不一致
「……俺、なのか」
自分で言った言葉のはずなのに、やけに遠く感じた。
つばきは何も聞こえなかったみたいに、歩き出す。
「ちょっと、止まってると邪魔」
「あ、ああ……」
慌てて後を追う。
さっきまでと同じ景色。 人混み。
同じ、文化祭。
───なのに
「……なあ、つばき」
「ん?」
つばきは少し笑いながら振り返る。
その顔は、いつも通りで。
……だから余計に、聞くのが怖い。
「さっきのさ、“中身変わった”ってやつ」
「あー……それ?」
少し笑ったように言う。
でも、目は少しだけ逸らされていた。
「別に、深い意味ないよ」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
即答。
だけど――
「なんかさ」
つばきは、前を向いたまま続ける。
「前のあんたって、もっと“迷いなかった”じゃん」
「……迷い?」
「うん。なんていうか、ちゃんとしてた」
ちゃんとしてた。
その言葉が、胸の奥に引っかかる。
「今は?」
思わず聞いていた。
つばきは少しだけ考えてから、
「……なんか、外見、見た目は同じで」
つばきは首を傾げながら話す。
言葉を選ぶみたいに、慎重に。
「中だけ、違う人みたい」
──やっぱり。
足元が、少しぐらついた気がした。
「……そっか」
それしか言えなかった。
否定もできないし、肯定もできない。
だって俺自身が、今一番そう思ってるから。
「まあでも」
つばきがふっと笑う。
「別に嫌ってわけじゃないよ」
「え?」
「ちょっと変だけどさ」
肩をすくめる。
「それはそれで、面白いし」
軽い言い方だった。
でも────
ほんの少しだけ、安心した自分がいた。
「……なんだよ、それ」
「なにその顔」
つばきが笑う。
その笑顔は、やっぱり知ってるつばきで。
でも、どこか────
悲しい顔をしているように見えた。
「……っ」
一瞬、頭の奥に鈍い痛みが走る。
視界が、ぐらりと揺れた。
「ちょっと、大丈夫?」
つばきの声が、少し近づく。
「いや……なんか」
こめかみを押さえる。
さっきの言葉。
中身が違う
その感覚が、頭の奥で反響する。
────本当に?
俺は、俺なのか?
「……ねえ」
つばきが、少しだけ真剣な声で言った。
「無理してない?」
「してねえよ」
反射的に答える。
でも、その言葉はやけに軽かった。
「……ならいいけど」
つばきはそれ以上何も言わなかった。
ただ、少しだけ歩く速度を落とす。
そのさりげなさが、逆に刺さる。
……前の俺は
こんなとき、どうしてたんだろう。
もっと自然に、
もっとちゃんと────
つばきと楽しく
考えなくても、話すことができてたのか?
「あ」
不意に、つばきが立ち止まった。
「なに」
「これ、行きたかったやつ」
指さした先には、小さな展示スペース。
クラスごとの出し物らしい。
手作りの看板に、少し歪んだ文字。
『あなたの本性、見抜きます』
「……は?」
思わず声が漏れる。
「占いみたいなやつだって」
つばきが楽しそうに言う。
「行ってみる?」
冗談みたいな出し物。
でも────
胸の奥が、ざわついた。
本性。
見抜く。
まるで、今の自分を試されているみたいで。
「……どうするの」
つばきが振り返る。
その目に映るのは、
俺なのか、
それとも────
「……行く」
気づけば、そう答えていた。
この違和感の正体を、
少しでも知りたかった。
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