは脅威だ。


 だがその程度ではマンシオンは打ち破れないぞ。


 アウトレンジは不利。ヤツの懐に入らねば。反物質エンジンの膨大な電力を使って大地を蹴る。衝撃で足元の新築二階建て木造住宅が吹っ飛んだ。路地のアスファルトが粉みじんになって飛び散ってゆく。


 マンホールの蓋が逃げ損なった郵便配達のオッサンに当たって、頭がペッチャンコになったような気がした。だが気にしない。いまは闘いの最中なのだ。些事さじにこだわっては大局を見誤る。


 ヤツの伸びた腕が戻って来た。バックモニターに大きく迂回して居るのが見て取れる。背後からマンシオンをからめ取るつもりか、小癪こしゃくな。


「マンシオン・スピン」


 蹴った。大地を。


 跳躍ちょうやくと同時に、機体の各部に在る反物質スラスターを全開。反重力エンジンと、それを利用した簡易慣性制御システムの補助を得て、両腕を組んだ状態の巨体が回転する。

 トリプルアクセルどころかクアッド、いや五回転すら夢ではないぞ。


 等比級数的に速度が上がる。

 尋常為らざる遠心力で、赤い液体が霧状に周囲へ飛び散った。


 うむ。マンシオンの中に居たナニかが沢山つぶれてしまったのだな。今は考えないコトにしておこう。この瞬間、最も重要なのはザ・鈴木を倒すこと。ソレのみ!


 マンシオンを掴み取ろうとする、野太いチューブのようなヤツのエキスパンド・ハンドを巻き込みながら、本体向けて飛び込んでゆく。

 回転力と質量と突進力とを凝縮した渾身こんしんの体当たり。


「マンシオン・アタック!」


 掛け声とヤツへの衝突はほぼ同時。大気を揺るがす轟音と共に二体分の巨体が転倒。再び大地が踊った。立て直そうと足掻あがくザ・鈴木の間隙を突いて、立ち直ったのはマンシオンが先であった。


 絡み付くエキスパンド・ハンドを引き千切り、トウ・キック。ボールの様なヤツの身体がボールの様に跳ね上がった。


 好機!


 地から脚が離れた状態では回避もままなるまい。


 浮いた相手に連打を入れる。

 両腕の速度はすでに音速を突破。衝撃波をまといながら殴る。殴る、殴る、殴る。ただ殴る。空中で無防備に打突を入れられて、ザ・鈴木は既にサンドバッグ状態。


 トドメに回し蹴りを入れて大地に叩き付ければ、大地が穿うがたれ、土砂が水のように舞い上がった。ヤツのボディが勢い余って弾みながら転がっていく。


 もはや周辺宅地は瓦礫の山。


 そして地獄。


 アチコチで水道管が破裂して送電線から火花が飛び、引火したガスが爆発を起こしていた。


 巨大ロボットたちが暴れる度に町の人々や中に住んでいる者たちは阿鼻あび叫喚きょうかん。泣け喚け死ね叫べ呻け苦しめの七転八倒。塗炭の苦しみを強いられている。

 だが耐えてくれ。ソレも全て町の平和を守るため。

 正義のための必要な犠牲なのだ。


 そして悪の芽は根絶させねばならない。反物質炉を臨界まで引き上げた。猛烈な磁場で周囲の大気が歪み重力すらねじ曲がる。


「マンシオン・クラッカー!」


 雄叫びと共に、起き上がろうと足掻くヤツへ轟音を立てて駆け寄り、必殺の右腕を叩き付ける。


 最大出力で振り絞った防御磁場をそのまま打撃武器として放つ、マンシオンの最大奥義。


 緊急展開したザ・鈴木の防御磁場を突き破り、そのまま炉心を打突粉砕。

 対消滅したエネルギーが解放されて巨大な火球が周囲を焼き払う。音速を超える爆風が波動衝撃波となって周囲をなぎ払い、半径一〇㎞四方が吹き飛んだ。


 プラズマ火球と爆煙が去った後、その中に立つはマンシオンただ一機。傷一つない、在る筈も無い。当然だ。出力全開で展開した防御磁場は伊達では無いのだ。


 おお、この勇姿よ。


 周囲は焦土で中心部はガラス状に溶けたクレーターと化して居る。だがコレは勝利の光景なのだ。悪は去り、正義の凱歌だけがココに在る。


「よし。これで山本山町と鈴木町の『秋の除草および川沿いの清掃』の担当範囲は、こちらの主張通りという事で決着だ」


 川沿いの雑草やゴミどころか河川そのものが蒸発しているが、まぁ、細かいコトだ。大事なのは「こちらの正義が立証された」その事実のみなのだから。


 やはり正しい者は勝つのである。

 余波で近隣の町も消滅したが些細な事だ。消し飛んだ住民達は、人間銀行から引き落とされたデータで再生されよう。吹き飛んだ家やインフラも大規模3Dプリンタで再構築されるコトになる。

 それで万事解決。「世はすべて事もなし」だ。


 しかしまた、悪がはびこるようなコトがあれば、再び焦土と化す日が来るのかも知れない。

 だが仕方がない、全て正義の為である。潔くあきらめてもらおう。

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